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ドラゴニック・マナ  作者: ボケ封じ
第一章
5/65

ただいま

書いてると予定していたシナリオよりもボリュームが出てくる。

矛盾、間違いが出ないよう書くのって難しいもんですね。


5話目です、宜しくお願いします。

 不思議な世界だ。

 直人は日課になっている瞑想の中で想った。

 黒いコートの男に襲われ、異世界とやらに連れて来られた。恐らくは、母さんと兄さんも同じくここに拐われてきたので無いだろうか。まさか、本当に第三の可能性で、まさか自分も神隠しに合うとはね……。


 心を落ち着け夢想になろうとするが、流石に今日は無理なようだ。直人は夢想を諦めつつ、心は落ち着けていき、これまでの流れと考えをまとめることにした。


 拐われたのは間違いはないが、どうやらこの村は黒いコートの男とはかんけいが無いように思われる。目が覚めて、さっきまで身ぶり手振りと絵を交えてで会話をした成果だ。


 現状まだまだ何がどうなってるのかも、拐われた原因すらもわからないが、目標は決めとくに越したことはない。

 方向を決め、手段を模索し、行動する。

 よし、第一目標はまずは地球に帰る方法を探す。魔法があるのなら案外簡単に帰れそうだ。現に黒いコートの男がやっていた事だ。最悪あの男を捕まえて魔法を使わせよう。

 第二目標は、この世界にいるかもしれない母さんと兄さんを探す、だ。俺が連れて来られてるんだから、二人もいる可能性は高い。だけどまずは情報が欲しい。そして情報を得るには、言葉なり文字なりが扱えないと駄目だ。それはさっきまでのやり取りで痛感した…某漫画の四次元ロボット的に魔法が使えれば良いんだけどなぁ……。


 直人は目を開け、正座を崩した。開けっ放した窓からは向かいの家越しに真っ赤な夕焼けが目に眩しい。


 (家族で沖縄に行ったときに見た夕焼けよりもすげえや)


 世界が違っても、空があり、こうして夕焼けがあり、人との交流もある。

 外国にでも来たと思えば、なんとかやっていけそうだと、この時は簡単に考えていた。数時間後には考えを改めることになるとはこの時は考えも及ばなかった。



 騎馬隊が列をなして街道を駆けていた。

 先頭をフォルディス率いる第一騎士隊が、その後にティナとマリウス、最後にトマス率いる元老院組と村の長老ヒンギスだ。

 騎馬隊とはいっても、武装しているのは騎士隊と元老院の護衛二人だけだ。ティナとマリウスは魔法が主体なのでローブの下に軽鎧を、長老も鎧こそ来ていないが帯剣している。トマスとアレックは軽装のまま帯剣すらしていなかった。



 すっかり陽も沈みかけ、空は夕焼けに染まりながらも夜の暗さもにじり寄らせていた。

 直人は、ただ窓から人気が無くなっていく村の通りを小一時間ほどぼんやりと見ていた。半日の間に色んな事がありすぎて少し頭がオーバーヒート気味になっていたのを、ぼんやりする事で軽減しているのだ。ある意味、逃避とも言える。


 (まあ、こうしていても何も解決はしないしな……)


 直人は、気持ちを固め直すと、まずは言葉からだな、とこの世界の住人達と会話していくことに決め、ニースとリリーヤのいる炊事場へと向かった。


 「なんとか夜になる前に着いたな」


 フォルディス達は馬から降り、馬体を撫でてやることで馬を労った。


 全員が馬から降りたところで、ヒンギスに少年が保護されてる家を聞き出す。


「あら、ニースのところにいるの、なら私が案内をするわ」


 ティナは神殿近くの村村を周り、文字や計算、魔力の扱いに至るまでを教えている先生のような存在なのだ。中でもこの村は、神殿に一番近いという事と、ニースの使うこの世界でも珍しい精霊魔術が、ティナにとって魔導士としても興味深く、他の村よりも足が向きやすい要因になっている。年齢的にも、先生と生徒というよりは姉妹のように仲がよくなっていた。


「少し休んでからでもよかろう?私は君達とは違って遠乗りにはなれておらんのだ。もうへとへとだ。」

「では、審議官殿と議員殿は後から来られるがよいでしょう、我々は先に向かわせていただく。なにせ共和国の重要人物となるかもしれない少年ですからな」


 嫌味を含めながら部下の一人に、馬の番を任せるとフォルディス達はさっさと向かう事にした。


「ま、待て待て、提案しただけだ、当然共和国の為、私もすぐに、おい、待て、置いていくな」


 フォルディス達はティナを先頭にもう移動を始めていた。それに慌ててトマス達も後を追いかけた。


「ニースはリリーヤさんと二人なのか?父さんはいないのか?」

「直人、そこのお皿をテーブルに並べて」

「ん?皿を取るのか?いや、並べるのか、そういえば魔法でちゃちゃっとご飯作れないのか?」

「もう、さっきから何言ってるか全然わかんないわよ、いきなりこっち来て話しかけられても困るのよ、おかあさ~ん、何とかしてよこいつ」

「あらあら、もう仲良くなったのね、良かったわ~、直人君も、この子同世代の友達がいないから仲良くしてあげてね~」

「え?なんです?あ、鍋運びますよ」

「あら、ありがとう、それじゃご飯にしましょうか」

「も~、なんでお母さんにも話通じないのよ~、誰か助けてよ、も~」


 一人言の応酬のように会話が続き、ニースが音をあげたところに、玄関扉を叩く音が聞こえた。

 もう今度は何なのよ、ともはや毒づきながらニースが扉を開くと、今まさに求めていた助けが来てくれた事を心から喜んだ。


「ティナ!」

「ふふ、今日は朝から来れなくてごめんね、魔力コントロールの練習はやり続けたかしら?」

「大丈夫よ、ヒンギスさんに聞いたから、それにこっちも朝から大変だったから」


 ティナの右腕に抱きつきながら会話をしていたが、ティナの後ろで待つ集団に気付いて、腕から離れてティナにどうしたのかと聞いた。

 ティナは、ニースが大変だった原因である少年に会いに来たことを告げて、簡単に集団の紹介をしていった。

 ニースは元老院議員のところで、自身の佇まいを正し、議員に礼をする。あの異国からの迷子少年がどうしたのかとティナに聞こうとしたところを、トマスに遮られた。


「娘、共和国元老院審議官である私をいつまでこのような所に立たせておくつもりだ。我々は重大な任…」

「という事で、その少年と話がしたいのよ、中いいかしら?」


 さらにティナがトマスを遮って、ニースに確認を取ると、ニースはどうぞと一同を家へと招き入れた。


「あらあら、こんなに大勢でこんな家にどうかされました?お客様用の椅子も御座いませんが宜しいですか?」


 言いながら、大して驚くこともなくリリーヤは、自身が座っていた椅子をマリウスに、人を見る目があるのか、迷うことなくニース用の椅子をトマスへと勧める。


「このような家には何も期待はして…」

「母さん!いや、違うな、似てるけど違う、でも…貴方は誰なんですか?もしかして母さ、ユウカをご存知ではないですか?」

「ユウカ?やっぱり貴方は!!」


 トマスを遮り、二人ともに、ユウカという名前に反応を示す。テーブルを挟んでお互いに、似ている、と顔のパーツの一つ一つを確かめるように見つめていった。


「やっぱり母さんを知っているんですね?母さんは、兄さんは何処にいるんですか?」


 興奮を抑えられず、直人は言葉が通じないのも忘れて畳み掛けた。だがそれをマリウスは片手を挙げることで制する。そしてティナを見て言った。


「ティナ、お願い出来るかしら?」

「かしこまりました」


 ティナはマリウスの意を汲み、魔術の詠唱に入る。

 ティナの周りに魔力が集まる。魔力という概念を理解していない直人だが、感覚的に魔力を察知し、黒いコートとの邂逅を思い出し、椅子から立ち上がり一歩下がると、ティナに対して構えをとった。そこをまた片手で制したマリウスに直人が気をとられている間にティナの詠唱が終わる。


意思疎通(テレパス)


 しまった、と直人は思った。自分の知り得ない知識、魔法を使われたことに動揺を見せる。が、この人達は大丈夫と、心の奥では味方かも敵かもわからないこの人達に対する、一種の信頼をも感じてもいた。


『私はマリウス。解りますか? 私の思念が』

『わかる!解ります!すげえ~や、これが魔法!まるで4次元アイテム的な!』


 二人ともに言葉を発しながらも、本来なら会話にならないはずの言語同士であるが、魔法の効果で理解が出来た。

 言葉に込められた力を魔力で変換し相手にその真意を伝える。使いこなせれば、獣や魔物相手にも通じるようにもなる失われた魔法の1つである。


『4次元?』

『いえ、こちらの話です。魔法って凄いんですね、言葉を覚えるまでは進めないと思ってましたが、これなら前に進めそうです』


 魔法という非現実的な力を目の当たりにして興奮冷めやらぬ直人だったが、目標を忘れる事はなかった。


『聞かせて下さい。この世界の事を、母さんの事を』


 興奮を落ち着かせるように、先程まで座っていた椅子に座り直し、マリウスに真剣な目を向ける。


『フフフフフ、そぉ、やっぱり姉さんの息子なのね…フフフ、姉さん生きてたのね…良かった…私は、ユウカの妹、マリウスよ。あなたの伯母さんね、まずはあなたのお名前を教えて』


 マリウスは巫女の血を引いているかもしれない可能性のある少年に、あの時垣間見た姿、年の頃からある程度の予想はしていたが、こうして嬉しい事実が確定したことに、目に涙を溜めながら微笑みかけた。


 『い、妹?え?母さんの?てことは、母さんは元々この世界の人って事?え、でも地球で、え?』

 『フフフ、お互いに混乱してるようですね。今日は止めておきましょうか。ティナにこのまま魔法制御させるのも悪いですし、目的は違いましたが今日私は、家族に会えて満足してしまいました』

 『あ、はい、家族…そうですね、伯母さんですもんね、あ、おれ直人です、兄もいます、和馬っていいます。父は三年前に無くなりましたが…と、とにかく、一つだけ良いですか?』


 微笑みでマリウスが返事を返すと、直人は真剣な目を向けて問うた。


『母さんはこちらの世界にいるのでしょうか?』


 問われて、微笑を浮かべて甥っ子を見ていたマリウスの目にも困惑の色が浮かぶのがわかった。

 暫しの静寂。

 トマスでさえ空気を読み固唾を呑んで静寂に身を沈めていた。

 真剣な顔つきで直人を見返したマリウスは、推測ではあるけれどと、前置きをして口を開いた。


『恐らくは何処かにいるでしょう。理由は3つ。1つ、彼女は巫女としては強力な力を有していること。私など足元にも及びません。私が敵なら放ってはおきませんね。2つ、その姉さんを差し置いて、あなただけがこちらに転移させられるのはおかしい、まずは姉さんを拐い、そこで何らかの情報を得た黒衣の賢者が、次にあなたに目をつけたのでしょう。3つ、あなたが、直人が、この世界に母ユウカがいるかもしれないと感じているのでしょう?人は何の予感もなしに予測は立てないものよ』


 3つ目のところでまた微笑を浮かべて、直人に言い聞かせるように、優しく語った。その話ぶりに久しく会っていない、母の姿を垣間見た直人だった。


『そうか、そうですね。伯母さんは賢いんですね、母さんも普段はポンヤリしてたけど、たまにハッとするほど鋭いことを言う人でした』


 そう言われてマリウスも、幼い頃の姉ユウカの振る舞いを思い出しながら、そうでしたねと相槌を打つ。


 そんな家族の初対面で和んでいる場の中で、フォルディスがティナの額から汗をが流れ始めていることに気付き、マリウスに進言した。


「巫女様、ティナがそろそろ限界のようです、今夜はここまでに致しませんか?」


 そう言われて初めてティナの様子に気付いたマリウスも、まだ大丈夫だと言うティナを抑えて、続きはティナが回復してからにしましょうと、場を納めた。

 そこから先の会話は直人にはもう解らなかったが、この魔法は一度唱えて終わりではなく、その後も継続的に何らかの操作というか調整が必要なものなのだろうと察した。ティナと呼ばれた女性の顔色も魔法を使う前と比べると、病人のような青ざめたものになっているのがわかった。


 その先は、また身振り手振りと絵を使っての会話で、マリウス達は村の外れにある集会所に泊まる事、何かに備えて、直人のいるニース達の家には、フォルディスを中心とした騎士隊が交替で見張りに立つらしい事を伝えられた。


 家の玄関先で、直人とマリウスが向かい合って立ち、直人は、おやすみなさいと言う。一方マリウスは、母が子にするように柔らかく直人を抱擁すると、後ろからまわした手で直人の頭を撫でながら、一言呟いて直人から離れ、先に集会所に向かった一行の後を追っていった。

 途中姿が見えなくなるまで何度か直人の方を振り返り微笑を浮かべるマリウスに、直人も微笑で返していた。


 言葉は解らない。けれど、マリウスはこう言ったのだろう。


「お帰りなさい」


 と。

 直人にはそう聞こえた気がした。



 外はすっかり夜の時間。見上げると満点の星の中に白く輝く月が出ている。地球で見る月の半分ほどの大きさの月の光は、そこに在るモノ達にしっかりと影を作るほどには明るい。

 だが、光を受けても影を落とさないモノ達がいる。魔獣、魔人、所謂魔に属するモノ達。現処と魔界の狭間に身を落としたモノ達。


 だが月は、影は落とせなくても、村に忍び寄るそのモノ達に、ただ平等に光を照らしていた。


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