キレた親友が怖い。
私はリーンハルト・フォン・ストウハーフェン。
この王国の第二王子なのだが、最近キリキリと胃が痛むことが多くなった。
その最たる理由というのが、私の学生時代からの親友であるジルベスター・マーキスにある。
赤い髪に茶色の瞳。
きりりとした目元が印象的な彼は寡黙ながらに愛妻家として知られており、非常に整った顔立ちをしていることもあり女性諸君からの人気が高い。
さらには類まれなる戦闘能力を有しており、魔法と剣術を組み合わせた戦闘術はほかの追随を許さないほど洗練されている。
本人は彼の妻であるアイリーン嬢と息子のヴィルヘルム、そしてつい最近産まれたばかりのソフィア嬢を守るためと思えばできないものはないと豪語しているが、スキルだけをみると本当に化け物みたいに強い。
空間転移を使わせれば三日で王国の都市をすべて訪れることができ、剣を扱わせれば容赦なく敵を切り伏せ倒す。
書類仕事もお手の物で、本当に家族のことが絡まないとこの上なく優秀なのだ。
そんなジルに最近目を付けたらしい兄上がちょくちょくちょっかいを出していたのだが、特に問題が起きるわけでもなく平和的に日々は過ぎていたのだ。
そう、今の今までは…………。
事の発端は昼過ぎのこと、いつも通り私の執務室で雑務をこなしていると突如ジルの左手につけた指輪が光を発し始めたのだ。
それはアイリーン嬢が城に来た時に震えるようにできているらしいのだが、今のように激しく光を放つことは初めてのことだった。
「おい、ジル。それはどうしたんだ?」
そう尋ねながふとジルの顔を見てみると、今までにないくらい険しい顔をしていた。
「じ、ジル?」
「アイリーンに何かあったらしい。リーンハルト、悪いが俺は一度帰らしてもらうぞ。」
ただならぬ親友の剣幕に、私もペンを置きそばにある剣をとる。
「ならば私も行こう。私の地位が役に立つこともあるだろう。」
悲しいかなこのできすぎた友人に私が勝っているものはこのストウハーフェン王国第二王子という無駄に高い地位しかない。
「すまん。助かる。ヴィルやソフィアに何があったかもわからないから人は多いほうがいい。」
だというのに素直に私を頼ってまるで対等のように扱ってくれる友人に感謝する。
この時はまだあんな惨劇が起こるとは思っていなかった…………。
アイリーン嬢がアラーム機能?とやらを発動させたのはどうやら屋敷らしく、まずはジルの空間転移魔法でジルの自宅に飛んだ。
侯爵貴族で城勤めにしては小さいその屋敷は、それでも家族でくらすにはちょうどいいらしい。
確かに、私のように広い城で暮らしていては父や兄との交流は少なく、母との触れ合いなどないに等しかった。
そう思えばこのサイズの屋敷はいいのかもしれない。
そんなことを思いながら屋敷に足を踏み入れると、ジルがすぐに何かに気付いたようで談話室に駆け込み壁をコンコンと叩き始めた。
「ジル?どうしたんだ。」
「………仮に、この屋敷に賊が入り込んでアイリーンが自分で対処できないと判断した場合のためにある決まりを作った。」
コンコンっと叩いていた壁の内、微妙に音が違う個所がある。
「子供に睡眠魔法をかけて壁の中に隠す。」
ガンッとその部分を殴ると壁がボロボロと崩れ落ち、それが魔法で作られた脆いフェイクの壁だったことがわかった。
そしてその中にはスヤスヤと眠るソフィア嬢がいた。
「…………いい度胸だと思わないか?」
優しくソフィア嬢を抱き上げたジルの顔は恐ろしいほどに無表情でその殺意を向けられたわけでもないのにゾクリと背筋が冷たくなる。
「ソフィアと一緒にヴィルがここにいないということは、だ。アイリーンと一緒に連れ去られたってことだ。」
片手でソフィア嬢を抱き上げ、もう一方の手ですらりと剣を抜く。
「場所はわかってる。リーンハルト、行くぞ。」
剣を握った手を、その剣が私を傷付けないように角度を気にしながら、差し出してくる。
かつてないほど怒っているジルに緊張しながらその手に自分の手を重ねると、あの空間転移魔法特有の浮遊感とともに視界に映る景色が目まぐるしく変わった。
「さて……。俺の家族に手を出した代償を払ってもらおうか?」
親友が怖い。
誰だかは知らないが、ジルに喧嘩をうったばかな奴らに思わず同情したくなった。
最も自業自得なんだがな…………。




