追加攻略キャラと話すそうです。
「お前がクロノスか?」
「……………はて、あなたに私の名前を教えた覚えはないのですが。」
真っ黒の髪に射干玉の瞳。
服まで真っ黒のまっくろくろすけ。
それは、先日リンラント王国から来た姫君のお付きとしてうちに来た従者の男だ。
そしてお察しの通り、続編での追加攻略キャラだ。
「そんなことはどうでもいいだろう?お前にひとつ取引を持ち掛けたいと思ってな。」
俺がそう言うと、クロノスは心底馬鹿にしたようにあざ笑った。
「はっ!私があなたと取引を行うとでも?」
それはそうだ。
現状クロノスが俺と取引をするメリットはないのだから。
だがしかし、こちらとて無駄に作戦会議でミシェリアの脳内から情報を搾り取ったわけではない。
今頃散々俺になじられながらなんとか情報を思い出したミシェリアはアイリーンに労わられながらうちの屋敷で天使たちと一緒に戯れていることだろう。羨ましい。
しかし、その甲斐あってようやくカールを殺す方法を思いついたのだ。
「魔族が人に隷従するのは屈辱的ではないのか?」
そう口にした瞬間、恐ろしいまでの殺気が自分に向けられた。
しかしながら自分としては作戦通りにいったと逆に笑いが込みあがてくる。
「何を笑っている。殺しますよ。」
「いいや?お前は俺を殺せない。俺を殺したら永遠にゴシュジンサマのところに帰れなくなるからな。」
「……………貴様。何を知っている。」
「お前が長年リンラント王国に縛られていること。それと、その鎖の鍵。」
ぐっと伸びてきたクロノスの手が、俺の喉を掴み上げる。
しかし本気で殺す気はないのだろ。
いや、本気で殺したいが、殺すわけにはいかない。
ぎりぎりと力が入る手に、喉が締め上げられ息が詰まる。
「答えろ、ニンゲン。このまま拷問してもいいのだぞ?あの王国の民ではないあなたに制約はきかない。」
「そこまでにするのじゃ、クロノス。ジルは妾の友人じゃ。殺せば妾はお前を殺さなければならなくなる。」
「ま、るしべーら、さま………?」
「久方ぶりじゃのう、クロノス。おぬしが人間の友人とやらのもとに向かったのはまだ父上がご存命だったときじゃの。して、人間に裏切られたか。」
そう、このクロノスという魔族は契約によって数百年という長き時間を隣国に囚われ続けた哀れな男なのだ。
しかも、種族を超えて信じた友人に裏切られ、その生を縛られ続けたのだ。
「そうだ、そうです。私は、あの男に、友人に、信じていたのに………っっ!!」
泣き叫ぶクロノスの慟哭が外に漏れぬように、周囲に防音の魔法をかける。
「クロノス。妾に話してくれんか?」
そう言ったマルちゃんの言葉に、クロノスは口を開いた。
昔々、まだ国同士のつながりが薄く、各々の国が自国と周辺諸国としか関りを持とうとしなかった時代。
その時クロノスはまだまだ魔族としても若く、なぜ魔族の大人たちが人間を忌み嫌うのかがわかっていなかった。
そんな中クロノスは一人の人間と出会い、その者と仲良くなった。
そしてそれを知れば知るほど、人間がわるいものとは思えなかった。
『クロノス。お前に頼みがあるんだ。今人の世は混乱を極めている。私に協力してほしい。友として。』
いつになく真剣な目でそう訴えられたクロノスは、にべもなく頷いた。頷いてしまった。
それが隷属の魔法のカギとなるとも知らずに。
クロノスが頷きその魔法契約が完了すると、クロノスが親友と信じていた男は豹変した。
人よりも長く生き、人よりも圧倒的な力を持つ魔族を騙し、自身の配下に加えることができたのだ。
そしてその呪縛は男が死んでも、男の子が死んでも、孫が死んでも曾孫が死んでもクロノスを縛り続けた。
親友と信じていたものに裏切られたクロノスの心は荒み、すべてを破壊したい衝動に駆られても、それを発散することを契約によって禁じられていた。
「だから私はもう人は信用しない。」
話の最後をそう締めくくったクロノスの瞳に光はなく、どんよりとした闇だけが広がっていた。
「ほー。で?それが俺の交渉を断る理由か?」
「それ以外に何がある。隷属の相手があの血筋から貴様に変わるだけだろう。」
憎しみを隠さなず俺を睨みつけるクロノスに思わずため息をついた。
「あのなぁ。俺がなんのためにマルちゃんを呼んだと思ってるんだ。」
「マルちゃっ!?貴様!!マルシベーラ様が誰だかわかっているのか!?」
「ま、まて、クロノス。それは妾が許可したのじゃ。それに、ジルはおぬしの思っているような人間ではないぞ?」
俺のことを庇ってくれるのはうれしいが、それは逆効果だと思うぞ、マルちゃん。
「マルシベーラ様!!あなたは人間のことを何もわかっていない!!!こやつらは!平気で人を貶められる野蛮な種族ですぞ!!!」
「お、おおう。落ち着けクロノス。」
「落ち着いていられますか!!!あなた様が!あなた様が人の手に落ちればいったいどれだけの犠牲が出るとお思いか!!」
激昂したクロノスの気迫にマルちゃんがたじたじになる。
「落ち着け、落ち着け。マルちゃんはもう少しクロノスの気持ちを考えてやれ。クロノスは自分の考えを押し付けるんじゃなくて意見を聞いたうえで話し合え、な?」
俺の言葉に二人とも、というか主にクロノスが、宿敵ともいえる人間である俺からの言葉にグッと言葉を詰まらせた。
「う、うむ。そうじゃな!まず妾がジルを普通の人間とは違うと思った理由はの、こやつ、嫁と子供にしかてんで興味がないのじゃ。」
「……………は?」
「妾のことを倒すことと、自分の嫁と子供の安全を天秤にかけたら、間違いなくこやつは嫁と子供の安全を取るぞ。多分、妾に協力せねば嫁と子供を害すると言えば、間違いなく妾の味方をするか、妾の配下の魔族全員を殺し尽くすだろうな。」
「否定はしない。そもそも人間側が悪いと思えば脅されなくてもマルちゃんの見方をするし、ただの逆恨みならマルちゃんを殴って説教する。」
俺がそう言い切ると、マルちゃんはほらな?と言いたげな表情で俺を指さした。
「第一、俺は魔族だからどうとか言うつもりは毛ほどもないぞ。女神と天使たちが健やかであればそれ以外はわりとどうでもいい。」
「なん、なんだ…………、お前は。」
「ジルベスター・マーキス侯爵だ。」
「………………そういうことを聞いているんじゃないんだが。」




