助っ人が派遣されたそうです。
「王宮近衛騎士団、マリア・フラウよ。カール=ハインツ様からの命令でリーンハルト様の魔王討伐部隊に同行させていただきます。」
気の強そうな金の瞳と、豊かなエメラルドグリーンの髪を持つ神官服を着た女、マリア・フラウはギロリとギデオンを睨みつけながらそう言った。
うん、俺こいつ嫌いだわ。
「ああ、マリア嬢、よろしく頼む。」
リーンハルトはニコリと人のいい笑顔を浮かべてこの女を迎え入れたが、実際にはその無礼な態度に怒っているのだろう。
ギデオンは黒髪という理由だけで見下されることも多いが、魔法では既にバイカウント魔導師を越えているだろう。
しかも王宮での肩書きは筆頭魔導師補佐、一般兵のこの女よりもよほど地位が高い。
「デューク様、マーキス様もよろしくお願いします。」
「え、ええ。よろしくお願いします。」
わざとギデオンを外すその姿勢にイライラがたまる。
リーンハルトもマティアスもその女の態度に思うところはあるようだが、今後一緒に旅をする上でとりあえず言葉を飲み込んだようだ。
だが、俺は正直我慢ならない。
ギデオンがどれだけこの髪の事を気にしているのかを知っているし、その分どれだけ努力してきたのかも知っている。
「悪いが俺は最低限の礼儀もなっていない奴と組む気はない。回復なんざ俺とギデオンがいれば回る。」
ギデオンの肩に手を回しそう言ってやると、リーンハルト以外は驚いたように目を見開く。
リーンハルトだけは、ああやっぱりな、みたいな呆れた表情を浮かべている。
「じ、ジルベスター先輩!!?」
「ど、どういうことですか!!?あたしの何が気に食わないんですっ!!?」
ギデオンが驚いたよう表情を浮かべ、女が食ってかかる。
キンキンと耳に痛い声に顔をしかめる。
同じ女でも、アイリーンとは大違いだ。
「貴様にとってギデオンは目上の人間だろう?礼を尽くせ。遊びじゃないんだ、チームワークを乱すなら帰れ。俺は魔王を倒して嫁と息子と今度産まれてくる子供のとこに生きて帰らなきゃならないんだよっ!!!」
こいつのせいで死んだらたまったもんじゃない。
つまり半分は私情だ。
「あー……、そういえばアイリーン嬢が妊娠したんだったな……。おめでとう……。」
「ああ、産まれたらぜひ抱いてやってくれ。」
「ジルの子供なら喜んで。」
至極真面目な顔でそう言うと俺のことをよく知るみんなは妙に納得した表情を浮かべ、女だけはぽかんとしている。
「俺は臨月までに魔王を討伐して帰りたいんだよ。」
「ジルなら本当にできそうですね……。」
できそうじゃなくてやるんだよ。
あの後俺の発言のせいで微妙な雰囲気になってしまったが、結局女はついてくるようだ。
魔王がいる場所はギデオンとバイカウント魔導師が魔物の出現場所や魔力溜りを調べ、ある程度の場所はわかっている。
その辺を虱潰しに探して行く事になる。
しかし当たり前だがその付近に近づくと魔物の数も増えてくる。
「さて、と……。そろそろ野宿でもするか……。」
王都から歩いての移動なので上手いこと都市にたどり着くこともあれば、今日みたいに野宿をする事になることもある。
「また野宿か……。」
「文句があるなら帰ったらどうなんですかー?」
「……文句は言ってないだろ。」
「……なんだかんだ仲良くやっているみたいだな。」
「誰がだ!」
「誰がですか!」
あの初対面の日からこのマリアとかいうやつがやたらと絡んで来るようになった。
正直鬱陶しい。
「だいたいなんで俺にそんな絡んでくるんだ鬱陶しい。」
「な!?べ、別に絡んでなんかいませんよっ!!」
「…………ジルベスター先輩、そんなやつのことほっといて僕と次の魔物対策について話し合いましょう。」
「はぁ!?マーキス様は今日は私と一緒に料理番ですよ!!」
「こら!お二人共おやめなさい。ジルが困っているでしょう……。ところでジル、今日は私とジルが夜の見張りなのですが大丈夫そうですか?」
わらわらと俺の周りに集まって来て喚く。
やめろ。特にマティアス、やめろ頬を染めるな。
「ははっ!!ジルは人気だな……。」
「嬉しくねぇ……。」
どうやらギデオンルート、魔王討伐編でも俺は色々めんどくさいことになりそうだ。




