作戦の顛末
ストウハーフェン王国の王太子が殺された。
それも嫁入りしてきたリンラント王国の姫君の従者であった魔族にだ。
「どういうことですか!!?なぜ、カール=ハインツ様が殺されたのですか!!」
「しかも、リンラント王国の姫君にはおとがめなしとはどういうことだ!!」
リーンハルトは貴族たちの騒ぐ声に、思わずこめかみに手を当てた。
「今回の件で姫君には非はない。さらに言えば、今のリンラント王国にもな。問題なのは当時あの魔族を契約で縛ったものだ。今回の件で兄上が犠牲にはなったが、それで今のリンラント王国に必要以上にとやかく言う必要はないだろう。」
そういえば、やはり貴族の中には私を疑う声が上がる。
「リーンハルト様はカール=ハインツ様がお亡くなりになられたのに、随分と落ち着いていらっしゃいますね。」
「まさか、側室の子供であるご自分が王太子になられるなど思ってもみなかったのでは?」
まあそういわれても仕方がない。
実際に私もジルから計画を聞かされていなかったらもっと焦っていたし、自分が王太子になる重圧に押しつぶされそうになっていただろう。
「つまり、私が魔族の手引きをしたと?」
「いやいや、まさか!!ですが、何かご存じなのでは?」
まあご存じだがな。一から十まで全部ジルに聞かされているし、なんなら今兄上がどこにいるのかもわかっている。
「まあ、何が起こったのか、事の顛末はご存じだな。」
意味ありげにほほ笑みながらそう言うと、目に見えて全員の興味がこちらに向くのが分かった。
「まず、その魔族は不当にリンラント王国の王族に縛られていた。それを解放する必要があった。なぜだかわかるか?」
当たり前だが、魔族にいい感情を持っていないうちの貴族たちはいっせいに口をつぐんだ。
「私は将来的に魔族とも友好関係を築きたいと考えている。その理由としては、いくら魔王を倒そうとも、世襲制かはしらんがたびたび時代を超えて現れる。その度に魔物の被害におびえるのであれば、ここいらで一つ恩を売っておきたかった。」
「そのためにカール=ハインツ様を殺したのですか!!」
一人の貴族が俺を責め立てるために立ち上がり声を荒らげた時、会議を行っていた部屋の扉が開かれ聞き覚えのある、尊大な声が響いた。
「……………口を慎めよ。たかだか一貴族が王族たるリーンハルト様に何たる口の利き方か。」
「おい、お前ももう平民なんだから口を慎めよ。」
入ってきたのは友人のジルと、銀の仮面をつけた男だった。
金の髪に、銀仮面から覗く瞳は赤い。
その声も、態度も、何も隠すつもりがないのだろう。
「な!?カール=ハインツ様!?」
「いったい何の話だ。俺は平民のカールだ。それに、王太子であったなら、確か先日死んだはずだろう?国のために、な?」
「カール。しゃべりすぎだぞ。」
「ん?そうか?すまない、ジル。」
兄上はもうしょうがないとして、ジルも隠す気がみじんもないらしい。
だがしかし、これで問題はないはずだ。
これから先、示し合わせたうえで魔族との交流を増やしていく。
そうして魔族との交流が増えれば増えるほど、魔族に対する偏見もなくなるだろう。
そうなればカール=ハインツは国の未来のために身をささげた英雄となり、私自身も兄の意思を継いで魔族との交流を深めたという実績がつく。
リンラント王国は今回の件で実質上ストウハーフェンの属国となる。
もう二度と魔族を不当に縛り付けないように監視をするという名目のもと、私の子供が次代の国王になる。
元々死んだこと自体狂言なのだから、リンラント王国に必要以上に報復することもできないが、何かしなければ他国から勘繰られる。
国内のうるさい貴族を黙らせるためにも、隣国を実質上の属国におくくらいの旨味はないといけない。
そのためにも私はリンラント王国の姫君と婚姻をそのまま結ぶことにしたのだ。
『その、リーンハルト様。わ、わたくしは、どうなるのでしょうか…………っ。』
涙をこぼしながら私にそう聞いてきた彼女は素直に可愛いと思えた。
いや、その原因を知っている身としては非常に心苦しいのだが。
せめてもの償いとして国内で彼女が肩身の狭い思いをしないようにできるだけのことはしよう。
そんなことに考えを巡らせているうちに会議という名の報告会も終わり、貴族たちが退出していく。
会議の間中私に発言を任せて黙っていた父上も、一度ポンっと私の頭を撫でて出て行った。
そうして部屋に残ったのは、ジルと兄上と自分だけだ。
「はぁ。まったく。これがお前の頼みじゃなければ私は断っていたぞ、ジル。」
「すまん。助かった。」
「いや、かまわん。で?どうやって魔族をも縛る隷従の契約を解いたんだ。」
姫の従者が魔族で魔法契約によって縛られているという話は聞いていたが、結局その契約をどうやって解くのかまでは聞いていなかった。
「ん?ああ。あれか。なに、単純な話だ。より強力な魔法契約で上書きすればいいんだよ。」
「………………よくあの魔族が許可したな。」
「契約の内容を事細かに決めたからな。作戦の成功失敗にかかわらず自由にすること、ただし本気で作戦に取り組むことを主な条件に百ほど細やかな取り決めを作ったからな…………。」
珍しくどこか遠い目をしたジルに、それほど労力がかかったのだとわかる。
「この後兄上、いや。カールとクロノスはどうするつもりだ。」
「カールは俺の領地に来て平民として過ごす。平民街に屋敷、というか普通の家だな。それと職は用意してある。クロノスは確かマルちゃんの秘書になったらしいが、マルちゃんと恋人のマティアスに毎日突っかかってるらしいが、まあ問題ない。容姿程度魔法でいくらでも変えられるから、クロノスがあの従者だとばれることはないぞ。」
それを聞いてマティアスには悪いが、すべてが収まるべき場所に収まったかとそっと息をついた。
「もうこんな面倒なことはごめんだ。」
心底疲れたという表情のジルに、苦笑いを浮かべる。
確かに、マティアスの件といい、ギデオンの件といい、私と兄上の確執や今回の件といい、ここ最近ジルはよく働いていたと思う。
しかもそのほとんどがジルの好意によるものだ。
「……………ジル。三日ほどしか休ませてやれんが、たまにはアイリーン嬢とヴィルやソフィアと過ごすといい。」
「い、いいのか!!?」
頑張ったジルにせめてもの感謝の気持ちにと思いそう告げると、思った以上に嬉しそうにするジルに心底申し訳なくなる。
これで私が友人で無ければ間違いなくジルは国外逃亡していただろう。
「君のような友人がいて、心底よかったと思うよ。」
実は長いこと就活で話を考えていなかったため、当初考えていたストーリーと違う過程での着地となりました。
後半だいぶ駆け足になりましたのでわかりにくい点があったと思います。
もしも疑問などございましたらいくらでもお答えします。
何はともあれ、途中作者都合で長期間更新が止まることもございましたが、それでも完結まで読んでいただきありがとうございます。
この後番外編をいくつか書くかもしれませんが、本編はこれにて完結でございます。
本当にありがとうございました。




