親友の敵には回りたくない。
ジルの転移魔法で飛んだ先はどうやら王都のはずれにある古びた洋館らしい。
その屋敷を鋭くにらむジルがぶわりと魔力を剣にまとわせ、一薙ぎすると、
「なっ!なんだっ!!?!?建物が崩れるぞっ!!?」
「ひぃっ!?何が起きたんだ!!?!?」
「…………ジル、私の見間違いじゃなければ建物が切れたように見えるのだが?」
「大丈夫だ、中にいるアイリーンとヴィルに影響はない。」
「そうか……………。」
この親友には常識というものが存在しないらしい。
説明してしまうと剣にまとわせた魔力を衝撃波のように飛ばして洋館の二階部分を斬り落としたのだ。
斜めに切り裂かれた洋館二階部分はそのままスライドし崩れ落ちた。
「てめぇ!!何しやがるんだっ!?」
「ぶっ殺すぞっ!?」
わらわらと屋敷から出てきた傭兵らしい男たちを見て、ジルがうすら笑いを浮かべる。
「はっ。弱い犬ほどよく吠えるな。安心しろ、全員残らず地獄に送ってやる。」
その後に起きた惨劇についてのコメントは控える。
強いて言うなら腕に抱える眠ったソフィア嬢に最小限の負担しかかけずに無双する姿はある種の恐怖を敵に与えたようだ。
的確に切り捨て敵を無力化する割には返り血がソフィア嬢に一滴もかからないように避ける様は芸術と言ってもよかった。
だがその後に残る敵の呻くさまはまさに地獄だった………。
今まで生きてきた中で兄上の母親である王妃や第一王子派の連中に様々な仕打ちを受けてきたが、正直この惨劇を見るとジルを敵に回すよりはましな気がしてきた。
「はぁん!!?いったい何が起こったんだ!?」
最後にばたばたと足音を立てて出てきたのは、ブロスカ公爵子息だった。
「あぁ………誰かと思えば。死ぬ覚悟はできてるんだろうな?」
「ヒィッ!!?!?」
真正面からジルににらまれたブロスカ公爵子息はがくがくと足を震わせその場に崩れ落ち、漏らしたようでずズボンにシミを作った。
流石に主犯となる公爵家子息を殺すようなことがあればジルにも咎めが行くので殺気立つジルを止める。
「ジル、ブロスカは拘束して先にアイリーン嬢とヴィルの保護に向かおう。」
「…………………………………………わかった。」
なんとか最悪の結果だけは免れたようでほっと息を吐いたその時、
バギィッ!!!!
「寝てろ蛙野郎。」
ジルが綺麗なフォームで思いっきりブロスカ公爵子息の顔面に回し蹴りを叩きこんだことによってブロスカ公爵子息の体が地面に沈んだ。
死んでないよな………?あれ……………。
蹴り倒されたブロスカ公爵子息を横目に洋館に入っていくジルを追いかけていくと、洋館の地下牢にアイリーン嬢とヴィルが入れられていた。
「ジル様っ!!」
「とうしゃま!!」
「アイリーン!ヴィル!!」
地下牢の鉄格子を剣で切り刻んでも私は今更驚かないぞ………。
アイリーン嬢を守るように手前に立っていたヴィルがジルに抱き着き、ジルはそのヴィルを抱きかかえてアイリーン嬢のところまで行きそっと抱きしめた。
「無事でよかったっ!!」
そのジルのしぼりだすような声に私までほっと息をつく。
涙を流しながらジルからソフィア嬢を受け取るアイリーン嬢を横目にお邪魔ものの私は一足先に地上に上がり、ブロスカ公爵子息の元に行く。
「さて、ブロスカ公爵子息。公爵たるあなたが同じ貴族のジルベスターの妻と子供を攫ったのはどういうことか教えてもらえるか?」
ジルの蹴りで沈んだブロスカ公爵を起こし問い詰めると、先ほどのジルとの対戦がよほどトラウマなのかがくがくと震えるばかりで話にならない。
「はぁ…………。とりあえず王宮に連れて帰るか。」」
ちょうど洋館から出てきたジルを説得し、ブロスカ公爵子息をつれて王宮に飛んだのだが、
「だからと言って、直接謁見の間に飛ぶ阿呆がどこにいるんだっっ!!」
「面倒くさくてつい………。」
謁見のまではちょうど嘆願に訪れていたのか兄上派の貴族たちがいた。
そいつたちは突然現れた私とジルとその家族。そして粗相をしてがくがくと震えるブロスカ公爵子息を驚いた表情で見つめ、口々に声を上げ始める。
「王の面前に急に来るのは失礼ではないのか!?」
「第一その子供やら女やらは何なんだ!!」
「そこに倒れているのはブロスカ公爵子息ではないのか!?これはどういうことだね!?」
兄上派の貴族たちが声を荒げれば荒げるほどジルの機嫌がどんどん下がっていく。
ただでさえ愛する家族に手を出されて機嫌が悪いのに、今のままだと絶対にキレる。
胃がキリキリと痛みだしたとき、王座に座る父上の横にいる兄上がすっと手をあげた。
「まあまて。先に話を聞こうではないか。で?ジル。いったい何があったのだ?」
面白がるようにそう言う兄上に、ジルからぶちりとキレる音がした。
「何があった、だと?俺の嫁と子供がこの糞に誘拐されてんだよ。」
殺気をまとわせたジルが低く威圧すると、びくりと兄上派の人間が数人体を震わせた。
私が気づいたその変化にジルが気づかないはずもなく、鋭くそいつたちを睨む。
「ふむ…………どうやら、その首謀者に私が疑われている、と言ったところか?」
「の、可能性も考えたがどうやら違うみたいだな。」
「当たり前だ。国防の観点からも魔王討伐の功労者である貴様を敵に回す利点がないからな。さて、そこのブロスカの様子を見るに………今回の実行犯がそいつか。」
どうやら兄上はよっぽどジルを評価してくださっているようだ。
いつになく真剣な表情でジルに言葉を返す。
「近衛兵よ、その者たちから丁重に、話を聞くのだ。」
兄上の指示で兄上派の貴族たちは近衛兵によって連れられて行く。
父上が特に何も言わないということは、父上も兄上と同じようにこの嘘みたいに能力の高い友人を重要視しているということだろう。
おどおどしているアイリーン嬢とは対照的に、当たり前だろうと言わんばかりにふんぞり返っている親友にまた胃が痛くなる。
なんでこの男はここまで権力に無頓着なんだっ!!
とりあえず今回のブロスカ公爵子息を中心としたマーキス家誘拐事件を通して私は一つ心に決めたことがある。
今後何があっても絶対にジルのことは敵に回さない。




