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ドラゴニック・マナ  作者: ボケ封じ
第一章
7/65

迎撃

アクセスとユニークの違いが今一よくわからん今日この頃。

訪れてくれてありがとうございます。

7話目ですよろしくお願いいたします。

 『では、作戦の概略を説明する』


 村の南側に集まったのはフォルディス含め騎士小隊6名、マリウス、ティナ、直人、ニース、の総勢10人。

 新人騎士4名と元老院議員は村人達を連れ、神殿へと先頭を切って行った。

 これから、10対5000の戦いが始まる。

 スタンピードは村人が移動を開始しても南下は止めないようだ。陽も昇り始め、森からあがる土煙も容易に視認できるようになった。地鳴りはもはや地揺れと化している。


 『直人とクロックは先行して共和国方面に向かう。残りの俺達が魔法をメインに足止めかつ、スタンピードの真偽を見定める。すなわち、南下か、直人か、だ。只のスタンピードであればそのまま南下させ、あとは共和国の迎撃隊に任せる。問題は直人が目的だった場合……』


 そこでフォルディスは一同を見回し、最後にティナで視線を止める。ティナはわかっているというように微笑みを浮かべ頷く。


 『魔獣の強さ次第だな。並の強さなら囲まれない限りはなんとかなると思う。メインは魔法で蹴散らしてもらう。なんせ神殿付きの魔導士様がいらっしゃるからな』


 そこでニッと厳つい顔に頼もしいニヒル笑いを浮かべてティナに視線を送り、続いて並んで立っていた直人とニースを見やった。

 直人も隣のニースを窺うように見る。

 自分の肩ほどの身長しかなく、身体の線も細いこのハーフエルフの少女の顔は、蒼白になりながらも、戦う意思を翡翠色の瞳に乗せてフォルディスに頷き返した。この可愛らしい少女でも、これほどの戦う意思が湧き出るのかと、直人は自分が少し恥ずかしくなった。

 

 地揺れのせいではない。現実味も無い。まだ少し夢ではと思ってる部分もある。だってしょうがないじゃないか。魔獣?5000?戦う?こんな訳の解らない世界で?直人は身体の震えが止められなかった。自分からも勇んで願い出たにも関わらず、その身体は本格的な死闘を前に恐怖にすくんでいるのだ。

 スッと右手が温もりに包まれた。

 ニースが両の手でギュッと握っており、翡翠色の瞳が一直線に直人の目を捉えていた。その瞳が語っている、大丈夫、戦える、と。


 (強いな)


 直人はこの少女の強さに心から尊敬した。



 『私も戦う!』


 ニースは決意を込めた瞳をティナに向ける。陽も少し顔を出しあまり時間もない。馬の準備をしニースをリリーヤの元に送り届けないといけない。ティナは困ったような顔をしながらニースの肩に手を置き、危険だ、と諭す。

 だが、ニースは頑として引こうとしない。

 ティナは困った。確かに頑固なところはあるが、好んで戦いに身を投じる娘ではないし、これまで頑固な部分は見せても、ティナに歯向かった事などはなかった。それがなぜ?しかもこんな時に?


 『私はもう、私のまわりで誰にも死んで欲しくない! 何も出来ずに震えて過ごすのは、もう嫌! だから私は精霊を使えるようになった、一緒に戦うために。 お願いティナさん、私だって戦える! 戦わせて!』


 ティナは思い出していた。ニースの本当の両親の事をリリーヤから聞いたことを。

 ニースが物心のつくかつかない頃に、両親はニースを魔物から守って死んだ。当時冒険家だったリリーヤが、森の中で両親の亡骸の側で泣き崩れていたニースを発見し、引き取ってこれまで育ててきたのだ。

 ニースは覚えてないと思う、と話を聞いた頃リリーヤは言っていたが、ニースはしっかりと覚えていたのだろう。


 『そう、わかったわ、でもリリーヤさんから許しを貰いなさい。でなければ連れてはいけない』


 おそらく、リリーヤも止めないだろうと予測するティナは、時間がないわ早く行きなさい、とニースを急かして送り出した。ニースもありがとうと言い残して走っていった。



 『よし、ではこれより作戦を開始する。直人、先に行け。クロック頼むぞ』


 フォルディスは、クロックと呼ばれた若いが使い込まれた銀色の鎧を来た騎士の、はっお任せを、という威勢の良い返事に頷きで返し、馬に乗ろうとする直人の手助けをしてやった。茶毛の馬に跨がった直人の膝に手を置き、先で笛の音を待て、半分には減らしてやる、とニヒルな笑みを向けた。

 直人も震えの止まった手で手綱をしっかりと握り込み、頼みますと返し、クロックに視線を向け馬を南西よりに向け走らせた。


 「よし、オーラは罠の確認に行け。ティナとニースはここらに更に罠の設置を頼む。急げよもう時間は無いぞ」


 集合前に予め村の中に罠を仕掛けたのであろう、そこへ騎士隊魔術士のオーラが向かう。


 ニースは地の精霊ノームを召喚し出来る限りの大きさに穴を掘らせていく。見る間に穴を広げていくノーム。出来た穴の底に魔法を込めた魔方陣の描かれた紙を次々と設置していくティナ。

 ものの数分で、長さ100m、幅10m、深さ3m余りの穴というよりは罠付きの谷が、村の南側西よりに出来上がった。


 「ティナ、いけるか?」


 精霊を召喚するだけのニースは余り魔力制御を必要としないが、紙の魔方陣に魔法を込め続けたティナの疲労は激しい、顔色も良いとは言えない。魔方陣に込めた魔法はおよそ100。高位の魔法を扱える魔導士であるティナであっても、それは並の作業ではなかった。


 「ふふ、魔力を圧縮するのはくたびれたけど、あとは解き放つだけだから、魔法石もあるから一戦闘くらいはもたせるわよ」


 滲み出た額の汗を、手で拭いながら微笑で返すティナに、流石だと軽く抱擁し後ろから廻した手で、ティナの真っ直ぐに伸びた金髪を撫でる。鎧の硬い感触と冷たさが火照った身体を気持ち良く包み、心地良いのだろう、暫しフォルディスに身体を預けるティナ。


 そこへオーラが村の随所に仕掛けてある罠の確認から戻り、またかという顔を向け、隊員からも冷やかしの口笛が飛び、ニースの羨望の眼差しの中、そんなものどこ吹く風と、そのまま口づけを交わす二人。あぁあと嘆息を上げる騎士隊、目をギラギラさせながら凝視するニース、若さよね~と呆れながら見ているマリウス、気にせず数秒間誰も入れない世界を見せつける二人。

 口づけを終え見つめ合う二人の瞳にはいきる意思がギラギラと輝いていた。


 「生きてればこそだ、貴様らも生きて戻り、良い相手を見つけろ。ティナには負けるだろうがな」


 と片頬を上げニヒルな笑みを作り、直ぐ様真剣な眼差しを皆に向けるフォルディス。

 太陽がちょうど新しい1日を始めようと完全にその眩い姿を世界に現した。



 「皆さん大丈夫でしょうか?」


 言葉は通じない、がそれでも聞かずにはおれず、心配という言葉を表情に乗せて並び走るクロックに問いかける直人。

 クロックも表情から読み取ったのかコクリと頷きで返し、後ろを振り返る。村はもう丘の向こうに沈みこちらからは見えない。そろそろ目的の時間だ、距離も申し分無さそうだが…クロックは予め受けた指令を思い出す。

 ジェスチャーで直人に前方の小高い丘を指差す。直人は頷き丘を目指した。



 一匹目の魔獣が森を抜け出ると、間髪入れずに続々と他の魔獣が続く。

 陽の光りを受けても尚、その異様はまさに黒い絨毯のよう。

 森を抜けあっという間に村の入り口に差し掛かる。

 柵も家屋も気にせず進む絨毯。

 子供程の大きさがある蟻のような姿をした魔獣が、10本ある足の1つを道端にあったその紙に架けたとき、それは具現した。

 紙から光が溢れたのは一瞬、見る間に炎が音をあげて竜巻のように立ち上ると、予め油の撒かれた家々に燃え広がり、それは瞬く間に村を包み込んだ。

 一つの意思を持って突き進む黒い絨毯も炎に撒かれ、悲鳴とも咆哮ともつかない断末魔を残し、焼かれ、その屍を越えようとする魔獣も次から次へと焼かれていく。

 村の3分の1を焼き付くした炎は魔獣の先頭集団を焼き尽くす。しかし、それでも黒い絨毯はその範囲を広げるように、炎を越え、屍を越え、その勢いを止めはしない。

 新たな先頭集団が村の半ばに差し掛かったときに、今度は6本足の狼がトラップにかかり、またも炎の壁を作り上げた。


 「どうやら上手く掛かったな。しかし…やはり目的は少年か」


 フォルディスは村の中に仕掛けた罠の発動で、吹きあがる炎を満足げに観察しながらも、僅かに見えてきた魔獣の先頭が明らかに西よりに向かっているのを確認した。


 「やることは変わらんがな」

 そう溢しながら右手を上げ、一気に降り下ろした。

 それを合図に、オーラが罠と同じ炎柱を、ニースがシルフによる風の刃を先頭集団にぶつける。

 ティナとマリウスはまだ詠唱中だ。

 オーラの炎柱が消えても、ニースの精霊はまだまだ健在で、フォルディスの予想よりも多く戦果を上げていく。


 「精霊魔法ってのはすげえな」


 遂にフォルディスの口から感嘆の言葉が漏れるも、ニースはそれを喜ぶ余裕はなかった。精霊の顕現の為の魔力供給を絶やさず迫られているからだ。

 通常の魔法であれば、魔力収集、精製、事象への変化で終わるのだが、精霊や幻獣を呼び出す精霊魔法は、魔力収集、精製、召喚、魔力収集供給と呼び出す精霊への魔力供給時間、量によって精霊の活動限界が決まる。魔力という餌で精霊を使う。精霊との親意性で呼び出す際の魔力は変わるが、幽処に生きる精霊達を現処で活動させるには、相応の魔力が必要となる。しかも、人間とは親意性が低く、ほぼ呼び掛けには応じない。エルフの秘術と呼ばれる所以だ。

 たまに産まれてくるニースのようなハーフエルフでも扱えはするが、純血のエルフには遠く及ばない。ニースが扱う下級精霊であれば、エルフならば物心がつく頃には扱えているというからその差は歴然である。

が、それでも今尚くずおれそうになりながらも、シルフを自由に操り魔獣の進行を止めているニースに、詠唱の途中ながらも誇らしげにティナは見ていた。


 (精霊の力も凄いけれど、それをこれだけ扱えるニースが凄いということね)


 先生として、時には姉として、そんなニースを見るのだ。


 しかしニースにも限界が来たのか、疲労のために両膝をつき荒々しい呼吸になると、それまで猛威を振るっていた精霊の風の刃が掻き消え、魔獣達の進行が再開する。

 その数はまだ半分も減ってはいない。

 村の出口にまで押し寄せてきた魔獣達の先頭は壁のように、津波のように一心不乱に迫り来る。

 村の木の柵を越えた時にマリウスの魔術が詠唱を終えた。

 頭上に赤く輝く玉が浮いたかと思うと、先頭集団へと飛来する。その間に1つが2つに、2つが4つにと倍々に増えていき、着弾するときには200を越えており、全てが着弾と同時に爆音をあげて破裂した。

 魔獣達を粉微塵に吹き飛ばし、地面にいくつものクレーターを作り上げ、弾け飛ばし、巻き上げた魔獣の死骸が雨のように降りしきる。


 火系統の中でも上級の上をいく王級の威力は一個大隊は消し飛ばす。威力も絶大だが、それに応じて、習得もまた困難である。王級に至るには10000人に1人と言われる。同じ魔法士でも2系統の魔法を扱えるか、王級に至るかで扱いは変わる。

 では、その上をいく魔導士たるティナの実力はいかほどか。


 いまだに詠唱を続けるティナ、魔法行使で疲労する先の三人、最後の罠の両端に、二人一組に別れ移動を始めたフォルディス率いる騎士隊、皆が最後の仕上げに固唾を飲む。

 削られても何事もないかのように迫り来る魔獣達がいよいよ最後の罠にかかり始め、次々と罠に落ち、そこかしこに設置された罠が炎を吹き上げながら焼いていく。

 人工の、小さな罠の谷に、進撃の勢いのまま我先にと飛び込んでいく姿は滑稽に見える。

 落ちては焼かれ、その上に落ちて焼かれ、落ちる、落ちる、と死骸が罠の炎の威力を減衰し、落ちる、死骸の上を進む、壁をよじ登ろうとする。いよいよ黒い絨毯の終わりが見えた頃には谷の中にも魔獣が溢れ、我先にと這い出る寸前、という時に、詠唱を終わらせ、タイミングを計っていたティナの魔法が行使された。


 ティナが持つロンドに紫電が走り、雷球が生まれたかと思うと、そこから蛇のように鎌首を生やし、谷の縁に前肢をかけ這い出ようとしていた昆虫型の魔獣目掛けて、バリッと空気を切り裂き走った。

 瞬きより速く、刹那に駆け巡る雷蛇は昆虫型を捉えると、魔力に精練されたがゆえに、自然の雷とは違い、その威力を減衰することなく、わらわらと連なり、重なり合う魔獣の塊の中を、身を焦がし、血を沸き立たせ、中には爆散させながら連なる魔獣を駆け巡った。

 フォルディス達が認識出来たのは、雷球から鎌首をもたげた雷蛇が光ったという事だけだ。一度瞬きをしたその後には、罠の谷の中で紫煙をあげながら、電撃による痙攣を起こし重なり合う魔獣の死骸があるだけだ。

 フォルディスは、罠の谷にかからなかった群れから外れた魔獣達を相手取りながら、自身のフィアンセに心からの感嘆の息を漏らしながらも、あれがオレの嫁?オレ大丈夫?とペアを組んだ部下と目を合わせ、苦笑いを貰っていた。

 

 魔獣の数も100かそこらにまで減ったために余裕が生まれたのだろう。戦いとは違う事に思考が回せるようになった。

 普通の人間であれば魔獣一匹にも、勝てる保証などない。腕っぷしの強い者でも武器がなければ傷はつけれないし、戦いにすらならないだろう。

 余裕の出来た中でも、特にフォルディスは度重なる魔獣討伐や戦争参加により歴戦の勇士の一人に挙げられる。

 今も、魔獣に横合いから噛みつかれそうになっていた部下にフォローをいれながら、眼前の獣型の魔獣を一刀に切り伏せている。


 「どうやら、無事殲滅したな」


 熊のような魔獣の眉間にあっさりとブロードソードを突き立てると、視界に入る魔獣がいないことを確認し、傍らの騎士に目で合図を送った。

 騎士は頷くと、鎧の首もとから笛を取り出し、頬を膨らませながら、空に向かって勢い良く吹き鳴らした。

 甲高い音が鳴り響き、笛の音が響き渡ると、一拍置いて先行したクロックからも返答の笛の音が鳴らされた。


「ティナ、大事無いか?」


 笛の音の残響を聞きながら、ティナの側まで来たフォルディスは、顔面蒼白になったティナの様子を見て声をかけた。


 「ふふ、魔法石はニースに渡しちゃったから、少し疲れたわ」


 そう返すとフィアンセの胸に倒れこむようにしなだれかかった。

 正面から受け止めたフォルディスは、そのまま腕を枕に、少しでも楽な姿勢になるように膝をついた。


 「ごめんなさいティナさん、私がもっと……」

 「何を言う、ニースの精霊魔法は凄かった。あれのお陰で本当に楽に片付いたぞ、なあ、ティナ」

 「そうよニース。自信を持ちなさい。強くなれるわよ、修練を積めば私なんか及びもつかないほどに」


 戦闘の終わった安心感か、フォルディスに抱き抱えられる愛情からか幾分顔色に血の気が戻ったように見えるティナに褒められ、エヘヘ、そうかな~と頬を染めるニースをマリウスが諌める。


 「正しく修練を積めばよ?魔法石に頼って下級精霊しか使えないようでは、うちのティナを越えることは出来ませんよ?」

 ですよね~と、途端に項垂れるニースを軽い笑いで包む。

 戦闘は終わったと、緊張の抜けた空気が広がる所に村の中から、恐らく斥候に出ていた騎士だろう、笛の音が二度上がった。

 曰く

 『残敵有り』 だ。


 それを聞き、皆がクッと身構えるが、フォルディスは笑顔でマリウスに、ティナを頼みます、と抱き抱えていたティナを任せると、鞘からブロードソードを抜き放ち悠々と村へと歩を進めた。その背にティナから気を付けてと心配の声を掛けられるが、振り返ることなく剣を持つ右手を掲げることで応えた。


 ティナは、朝陽を受けて輝く鎧姿の背中に安心感より、不安が込み上げ、ローブ越しにの胸元のネックレスをキュッと握りしめた。

 遠方から合図の笛を聞き、戻ってきた二騎の馬の駆ける音が聞こえるが、ティナは一心にフィアンセの小さくなる背を見つめ続けていた。



お読み頂きありがとうございます。

基本は土曜0時に更新しますが、余裕があればちょくちょく入れていきます。

今週は休み多目なのでもう1話は逝きたい!

直人はいったいいつ戦うのか?

つ、次こそは…

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