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ドラゴニック・マナ  作者: ボケ封じ
第一章
44/65

治療

遅くなった。


不吉な数字ですが


44話目です。宜しくお願い致します。

 煉瓦造りの倉庫街を抜け、次第に人通りも増えてきた。

 人混みにまみれ、魔力の精錬も止め、道行く人に医者は何処だと聞いて回る。

 露店の一つ、漢方のような物を扱っていた年老いた店主が応じ、近くにある水夫御用達の診療所を教えてもらえた。

 喧嘩や作業での傷が絶えない水夫達からの評判の良い治療士だと、駆け行く直人の背中に店主は付け足して教えた。


 「ニース、もうすぐだから、頑張れよ、大丈夫だからな」


 既にニースの顔色は蒼白で、意識も朦朧としているようだ。それでも直人の服の胸の辺りを必死に掴んでいた。


 通りから路地に入る角に診療所はあった。

 直人には出てる看板の字は読めなかったが、文字と合わせて薬瓶の絵が書いてあり恐らくここだろうとわかった。

 文字の普及率は地球程高くない。店を出していても字は読めない人は大勢いる。そんな人達に合わせて絵や呼び込みで商売をしているのがこの世界だ。

 貴族や大商人が集まるこの港街でもそこは変わらない。街で暮らし活動しているのは街の人なのだから。


 「すいませぇん、怪我人です。治療の出来る人はいますか?」


 診療所に入ると直ぐに受付のようなカウンターが有り、横に通路が建物の奥へと延びていた。カウンターには誰もいない。


 「すいませぇん、誰かぁ、マジでヤバイんだけど誰かいませんかぁ?」


 直人は出せる限りの大きな声で通路の奥へと呼び掛ける。

 しばし待つと、奥からは呻き声が微かに聴こえる。恐らく男性の苦しそうな声が、通路の床を這うように聴こえてくる。


 「何だ? 治療中か? 誰かいらっしゃるんですかぁ?」


 直人は既に気を失っているニースをチラリと見ると、ぐずぐずはしてられないと、カウンターを回り込み、通路を奥へと進みだした。


 通路は暗いが見えない程でもない、四つあるカーテンで仕切っただけの部屋を横目に奥へと進み、一番奥、四つ目のカーテンの前で足を止める。

 男の呻き声はこの部屋から聴こえてくる。


 「入りますよ?」


 両手がニースで塞がっているので、頭を使ってカーテンの端から部屋を覗き込む。


 そこには、天井からの小さな明かりに照らされて、小さな木のベッドに寝かされて、四肢をベッドの四隅に布地で固定された男が、苦しそうに顔を歪めながら横たわっていた。

 その横には、全身をターバンを巻いたように白い布地で包み、目の部分だけを開けた人物が、左手に鋭そうなナイフを持ち、今正に男の腹部へと刺し込もうとしている。

 横たわる男は目に涙を浮かべそのナイフが自分の腹に刺さっていくのを見ていた。


 思わぬ光景に直人がカーテンから身体を滑り込ませ、白づくめの人物に蹴りを放とうと一瞬脚に力を込めたタイミングで、白づくめは空いている右手を直人に向けるとチラリと視線を寄越した。

 切れ長の目に光る青い瞳に殺気はなく、それどころか強い意志が宿っているように見えて、直人には邪魔するな、と言われているように感じた。

 直人が少し気圧されてその場に立ち竦むと、白づくめは瞳を走らせニースを見た。そして何も言わずに右手で部屋の隅に置かれている白い厚目の布が置かれた棚を指差した。

 どうやら止血に使えと言うことらしい。

 直人は布を何とか手に取ると、しゃがんでニースを木の床に横たわらせてもう一度白づくめを見た。


 「止血、しろって事だよな?」


 何も言わない白づくめに聞くと、白づくめは直人にはもう興味を無くしたようにベッドの男を見ており、目を閉じて魔力の精錬を始めていた。

 男の腹にナイフを刺したまま、精神を集中する白づくめに直人の声は届いていないようで、直人も返事は諦めて一先ずニースの傷口に布を押さえ付けて止血に励む。

 傷口を押さえるとニースの身体が痛みに反応したのかぴくんと小さく跳ねたが、それだけだった。元々白い肌のニースの肌の色は明らかに血の流し過ぎで蒼白になっている。

 傷口を押さえながら冷静になった直人にはこのときやっと、この全身白づくめの人物が治療士で今ちょうど治療の真っ最中だったのだとわかった。

 治療士はそんな直人の勘違いも知らずに、その発端となった男に刺さりっぱなしのナイフに両手を添えると魔力を流し込み始めた。


 直人には魔力がナイフを伝わりちょうどその切っ先に集中しているのがわかった。

 内蔵のどれかだろうかとニースの傷口を押さえながら、治療を観察する。

 魔力の量は極少量だが、男の体内に導かれた魔力は、その中で複雑にそして繊細に動いているようだ。地球でいえばメスや指先を使う施術を魔力だけで、中を見ずに行っているようだ。


 ほんの五分位だろうか、治療士が一息漏らすと、ゆっくりと男からナイフを引き抜いた。抜くのに合わせて傷口も塞いでいったのだろう、血は一滴も流れてはいない。


 ベッドの上で四肢を拘束された男は、安堵か痛みのせいか、今はスヤスヤと寝息をたてていた。治療士がそれを考慮してか、ゆっくりと優しく四肢の布地をほどき、シーツを掛けてやりながら、直人の方を見た。


 少し威圧するような治療士の目線にたじろぎながら、治療中に許可なく入ってきたことを直人は詫びたが、治療士は何も言わずにニースの傍らにしゃがみこみ、傷を押さえていた直人の手を無遠慮にどけると、止血用の布の上に手を置き直ぐに離したかと思えば、立ち上がって部屋のカーテンを潜って出ていってしまった。


 「え? ち、ちょっと」


 治療をしてくれないのかと直人が呼び止める間も無かったが、もしかしてと止血用の布をどかしてみると、血に汚れてはいるものの、ニースの脚の傷口は跡形も無く消えていた。


 「え? 早っ」


 先の戦いで、ティナが行っていた治療には少なくとも数分は掛かっていた。傷の大小もあるかもしれないが、それにしても手を軽く置いただけだ。

 直人は治療の専門家の力を垣間見た気がした。


 「良かったな、ニース助かったぞ」


 口にするほどにまだニースが無事な状態ではないが、一番の懸念だった出血が止まったのは大きい。あとは輸血が出来れば良いが、この世界にはまだそんなものは無いだろう事は容易に想像がつく。


 そんな事を考えていると、治療士がいつのまにか戻ってきており、直人の隣に立っていた。

 安心しているとはいえ、まだ吸血鬼(ヴァンパイア)の脅威も去ってはいない。当然警戒を怠るような真似はしてはいないにも関わらず、治療士は事も無げに直人に気付かれずに隣に立っている。

 直人が驚く間も与えず、目が合うや否や手にしていた物を直人の鼻先に突き出してきた。

 何事かと目を丸くする直人に手にしていた物を目の前にぶら下げる。何かの液体が入った小瓶だった。


 「これは?」


 変わらず直人の質問には答えず、ターバンのように巻かれた白い布から両目だけを覗かせ、直人の質問にニースへと向けた視線で答える。


 「ニースに飲ませる?」


 それを感じとり直人は尚も質問を続けるが、やはりそれには答えず、ベッドに寝かせている男の元へと進むと男を軽々と持ち上げて部屋を出ていってしまった。


 置いていかれた直人は呆気に取られながらも、小瓶の蓋を開けると匂いを嗅いでみた。

 陶器の瓶で中が見えないため臭いだけでも確認しようとしたが、中からは何の匂いもしなかった。

 首を傾げながらも、治療士を信じてニースの口許へ小瓶を近づけ、少しづつ口の中へと流し込む。

 噎せる事もなく飲んでくれたのを確認し床に寝させて、自分は正座をしてニースの頭は膝枕乗せた。


 「はぁ、なんとなく落ち着いたな、ってか、何飲ましたんだろ?」


 結局治療士との会話が無いため、このままでニースは大丈夫なのかとも考えるが、治療士の動きを信じて待つことにした。


 戦いで疲弊した精神を整えようと、頭を切り替え、ニースに膝枕しながら禅を試みた。


 どれくらいそうしていたのか、恐らくはほんの数分だったろうが、直人は神経の張りが解けたのを感じ、禅を解いた。

 するといつからいたのか、またしても直人の警戒域をものともせずに、横に治療士が立っていた。

 最早気にするのをやめて、座ったまま治療士を見上げる。

 治療士はニースを見ていたが、視線に気付いたのか直人に視線を向けると、ようやく口を開いた。


 「救命措置の意識の低い者達の中ではなかなか良い止血だった。でなければその娘は助からなかった、だが……まあ、良い……用が済んだなら金を置いてさっさと立ち去れ」


 申し訳なさそうな直人を見下すように視線を向けると、最後にボソッと一言毒づいた。

 その一言を聞いた時直人は飛び上がらんばかりに驚いたが、同時にニースが見じろぎしたため動けず、治療士はそんな直人がニースに気をとられている間に部屋を出ていってしまっていた。


 「今のは確かに……」


 治療士は確かにこう口にした。よく映画や漫画でも外国人が英語で使う言葉。


 ファ○ク


 と。

 


 

迷ったあげく伏せ字にしました……なんとなく……。


彼は一体何なんでしょうね?


本当は登場しない予定だったんですが

なんとなく書いちゃいました。


これから、シナリオ練り直しです(笑)


こんな話ですが楽しんで頂ければ最上です。

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