隣国との婚姻だそうです。
「は?隣国の姫との婚姻?」
出勤してすぐリーンハルトから聞かされた内容に俺は眉根を寄せた。
「そうだ。隣のリンラント王国からの申し出でな。三代前の王女もリンラント王国の姫だったそうだから何も珍しいことではないんだがな。」
「そうなると、結婚するのはカールの方か。」
「その通りだ。だが、ジルは兄上のことを気にかけていただろう?その……………、兄上の、想い人のことで。」
まさにリーンハルトの言う通りだ。
俺にとって優先順位は一番が家族で、二番がミシェリアとテオドール。
その次が学園時代からの友人であるリーンハルトやマティアス、ギデオンたちだ。
だからと言ってカールが大切じゃないわけじゃない。
優先順位の高い人物に不利益が被らない限り、俺は自分の両手で助けられる人くらいは助けてやりたい。
「リーンハルト。お前今好きなやつは?」
「…………残念ながらいないよ。もっというのであれば、私はリンラント王国の姫君を妻にもらうのもやぶさかではない。兄上を応援したいんだろう?」
その言葉に嘘はなく、本心から言ってくれているのだとわかる。
だとすれば、問題はどうやってカール=ハインツを殺すのか、だ。
一番手っ取り早いのは暗殺だが、それでは犯人が誰かという問題になる。
暴漢に殺されたとしても、やはり犯人を探し出すことになるだろうし、死んだ場所や方法によっては他国との戦争に発展する可能性だってあるのだ。
だとすれば病死がベストだろう。
もしくは、カール自身が罪を犯し死刑になるかだ、が……………。
そうなると国内情勢がガタガタになりそうなので却下だな。
国内が荒れるとうちの女神と天使が危険に晒されることになる。
やはり病死がベストだな。
「よし、カールには手っ取り早く病死してもらおう。」
「……………これが私との会話でなかったら不敬で罰せられているところだぞ。」
俺が気合を込めてそう言うと、リーンハルトがため息をついた。
「問題は、どうやって兄上を病死させるか、だろ?」
「そうだ。あからさま過ぎてもだめだし、かといってカール自ら死んだとわからなければ暗殺の疑いでいずればれる。一番いいのは、国王に協力してもらうことだな。」
「…………………父上にどう説明するつもりだ。」
「それは……………作戦会議でもするか。」
ふと思い浮かべるのはアイリーンとミシェリア。
乙女ゲームの中でカールが攻略キャラでヘレンがヒロインなのであれば、その設定の中にヒントがあるかもしれない。
「リーンハルト、少し魔伝を借りるぞ。」
一言リーンハルトに断ってから、彼の執務机の上にある魔伝を手に取り、ミシェリアとテオドールの家に魔伝をかけた。
「もしもし?俺だ。」
『あぁ、ジルベスターくん?今日はどうしたんだ?』
魔伝をかけると、出たのはテオドールだった。
ミシェリアだと、事前に情報が共有できて都合がよかったんだが、まあ別に家に召集をかけてから情報を共有しても遅くはないだろう。
「ああ。少しミシェリアに話が合ってな。近いうちに俺の屋敷に来てもらいたいんだが、いつ来れる?」
『また急だね………。あぁ、えっと………、そうだな。明日なら大丈夫だよ。』
「なら明日だ。来る前に俺の執務室に魔伝をかけてくれ。すぐに帰る。」
用件だけ伝えて魔伝を切る。
「魔伝は繋がったみたいだね。」
「ん?ああ。」
「にしても、どうして兄上の件でミシェリアと作戦会議をするんだい?」
まあリーンハルトのその意見はもっともだろう。
前世の話なんかしたところでそれが通じるとも思えない。
「…………ヘレンが平民だからな。元平民のミシェリアにもカールは相談を持ち掛けていただろ?あいつも多分気にしてるだろうと思ってな。」
「あぁ、なるほど。そういうことか。なら私は明日の作戦会議とやらには参加できないが、作戦が決まったら教えてくれ。こうなったらもう私も全力でサポートするさ。」
ふっと口角を上げてほほ笑むリーンハルトはまごうことなきイケメンだ。
心なしか周囲にきらきらエフェクトが飛んでいる気がする。
なんだこれは。スチルイベントか?コラ。
最近どちらかというと不憫なキャラにシフトチェンジしていたリーンハルトの久しぶりの王子様スマイルにイラッとした俺は、リーンハルトにデコピンをした。
「いた!?な、ジル!!何をするんだ!!?」
「いや、無性に………こう。な?」
「何が、な?だ!!」
そうぶつぶつ言いながら、執務机に向き直って書類を処理し始めたリーンハルトに、ふっと苦笑いを浮かべる。
なんとなく、前世での友人を思い浮かべた。
これでもお前に決行心を許してるんだぞ?っていう俺なりの表現。
まあ言ってやらないが。
「はぁ…………。面倒だが、俺も明日のために仕事を片付けるか………。」
そう言って肩をぐるりとまわして俺は自分の執務机に向かった。




