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ドラゴニック・マナ  作者: ボケ封じ
第一章
45/65

少女

余裕が出来たので今週も中間掲載。


夏なんであっさり目で。


45話目です。宜しくお願い致します。

 怖気が走る。

 全身の毛穴という毛穴から冷たい汗が吹き出し、流れた汗が生温く身体を伝っていく。

 剣を構える両の掌も汗で濡れている。

 教練や魔獣狩りの時とは違い、今は鎧すら身につけず、頼りなく布地の服が海風で裾をはためかせている。

 目の前に唐突に現れたこの赤毛の少女は、ランスロットがこれまで対峙したどの師範よりも隙を見せず、どの魔獣よりも殺意を撒き散らしているように見えた。

 構えたはいいが、身動きが取れないのが今のランスロットである。


 「あはあははは、おじさんからはあのお兄ちゃんの匂いがするねぇ、どうしてかなぁ、あはあはははは、どおおおしてええええ」


 つぶらな目の中で赤い瞳がキョロキョロと慌ただしく動きながら少女は話しかけてきた。目の前にいる大柄なランスロットを見ているようでも、忙しなく動く瞳は狂気を匂わせる。

 片や殺意の少女から目の離せないランスロットは何とかジリジリと少女とアンナの線上に身を動かす。

 表層では動けないランスロットも、事それが自分の尽くすべき主のためならば、深層では無意識に身体を動かす。

 自身でもそれに気付いたとき、ランスロットは初めて息を長く吐き、掌の汗を服で拭った。


 「姫、こいつは尋常ではありません、ここは私に任せ、ティナ殿か直人らと合流してください」


 ようやく声を出す余裕を得ると同時にアンナへと警告するが、アンナがそれを聞くことは無いだろう事がわかるだけに、ランスロットの表情も苦いものになる。


 (どうか、お聞き分けくださいますよう)

 「このうつけめ、私とお前は最早同列、仲間だろう、ならば共に戦うとなぜ言えぬか」

 

 予想していた答えにランスロットは赤毛の少女を見据えながら、一度剣を勢いよく薙ぎ払った。

 この一振りで全ての苦悶を払うように。


 「あはははは、お姉ちゃんからもお兄ちゃんの匂いがするよ? 決まりだね? あはあはははは、決まりだよ? グッチャグッチャグッチャグッチャグッチャグッチャ……」


 ランスロットが最後にもう一度アンナに警告を発する前に、赤毛の少女は首をガクンと横に倒すと、赤い瞳を嬉々と輝かせながらゆっくりと一歩を踏み出した。


 途端にランスロットの顔からは血の気が引いていく。

 悪さをした幼子が親に怒られる時のように、圧倒的に為す術の無い力が動き出したかのようだった。


 「姫ッ!!」


 ランスロットは身を引き絞り、喉に力を込めてアンナを諌める。籠の中で育った小鳥には危険を察知することなど出来ない。そんなアンナがこの殺意の塊と対峙すれば、それは正に獣に襲われる小鳥も同然だ。

 その事をランスロットを赤毛の少女が本気でこちらに襲いかかる前にアンナに伝え、行動させねばならない。

 だからこそ、全身から、全力で声を振り絞るのだ。


 「駄目だっ!! 早く行けっ!!」


 ランスロットの後ろでビクッと身体を竦めるアンナ。

 ランスが教育係りとなって十年、主従の関係もあったとは言え、これ程に必死に、激しく、厳しい声は聞いたことが無かった。

 怒られることはしばしばあっても、きつい口調にも愛情を感じることが出来たのだ。

 怒られ泣く事もあった。どんなに泣いて暴れても、鍛え込まれた身体で受け止め傍を離れることは無かった。

 兄弟よりも兄弟に近く、家族よりも家族として傍に居てくれたのがランスロットなのだ。

 そのランスロットがアンナに拒絶の声を挙げている。

 アンナは唇を噛みながら葛藤していた。

 精神は破綻していそうだが、ただそれだけのまるで脅威には見えない目の前の少女に脅えるランスロットを置いて仲間を呼ぶか、ランスロットと共に戦うかを。


 少女はその間にもゆらゆらと身体を揺らしながらゆっくりと滑るように歩を進めてくる。


 アンナは決心する。

 

 「だったら両取りするわ」

 「姫ッ?」


 後ろから発せられた迷いの断ち切ったような快活な声に、ランスロットは思わず振り返りそうになりながら何とか踏みとどまる。今、目の前の少女から視線を外すのはただ命を投げ捨てるのと同意だ。ただその緊張を退ける程のアンナの気持ちが伝わった。


 初級程度の魔術ならば、アンナには呼吸するように使いこなせる。間を置かずに、手を空に掲げるとたちまちに空気が裂ける音が辺りに鳴り響き、光と轟音をあげて少女に雷が落ちた。

 音と光、そして自分の魔力をティナや直人らは敏感に感じ取ってくれる筈で、尚且つ相手には落雷によって攻撃を仕掛ける。アンナの言う通り仲間を呼ぶと、共に戦うの両取りである。


 突然目の前に光が落ちたのを思わず手で目を庇うランスロットに対して、無防備に落雷を受けた少女は一瞬身体を硬直こそしたが、まるで何事も無かったかのように歩を進めてくる。

 しかし落雷を受けたその姿は無惨で、燃えるような赤い髪は焼け焦げ、頭皮が露になった箇所もある。身体には雷が駆け抜けた跡を示すように肌が黒く焦げ付き、辺りに肉の焼ける匂いが拡がってくる。

 それとは反対に身に付けた白いワンピースは魔力でも付与されているのか全く形を損なわず、涼しげに海風にひらめいていた。


 「あら? やっぱり初級程度の魔術じゃ駄目だったかしら」


 緊張感の無いアンナの呟きにランスロットは心休まるものを感じるが、その目にはまだハッキリと恐れが宿っている。

 少女との射線上にランスロットがいるのだ、当てるのも至難な筈だが運良く当たってくれた。初級程度とは言え雷に射たれるのだ、並の魔獣でも無事ではいられない。事実目の前の少女の姿は見るも無惨なものだ。

 だがどうだ? 少女の焼け焦げた肌には見る間に血色が戻っていき、髪も元の艶のある燃えるような赤色で太陽の光を照らし返す。


 「こいつ……吸血鬼(ヴァンパイア)か……ならば、姫ッ」


 ランスロットは無い盾を構えるように左手を前に出し、右手の剣は身に寄せて筋肉を引き絞る。敵が未知の脅威であればこそ只身を捨ててでもアンナを逃がす覚悟だったが、吸血鬼(ヴァンパイア)ならば話は変わる。同時に直人らが語ったここアルバ共和国の首都で起きた惨劇の張本人であろうことも

少女の赤髪と赤目から推測できた。


 (話に聞いておきながらこの体たらく……)

 

 それでも、この身を盾にしてでも一時稼げば、アンナの神聖魔法が完全にこの赤髪の吸血鬼(ヴァンパイア)を駆逐出来る。

 それを察したか、アンナも魔力の精錬を始める。


 (そんなに時はいらぬ、三、いや二合打ち合うだけの時間があれば、姫ならば)


 腰を落とし、恐怖に竦みがちだった足腰に力を込める。


 「おおおおおおおおお」


 みるみる傷を癒しながらゆらゆらと揺れながら近付くフレイヤに、左手を盾にしながら猛然と踏み込むランスロット。

 対するフレイヤはゆらゆらと揺れながら、近付くランスロットに初めて赤い瞳の焦点を合わせ目を見開いた。同時に口を耳元まで割いてあり得ない笑顔を浮かべる。

 

 瞬間ランスロットは踏み込んだ足で後方に跳躍した。なぜそうしたかはわからない。時間が稼げれば良いとの考えが無意識に打ち合いを避けたのか、戦いの本能が身の危険を感じたのか。

 

 その動きが無ければ今頃地面には左手首だけではなく間違いなくランスロットの首も落ちていたことだろう。


 「なにぃぃ」


 兎に角、幸なのか不幸なのか、気配もない攻撃を受けランスロットは左手首を落とすだけで済んだ。


 「キャハハハハハ、やっぱりお兄ちゃんのオトモダチは凄いよ! あはあはは、う……ん、はぁ、感じちゃうよぉぉお」


 あどけない顔立ちの頬を薄く紅潮させながらも割けた口から剣山のような牙を覗かせて高らかに嗤うその姿は、異様そのものだ。


 「ランス」

 「だ、大丈夫です。姫は魔法を」


 ランスロットは身体強化している魔力を使い手首の止血を行う。神聖王国騎士ならではの魔力運用法だ。

 自分の身体を傷付けることで熟練していく治療法は、周りに治療士が他国よりも圧倒的に多い神聖王国ならではの法でもある。


 「血、血が出てるよぉぉおお、もっったいなぁぁあい」


 ランスロットは咄嗟に右にかわすが、フレイヤはこれまでと違い狩人の速さで獲物に飛び掛かっていた。


 「ぐぅうああああ」


 思わず苦痛から声をあげるランスロットの視線の先には、交わし様に遊びがかかった左手に喰らい付く少女のおぞましい顔だった。

 既に止血していたにも関わらず血の匂いに当てられランスロットの肘下まで一気に喰らい付き、剣山状の牙を肉と骨に突き立てて、獣のように首を振り引きちぎろうとする。


 「うおおおおおおおおおおお」


 口腔内にある肘下にフレイヤの舌が這い回るおぞましい感触と、肉と骨の千切れる激痛に雄叫びをあげながら、右手に力強く握った剣をフレイヤの首目掛けて振り上げる。

 痛みの中でも身体強化されたソレは、残像も残さず振り切られる。

 剣が陽光を照り返し稲妻の如くその光跡を残しても、最早そこにはフレイヤも、ランスロットの肘から下の腕も残ってはいない。


 「ジュルルルルル……はぁぁぁあ、あはは、美味しいいいいイクゥゥウ」


 ランスロットの十歩程先に、肉と骨を噛み砕く嫌な音を立てながら身悶える少女が、アンナの雷の魔術を受けても無事だった白いワンピースをランスロットの血で染め上げ、少女らしからぬ妖艶な笑みを浮かべ恍惚としていた。


 「こ、こいつ……聞いていた以上に化物だな……」


 ランスロットが毒づくが、身体のダメージとは裏腹に心中は余裕が生まれていた。どんな形であれ自分の役目は果たした。腕に喰らい付かれた後に追撃があれば、いや腕ではなく他の致命の急所であれば結果は変わっていたかも知れない。が奴はそうしなかった。


 「所詮、この世に存在を許されぬ化物よ、この世界より消えて無くなるがよい」


 アンナが声高に宣告する。

 実際にこの世から消えはしないことは既に承知しているが、こんな禍々しいモノは本当に消し去りたいという心の叫びがそのまま声となった。


 ぶるぶると身を震わせてメスの顔を見せる、恐らく自分と変わらないか、年下くらいの少女に侮蔑の目を向けながら魔法を発動する。


 たちまちにフレイヤを白く目映い光が包み込む。

 不浄なる者を分解、駆逐するアンナの神聖魔法はその効果を如何無く発揮する。直ぐにフレイヤの身体は光の粒となって宙空に霧散していく。

 断末魔、最後に何かを仕掛けるかと気配を察知したランスロットが、即座に既に無い左腕を上げ半身になって構えるも、フレイヤはそのまま光の粒となって散っていった。


 「大丈夫? ランス、腕が……何て事を……私は……」

 「良いのです、姫様が無事でおられるのが我々近衛騎士の誉れとなるのですから。さあ、何時ものように笑顔で」


 止血はしてあるとはいえ、まだ相当の激痛が残るのにも構わず、ランスロットは泣きながら駆け寄ってきたアンナの肩を掴み一歩下がると、直立の姿勢で剣を持ったまま右手を自身の胸に打ち付け、臣下の礼をとった。

 アンナはそんなランスロットを見て、両手でぐしぐしと涙を払うと、ぎこちなく笑いながら言うのだ。


 「そちの働きに……我は……我は……うわぁあああん……ありがとぉおランスぅぅ」


 が、我慢できずに泣きながらランスロットに抱きついてしまうアンナに、それでもランスロットは心から充足感を得ると、アンナに抱きつかれたまま意識を失った。


 「ランスぅぅ、ランスぅぅ、誰かぁぁあ、治療士を、誰かぁぁあ」


 近くにいるアンナの顔が遠ざかっていく中、ランスロットの脳裏には消え行く中。赤い瞳をギラつかせて不敵に、艶やかに嗤うフレイヤの顔が浮かんでいた。

吸血鬼にとっての神聖魔法とは?


……なんやろね……。


フレイヤが書けて嬉しい今日この頃です。


次回は土曜0時掲載、予定です。


こんな話ですが楽しんで頂ければ最上です。

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