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ドラゴニック・マナ  作者: ボケ封じ
第一章
46/65

人精

話の途中ですがちょっと脱線しました。


46話目です。宜しくお願い致します。

 騒ぎを聞きつけ直ぐに戻ってきた時には丁度ランスロットが水夫達に運ばれていくところだった。

 そこらにあった木の板を担架がわりに運ばれるランスロットの傍らに目を真っ赤に腫らしてはいるが、平静を取り戻したアンナが付き添っているのも見えた。


 「一体何があったの?」


 人垣を掻き分け漸くアンナの元にたどり着くなりティナはアンナに問い質した。


 「ティナ……」


 見知った大人を見て安心したのかアンナの目にはまた涙が溜まっていく。


 「ちょ、ちょっと、もう大丈夫……大丈夫だから……そうね、今は彼の治療が先よね」


 子供のようにしっかと抱きついてきたアンナの滑らかな金髪を撫でながら、ティナはよく頑張ったわねとアンナを労ってやる。


 「腕の良い治療士がいるんでそこに運び込むぞ」

 「ええ、ありがとうございます」


 水夫の申し出を感謝で受け止めすぐ近くだという診療所へと向かう。直人とニースの姿が無いのが気掛かりだったがこちらも放っては置けない。心で二人の無事を祈りながら水夫達に付いていく。


 「何で道化師?」

 「見せ物で失敗でもしたんじゃないか?」

 「さすが道化師。頼りねえな」

 「それにしても凄い身体付きだなぁ」


 喧嘩や怪我人が日常的な港といっても、美女二人に付き添われる道化師というのは例が無かった。

 興味をそそられて野次馬がみるみる集まってくる中、アンナは声を大にして叫んでいた。


 「道を開けなさい。野次馬根性で人を殺したいのか? そこ、道を開けなさい」


 14歳の少女が鬼気迫る様子で叫ぶ姿は野次馬の大人達をも怯ませていた。

 そうでなくとも、生まれついての平民が、生まれついての王族には逆らえない何かがアンナにも宿っているようだ。


 野次馬の数をものともせず、ものの数分で目当ての診療所に辿り着くと、ここでもアンナが先頭を切って中へと飛び込んだ。


 

  うふふふ、失敗かしら?

  あは、美味しかったよ、まだまだ足らない、満ち足りない、こんなんじゃ。

  私もよ、あの腐れエルフの血を継ぐものは一人残らず虫のように潰さなきゃ。

  じゃあ、始めよう。 蹂躙(パーティー)よ。



 人の目には映らないモノは何だろうか。

 人の心は形無くだれの瞳にも写さない。

 天に召します神と呼ばれる存在は、時に奇跡を起こすがその姿を見せることは無い。

 妖精、精霊、物ノ怪、これらも普段姿を見せない。また、見える者には見えるが、見えない者には死ぬ迄見ることは出来ない。

 探し物が次の瞬間には初めに探した場所にあった。

 激流に呑まれた時、気がつくと河岸に打ち上げられていた。

 愛する者の危険を虫の知らせで察知して強盗を追い払った。


 人智の及ばぬ場所に住まうそれらは時に現処に興味を示し、悪戯や助け舟を出すことがある。

 これらは全て、偶然によるそれらの必然なのだ。


 肉体を持たず、漂うように、全てを包むように、一点に集約しているようでもある、幽処の世界。

 そこに住まう住人は現処の人々にこう呼ばれる事がある。

 万物に宿る精霊、と。


 この世にある全てには精霊が宿り、その力の恩恵を受けて現処は成り立っていると信じる種族がいる。


 人と交わるを是とせず、古代、神話の時代からこれまで、いや未来永劫、その精霊を見守り、時に力を借りて生き続ける種族。


 両大陸に存在する広大な森林の更に奥、光さえ届かぬと言われる森の深淵に暮らし、人の数倍の寿命を持つことで人の力を軽く凌駕する。

 その金の瞳は空高く羽ばたく鳥の目を見返し、夜闇の中木々の葉の夜露の一滴を見逃さない。

 その高く天に伸びた耳は豪雨の打ちつける中足音を聞き分ける。

 細く器用な手が紡ぐ細工は全ての人を魅了し、しなやかな脚は万里を疾る。きらびやかな銀髪は夜空を彩る星々に勝る。

 その魔力は精霊を召喚し山を崩し、海を断ち割る。

 現処と幽処を繋ぐその種族は畏敬の念を込めてこう呼ばれる。

 エルフ、と。


 そんな伝説とも御伽ともつかない物語のように語り継がれるエルフも、時には人間の領域に姿をしばしば現す。

 若いエルフは人と同じく好奇心旺盛で、自分達の領域だけでは我慢できない欲求を満たしにやって来るのだ。


 時に吟われるような英雄の一人として、時に街に溶け込み人と等しく暮らす者として、時に伝説となるような賢者を目指す者として。


 そんな中で人と暮らし、愛し合い、子をもうける者もいる。

 その殆どが人とエルフの特徴を備えたハーフエルフとして産まれてくる。人ように身体は強く、エルフのように繊細な感覚を持ち、幽処の住人と共に歩む能力を持つ。

 


 南に神聖オルソン王国、北東に軍事国家ファティマやキリウス帝国を擁するアデル大陸。

 その大陸には北西部から大陸中心に向かって続く火山帯が並んでいる。中でも、今なお活発に噴火を続けている大陸最高峰の山をと言う。ここにはその活発な噴火活動を好む、火竜の住処があることがわかっている。その火山帯の更に北側に海まで続く大樹林が拡がっている。


 森に入らなくとも、遠くに霞んで見えるのが、神の樹ユグドラである。山のように聳えるその大樹の麓にはエルフの里があると噂されるが辿り着いたものはいない。

 海側からは果てしなく続く森の悪路に、普段出会わないような魔獣がひしめいておりとても並の冒険者達では近付けない。

 山側は入るだけでも危険な火山であり、有毒なガスも噴出している上に火竜の縄張りになっている。竜種の中でも一番攻撃的な火竜は、一度縄張りに外敵が踏み込めば群れをなして襲いかかってくるだろう。


 木漏れ日がまるでカーテンのように射し込む森林の中の広場に数人の人影が集まっている。

 皆一様に絹のように艶やかな衣類に身を包み、特徴的な長い耳を銀髪の間から覗かせていた。

 男女共に三名づつ、全員が長身で痩せ気味だ。木漏れ日を反射する金色の瞳が純血のエルフであることを示していた。


 「世界がざわついておる」


 六人の中でも一際皺深く、けれど一際眼光鋭い老人が口を開くと、他の五人の視線が集まる。


 「儂は永きを生きてきたが、これほどに世界があやふやになるのは初めてじゃ……」

 「あやふやと言いますと?」


 老人の正面に座る若いエルフが疑問をぶつける。肩に担いだ弓をぎゅっと握っているのは不安の表れだろう。


 「皆も感じていると思うが、妖精霊は我らが召喚して初めてこの世界にて存在を確立出来る。じゃが、昨今位の低い妖精達の目撃が相次いでおろう」


 一同を見回す老人に五人は頷きで話の肯定を示す。


 「この森は特に魔素が濃い。一度ここでこの世界に自然に顕現した妖精はその魔素を自分達で取り込むことも出来るほどに」

 「妖精が自ら顕現する?」


 先程の若者が身を乗り出して老人に詰め寄るが、それを両側のエルフが落ち着かせる。

 

 エルフの里には只でさえ近付く事が難しい上に、人、魔獣を問わずに里に入らないよう長老衆によって結界が張られている。それがここ最近、結界は健在に関わらず里の内部に魔獣が現れるようになっているのだ。

 その対策に若者代表が最長老に知恵を授かろうと集まっているのだが、どうも芳しくない話になってきているのを皆が感じていた。


 「妖精はこの世界で自分の身体を持たぬ。故にナニかに宿る。風ならば風に、水なら水に……ところが豊富にある魔素の力を使い自ら肉体を持つに至ることがある」


 最長老は残念な事だと目を瞑り空を見上げる。


 「魔素の肉体を使い魔力を精錬し続け力を宿す。そして他の生き物を取り込み魔獣へと成長していく……あの儚い妖精達が……」


 若者の一人が項垂れる。

 最近現れる結界内の魔獣は、エルフにとって家族であり友人でもある妖精だと言うのだ。心に刺さる痛みは皆が同じく感じていた。

 

 「しかし、何故? 何が起きているのでしょうか?」


 女性のエルフが沈痛な表情で最長老に乞うように問いかけるが、最長老は目を瞑ったまま動かない。何かを考えているようだ。

 エルフにとって時間は長く続くもので、短命の人間とは違い何事にも時間を使う。

 中でも考えるという動作は特に時間を掛ける。直ぐに心身や仲間に危害が加わるものでなければ彼らは急ぐ必要が無いのだ。

 だが最長老の答えは早かった。

 

 「儂にもわからん。里で何が起こるのか、それともこの世界で何かが起こるのか、わからんことを考えても詮無き事よ。そこでじゃ、儂は精霊達の元へ行こうと思っておる」

 

 思いの外早い決断に誰もが虚をつかれた。だが確かにわからない事を考えるよりは良いのかも知れないが。


 「しかしそのお身体では……」


 対面の若いエルフが止めに入るが、最長老は手を上げ若者を制する。


 「この身体じゃからこそじゃな。幽処は著しく寿命を削る。先のある皆よりも一番老い先短き儂が適任じゃろうて。そう、儂は生きすぎじゃ、ならば最後には里の為に使いたい」

 「しかし……」


 若者が詰め寄るも最長老は穏やかに笑みを浮かべると立ち上がり、若者達が止めるも聞かず里の集落へと足を向けた。

 若者達にはそれ以上最長老に詰め寄ることはおろか言葉も掛けられずその場に項垂れるしか出来なかった。最長老の言葉は絶対だ。そう思わせる程に彼は果てしない時間を生きたのだ。

 時間の感覚に乏しいエルフでも、五千年という時は永く辛い時間だろう。


 「……すまんのぉ」


 去り際にそう溢した最長老の悠久の生を刻んだような皺深い顔は微笑んでいたが、その金色の瞳は何かに疲れているような、そんな色をしていた。


 最長老の寂しげな背中を見ながら、五人の中で特に気を吐いていた若者は、使い馴れた弓を無意識に擦りながら長老とは違う決心をしていた。

 後に最長老は一人の女性エルフを従者にその精神を幽処へと昇華させた。現処と幽処は時間の流れもさることながら、全ての法則が異なる。最長老は自身の命を使いその法則に抗いながら精霊の中の王に会い、異変の根源を探るつもりなのだ。


 時を同じく、皆が最長老を見守っていた時に、人知れず里を出る者があったが皆がそれに気付くのは当分先の事だ。

 長い時を生きるエルフは基本的に其々が自由に生きており、今回のように魔獣退治等の里に関わる重要な事案が無ければ、お互いが干渉する事が少なくなってしまうのは当たり前の事となっている。


 若者は結界で遮られた森とエルフの里の境界線で一度足を止めたが、使い馴れた弓を肩から下ろし、左手にしっかりと握り込むと振り返らず里を出た。ここから先にはエルフにとっても危険な魔獣が活動している。

 若者は前を見据えると、先ずは時折仲間達と覗き見に行く森との境目にある人間の集落を目指した。

 当初抱いていた不安よりもこれから出会う未知との遭遇に心踊らせながら、後ろで一つにまとめた長い銀髪を馬の尻尾のように踊らせながら、風のように森の中を駆けていった。 

 いろんなモノをがんじがらめに交錯させたい。


 次回は話戻します。

 

 Let's a party(蹂躙)。


 こんな話ですが楽しんで頂ければ最上です。


 

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