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ドラゴニック・マナ  作者: ボケ封じ
第一章
6/65

襲来

なかなか戦闘パートに入れない。。


6話目です、宜しくお願いします。

 あんなのは見たことがない。

 この世の終わりだ。

 夫が、夫がぁ。

 これからどうすればいいんだ……。


 天災は突然やってきて全てを蹂躙し、試練のようにこれまでの生活を否定していく。


 初めソレらは、トラキア大陸北方の海沿いの村にやって来た。

 空から、海から、地の中や魔方陣から出てくるモノ達もあった。夜も更けり、村人達の大半は寝息を立てていたであろう、中には夜なべをしている年寄りもいたかも知れない。

 が、

 ソレらは、津波のように押し寄せ、80戸程の村の家々と住民を地鳴りと共に呑み込んだ。

 何が起きたかを知覚出来たものは村にはいなかったであろう。

 それほどあっという間の出来事だった。

 村の内陸よりの見晴らしの良い丘に、灯台代わりの掘っ建て小屋がある。

 海の近くにある村では、霧や災害時に備えて設置されている事が多い。漁具の予備や村の非常時用の物資を保管していたり、それらの修理をする道具やスペースも確保してある。

 普段であれば、日が沈む前に漁具の修繕を行うのだが、この日は大漁で、酒を皆に振る舞ってばか騒ぎをしてしまった。

 大漁すぎて、途中で網が壊れてしまう程だった。これまで何かに引っ掻けてや、魚の特性(角や逆立つ鱗等)で破れたりはあるが、魚が掛かりすぎてというのはあまり聞かない。漁師の男には嬉しい悲鳴である。


 昼から飲んだ酒で、まだはっきりとしない頭と身体で小屋のある丘を登る男。海風もあまり無く頬を撫でる程度だが、酔った身体には丁度いい。男の人生でも、もう一度あるか無いかの大漁で、しばらくは漁に出なくてもいいのだが、自分の生活を支える漁具は気になるもので、酔い醒ましの散歩を兼ねて、すぐに直しはしなくとも、損傷具合の確認をしに来たのだ。


 「へへ、あいつらは流石にもう寝ちまったか?」


 丘途中で、村の方を振り返り、漁師仲間の家々の明かりが無いのを見やって呟いた。そして、周囲の異変にも気付いた。


 「そういや、あまり生きもんの気配がしねぇな」


 夜鳥の声も無い、小動物から虫に至るまで、何も感じない。思えば昼間も、漁師のおこぼれを狙う海鳥や、更にそれを狙う野鳥がやけに少なかった気がする。


 「静かで丁度いいやな」


 酔った頭にはさほど気にもならず、昼の酒盛りの喧騒を思い出しながら、鼻唄混じりに丘を登り始める男。

 小屋に入り、昼のうちに運んでおいた網を小さな蝋燭の火で見つけ出し、壊れた箇所を確認していく。

 すると突然、地を揺るがすような地鳴りが聞こえた。いや少し地面も揺れているように感じる。

 地震かと思いすぐに小屋を出た男の目には、今日の大漁よりも信じられない光景が飛び込んできた。

 月明かりに照らされた中、海から村の半ばまでを覆う黒い絨毯。ソレらは内陸を目指して拡がり、見てる間に村を呑み込んで、地鳴りを伴いこっちへ向かってくる。


 「な、な、なんだってんだ???」


 男はその場で立ち竦み動けなくなった。見たことも聞いたこともない、ソレは唯の黒い恐怖の塊でしかない。

 ソレらが瞬く間に男の前まで拡がり、目の前に迫ってきた時にも、男にはソレらが何なのか理解出来なかった。

 男の頭に何かが噛み付いた時、婆ちゃんが、悪さをする子は夜中に海から魔物が這い出て引きずり込むぞ、と何かにつけ叱りつけた、自分が幼かった頃を思い出した。

 ソレらは、牙を剥き、爪を立て、噛み砕き、踏みにじり、そんな男の思い出も存在も微塵も残さず内陸へと向かっていった。




 最初に気が付いたのは直人だった。


 とにかく今日は寝ましょう。と絵とジェスチャーでやり取りしたリリーヤの提案を素直に受け、何かの動物の毛皮が縫い付けられた布団に入った直人だったが、当然寝付けないでいた。体感的にもう朝方位だろうか(この世界の自転が地球と同じならば)。

 目は冴えているが、頭は疲れている。1日の間に色々な事が起こりすぎたせいだ。拐われ、言葉も通じない異世界で、魔法を体験したら、相手は伯母さんで、行方不明の家族もこの異世界にいるかもしれない、と。

 本日何度目かの溜め息をもらしつつ、何度目かの寝返りを打つ。とにかくも、目標は明確になった。

 二人を探し、地球に帰る。やるべき事を胸に、起きたらまずはマリウスさんの所へ行き、話をしなければ。その為にもまずは寝て、疲れた頭を癒さないと。

 そう決めて、目を瞑り、羊を二千まで数えた所で、何か嫌な感じを身体全体で感じた。もやっとしたなんとも言えない、気配のようなものだ。何かが近付いてくる。直人はそう感じた。感じるとそちらに意識を集中する。やはり何かがだんだんと近付いてくるのを感じる。

 少しして、横向きになっている直人の、少し堅めな枕に当たっている耳にも、地面を通して地鳴りのような音が聴こえるようになった頃、夜通し家の外で警戒にあたっていた騎士隊も、異変に気付いたようで、ガチャガチャと鎧の音を響かせて一人が走っていった。集会所にいるあのごつい隊長に報告に行ったのだろう。

 直人も様子を見ようと起き上がり、部屋の外へと出た。そこで丁度寝巻き用のネグリジェに薄手のマントを羽織った、不安げな面持ちのニースと鉢合わせた。鋭敏な感覚をもつエルフの血が何かを感じ取ったのだ。

 二人目を合わせて、頷きあい、外へと出た。


 直人の体感通り、東の空がうっすらと白みがかっている。夜明けにはまだ時間がありそうだが、あと1時間くらいといったところだろう。

 見張りの騎士とニースが会話していたが、勿論直人には内容は解らない。だが、外に出たときから、微かに地鳴りのような音が聞こえていた。

 騎士との会話を終え、ニースが直人の近くに来て、ジェスチャーをしだした。どうやら、一緒に来いと言ってるようだ。

 わかった、と声と頷きで返し、騎士も付いて3人で集会所に向かって歩き出した所に、その集会所からガチャガチャと鎧の音を響かせて、騎士達とマリウス、ティナがやって来るのが見えた。

 何事かと窓から様子を伺う村人も現れるが、一行は構わずにこちらに向かってきた。


『おはよう、直人、よく眠れ、てはなそうね。私もよ、フフフ、なかなか寝れないわよね』


 マリウスが念話で話しかけてきた。直人と似たような気持ちなのか、マリウスも寝付けなかったようだ。


『おはようございます、マリウスさん、それよりも、何か、こう嫌な感じがします。この地鳴り、なんなんです?』


 直人は挨拶もそこそこに、この地鳴りがこの世界特有のものなのかが気になった。


『そう、あなたも…。この地鳴りが何なのかは私達にも解らないわ。こんな現象は初めてよ』


 隣に立つティナやフォルディスも頷く。


『君と何か関係があるのかは解らないが、どうやら、北の方角から地鳴りはするようだな』

『わっ、他の人とも会話できるんですね?正に四次元アイテム…』

『四次元…よく解らないけどあなたの世界のものかしら?あ、私はティナ、この魔法を使ってる魔導士よ、今回は魔法石があるから、皆とも会話出来るように範囲を拡げたのよ、このでっかいのが騎士隊隊長のフォルディスよ』


 自己紹介をしながら、ティナは少し前屈みになり胸元の青く光るネックレスに手を掛ける。これが魔法石なのだろう。しかし、直人はネックレスのやや下の、はっきりと自己主張してくる胸の谷間に視線がいってしまい、すぐに、ゴホンという咳払いの主に目を移した。


 『俺がフォルディスだ。ちなみにティナは俺の婚約者だ』


 じとっとした目を直人に向けながら、宜しくなと付け加えるフォルディスに、申し訳無さげにすいませんと謝り、直人も自己紹介する。一同に軽い笑いが起きるが、直ぐにフォルディスが真剣な顔で部下に指示を出し始めた。どうやら斥候に出すようだ。

 その横でニースが何やらティナと話しているが、こちらは念話に入っていないのか内容は解らない。が、すぐに解った。


『…って気になるもん。私も何か手伝え…え、もう? ありがとう、ティナさん! コホン、私がニースよ、精霊魔術士の私が守ってあげるわ、直人』


 両手を腰に少し胸を張りながら、自慢気に会話に入ってきたニースに、直人は微笑み宜しくと返す。


 『先ずは、村の北側に移動するか、少しは見通しも効くしな』


 フォルディスの提案に全員が賛同し、移動を開始する。空もだんだんと白み初めてきていた。

 歩きながら直人は、村の造りや建物に目を向けた。何だか、物語の中のような錯覚を覚える。これが異世界か、これが母さんが暮らしていた世界か、と。


 程無く村の北側に出て、申し訳程度な木の柵を越えて、続く草原の先を見やる。1km程続く草原の先には森があるのだが、まだ暗くてよく見えない。遮蔽物が無くなったからか、近づいてきてるのか地鳴りは身体に響く程になっている。


『どうやらかなり多いようだな』

『?。と言うことは、これは…まさか、こんな場所に? いったい……』


 フォルディスとティナは何らかの見当を立てているようだが、そう話し合う二人の表情は暗さの中でもうかない様子だ。


 『多いと言う事は、どこかの軍が攻めてきていると?北から?』

 『この感じは間違いないでしょう、しかし、そう北側から攻めてこれる国なんて聞いたこともない。と、するなら、私も聞いた話でしかないですが、魔物大量発生(スタンピード)では無いでしょうか?』


 村から北には森を挟んでもうひとつ村があり、そこから徒歩で3、4時間もすれば海沿いの村に出る。海の向こうは広大な大洋があり、行くことが出来れば船で2週間はかかる先に、およそ生物は住めないであろう氷に閉ざされた大陸がある。


 そのようなところから軍が攻めてくるとは思えない。しかし、


 『スタンピード?それも、南方の大森林ではなく、海から?あり得ないわね』


 マリウス、ティナ、フォルディスで議論が続いているようだが結論は出ないようだ。


 『魔法で転移してきた、とか?』

 『転移……』


 直人は少し遠慮がちに言ってみた。俺を拐いに異世界まで来るくらいなんだから、と軽い調子でつけたしもする。

 直人にしてみれば、場に馴染もうと思い付きを言ってみただけなのだが、思いの外真剣に捉えられてしまったようだ。議論がさらに白熱し、ティナの意識が逸れたのか、魔法の効果も無くなり直人には何を話してるのかわからなくなってしまった。

 若干暇を持て余した直人は、なんとはなしにニースに目をやった。

 明るくなってきた景色の中、華奢なフォルムに銀髪が輝き、特徴的なピンと上に立つ長い耳と少し不安げな横顔を見て、ほんと冗談みたいだ、と何かの物語の中にいるような現実味の無さを感じていた。


 陽はまだ昇らないが、だいぶ明るくなってきた中、森から抜け出てきた騎馬が一騎こちらに駆けてくる。先だっての斥候だろう。


 「戻ってきたな、一旦報告を待とう」


 フォルディスが言い、二人が頷く。マリウスが苦笑を浮かべる直人を見て、何やらティナに話しかけた。ティナも、あっ、といった表情を浮かべて魔法の詠唱わ始めた。


 『ごめんなさい、話しに夢中で効果が切れたみたい』


 謝るティナに、構いませんよと返し、話の答えを促した。


 『結論は出ないわ、彼の報告を待ちます』


 ティナは短く伝え、駆けてくる騎馬を見やった。地鳴りはますます大きくなっている。


 『ほおぉこぉく、大群です、魔獣と思われる大群がこちらに向かってます』


 まだ距離のあるうちから大声で騎馬が伝えてきた。近づく顔は蒼白に見える。


 『規模は?』


 フォルディスも良く通る太い大声で促す。騎馬が到着し、鎧を纏った騎士がひらりと馬を降りた。鎧がガシャンと一際大きな音を上げる。あんな重そうな鎧を着てるのに凄い身のこなしだな、と直人は斥候の騎士に感嘆する。


 『およそ5千です』

 『5…そんな馬鹿な! 間違いないのか?』


 一同が驚愕に包まれる中、フォルディスが問い質した。斥候が間違いを報告することはないとわかっているが、聞き返さずにはいられなかったのだ。


 『はっ、間違いありません、密集はしておりましたが、それでも、地を埋め尽くすとは正に、の様相です。恐らく陽が登りきる頃には接敵するものと思われます』


 そこまでを一気に報告し騎士は若干項垂れた。しかし隊長はそれを許さない。


 『頭を上げろ!馬鹿者が!事を為す前に目をそらすな!貴様には宿舎に戻ったら懲罰をくれてやる!』

 『はっ、失礼致しました!』


 激られた騎士は背筋を伸ばし、若干上を見上げながら返礼をした。

 その様子に頷くと、フォルディスは騎士に他の者を連れて、村人を集会所に集めさせろと命じると、はっ、と気合いの入れ直された騎士が即座に村へと駆けていった。


 『さて、どうするか?森で足は遅くなるとしても、そう時間は無い。5千を相手には出来んしな』

 『で、でも村には馬もいません。このままじゃ……』


 ニースが悲痛な声を上げる。それをティナがそっと肩を抱いて落ち着かせる。


 『目的が見えないわね。スタンピードだとして、勢いで南下してるならこのまま東の神殿に向かえばやり過ごせるけど…』


 マリウスが、考えながら直人に視線を向ける。直人にも解った。

 もしこれがスタンピードではなく、黒いコートの男の策ならどうだろう?オレも同じく神殿に向かえば、大群もそちらを向いてしまうのではないか?

 意を決して直人はフォルディスを見た。


 『馬を貸して頂ければ』


 直人の発言にフォルディスが眉根を寄せる。


 『ふざけるなよ、少年。貴様一人で何が出来るか!囮になったとして、目的が貴様で我々にも逃げろというのであれば、それは囮とは言わん。それに、貴様が捕まるなり殺られるなりすれば、その場で魔獣共が掻き消えるとでも言うのか?』


 直人の意図を見透かし全てを言わさなかった。


 『人ではなく、単純な魔獣相手ならば消極策だが手はある、少年、俺達が来た意味を貴様に見してやるよ』


 ニヤリと唇をニヒルに上げ、微笑みを直人に向けるフォルディスに、頼もしさを感じる。


 (父さんみたいだな)


 馬鹿な考えを正し、答えを実践して見せてくれる、その姿に亡き父を重ねた。


 『時間がない、皆、馬の準備だ。ティナ、ここは一旦任せる。俺は部下共に命令を廻す。村の南側に日の出半分に集まれ』


 わかったわというティナの返答をまたずに、フォルディスは村の集会所へと駆けていった。


 『では、マリウス様、直人行きましょう。ニースは身支度して集会所へ早く』


 ティナは二人に告げ、自分の腕の中でプルプルしていたニースを正面に立たせ、目を合わせて、さあ行きなさいと伝えると、ニースは俯いたまま何かを考えているのか、その場を動こうとはしなかった。

 どうしたのかと、ティナが再度促そうとすると、ニースはバッと顔を上げ、何かを決心したように、翡翠色の強い光を宿した眼差しをティナに向けた。


 『私も戦う!』

 

戦いなくしてファンタジーは語れない。。

次こそは!


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