同道
忙しいはずやのに、筆が進む。何故だっ?
34話目です。宜しくお願い致します。
「あの人は一体何者なの?」
今だ直人の腕に絡み付いた格好のままアンナが上目に直人に尋ねた。
「龍の巫女の神殿の神官長、兼、元冒険者の魔導士」
直人は何かを考えながら反射的に答える。腕に絡み付いているアンナには興味がいっていないようだ。
「オホン、姫、いつまでそのようになさっているおつもりか?」
見かねてランスがアンナに進言すると、アンナは何が? とでも言いたいような表情で更に直人に密着する。そこで直人も状況を思い出したのか慌て始めた。
「お、おい! くっつきすぎだろ。って、更に抱きつくなああ」
「えぇ~? こんなに可憐な少女が密着してるのにどうして嫌がるの? ねえ、どうしてぇ?」
上目遣いにお世辞にも大きくない胸を押し当てながらいたずらっ子な笑みを浮かべて直人を翻弄するアンナに、近衛としての使命から男の腕が伸びアンナの首根っこを掴むと、軽々と持ち上げて直人から強引にアンナを引き剥がした。
「お戯れが過ぎますな。済まない直人、姫の教育が為ってないばかりに迷惑を掛けた……」
アンナを宙吊りにしたまま軽く頭を下げ、これまでの非礼を詫びた。
「いや、構わないよ。何となく妹がいたらこんな感じなのかなって体験が出来たよ。それより、これからどうするんだ?」
「あぁ、大陸を渡れば安心と鷹をくくればこの有り様だ。正直どうしたものかと頭を悩ませるな」
直人の問いに苦笑でしか返せないランスの状態が先行きの悪さを暗示している。
直人はアンナとランスが来てくれれば心強いとも思うし助けてもあげたいとも思うが、ティナの心情も嫌とわかってしまっては板挟みにしかならない。
「そんなの簡単よ」
依然宙吊りのまま金色の髪を耳の後ろに掻き上げてアンナがさも当然のように口を開いた。こうしてみると本当に借りてきた猫みたいだ。
「どうするんだ?」
「あなた達についていくわよ。たまたまあなた達が向かう先が私達の向かう先と一緒だった。敵同士って訳でもないんだから私達がどこに行こうと勝手でしょ?」
腕を組んでふんぞり返ろうとしているが、所詮宙吊りだ、全く様にはならない。
「いや、まあ、そりゃそうなんだろうけど」
「いやも何も無いわよ。私達は私達で勝手にやるから特には気にしないでくれて結構よ。どこで、そう例えあなた達の隣で襲われてても放って置いてくれて良いのよ? あなた達が襲われた時は助けてあげるけどね」
悪巧みな笑みを浮かべながらそう言い切られれば、直人にはやれやれと苦笑を浮かべるしかない。この後ティナには何て言えば良いのだろう。さっきの様子だと、どうぞご勝手に、私達は助けないから、とか言いそうだ。いや、言うだろう事は間違いない。
「本当に面目無い……悪知恵だけは幼い頃から突出しており……しかし我等も身分を明かして他国に救いを求めるわけにはいかず、かといって当ても無くここまで来た身なれば、そういうことにしておいて貰えると助かる。それに今はこの無頼な旅を少々気に入ってもいる。いや、真に面目無い……」
挙げ句にはランスには頭を下げられる始末に陥ってしまった。姫様直近の近衛騎士が頭を下げる状況に流石に直人も耐えられなかった。しかも姫様は今だ宙吊りだ。シュールさも半端ない。
「や、わかりました。そういうことにしておきましょう。ティナにもそれとなく話はしておきます。けれど、昼間に話した通りランスに対してのティナの態度が軟化することは無いと思いますよ」
「いえいえ有り難き。我が身などはどのように扱われようが一向に構わない。姫さえ無事であれば私は本望だ」
胸を張り左胸に手を置いて臣下の礼を取るが、まだその敬うべき姫様は宙吊りだ。きっと幼い頃から何千回と繰り返された光景なのだろう。直人も気にするのを止めた。
「では、一度部屋に戻ります。それと」
直人は宙吊りのアンナを正面に見据え畏まって深々と頭を下げた。
「遅くなって申し訳ない。ニースの呪いを解いてくれて、本当にありがとうございました」
「いいのよ、お陰で私も解呪のコツが掴めたから、それにお礼はこちらこそよ。貴君の御助力、本当に感謝しております」
アンナは元々首根っこを掴まれているので頭を下げているような格好だが、直人もアンナもお互いに心から感謝していた。
「では一度戻ります。何かあれば直ぐに駆けつけます。用心してください。それでは」
「こちらも同じ事。君達に何かあれば、我が力、姫様の為に奮うと同様に使おう」
直人は笑顔でランスと握手をして部屋を出た。フォルデイスと同じ顔をした青年とあの儚い運命に呑まれた少女を何とか助けてあげたいと胸に刻みながら階段を降りる。
直人を取り巻く状況は決して楽観出来るものでは無い。町のチンピラや他校の不良に狙われるのとは訳が違うのだ。得たいの知れない人外の存在に狙われ、あまつさえ自分のみならず知り合ったばかりの人間を巻き添えにする。フォルディスがそうして命を落としたのはまだつい先日の事だ。
それでも自身よりも他者を選ぶのは、フォルディスの一件があっただけではなく、幼少から刷り込まれた神崎流の教えによるものが大きいだろう。
曰く、弱きを助け、強きはバッキバキに懲らしめろ、だ。
階段を降りきり部屋へと続く薄暗い通路に、十蔵の姿が見えた気がする直人だった。勿論、十蔵は満面の笑みにサムズアップだ。
幻像に苦笑いを浮かべつつ自分達の部屋の前に立つ。すると、通路の奥側の部屋から会話が溢れて聞こえた。どうやらティナと宿の主が話してるようだ。
「心外ですね、ストックマイヤー。私も今は只の宿屋の主人ですよ。法に触れない程度に悪巧みをすることもありますが、それは仕入れや宿の風聞を広めるためのものですよ? 一体なにを疑っているのですか?」
話している男は宿屋の主グレーデルとティナのもののようだ。宿に着いた時にティナが昔の馴染みの宿だと言っていたのを直人は思い出した。
「それに寧ろ損害を受けているのは私なんですがね? 入り口の扉は勿論、硝子が大変な額になるのはお分かりだと思いますが?」
嫌な話し方をする男だ、と直人は思った。ティナが冒険者だったのはチラリとニースには聞いていたが、冒険者とはこういうものだろうかとも思う。
部屋の中ではティナとグレーデルが向かい合ってテーブルにつき、ティナの何時もの姿勢の良い余裕のある佇まいに比べ、グレーデルは若干落ち着きが無いように、腕を組んでみたり、顎を擦ったりとその体格には似合わずそわそわとしている。
「そうね、あなたが何も知らない。関係が無いと言うことならそういうことにしておきましょう。ただ……」
凛としたティナの声が一段低くなった。
「私や私の仲間に危害が及ぶ時には容赦はしないわよ」
宿に来た時と同じように、これで話は終わりとティナが立ち上がり一方的に会話は終了となった。背を向けたティナに安心したようにグレーデルは額に滲んだ汗を拭う。冒険者時代から大なり小なりそれなりの修羅場を潜って胆力のついたグレーデルも、自身に直接的に放たれる殺意には慣れることは無い。
「ふふふ、そうそうそこの通りであなたが会っていた男だけど、殺されたわよ。私の使い魔が教えてくれたわ。早く行ってあげないと」
「なっ……」
「忠告はしたわよ」
男は立ち上がり何かを言いかけたが、直ぐに力無く座っていた椅子に身体を沈めた。
(怖えよ、て……)
直人はティナが出てくる前に慌てて自分達の部屋へと入ったが、それは無駄だった。入ってから閉めようとした扉をティナが抑え、ティナも一緒に部屋へと入ってきたからだ。
「ふふふ、悪い子ね、直人。大人の会話を立ち聞きなんて」
ティナは何時もの微笑を浮かべながら、ばつの悪い顔をした直人の頭を撫でてテーブルにつくと、すまなそうに立ったままの直人を目線だけでテーブルに誘う。
改めて対面して座ると話したかった事や聞きたいことがまとまらず思案顔の直人を尻目に、ティナから話始めた。
「船はまだ準備に時間がかかるみたい。その間に旅に必要な物の買い出しをしないとね」
「あ……」
あくまでもティナは三人で旅立つつもりのようだ。今日の一件もアンネリーゼが狙われただけで自分達とは関係が無いと。正直、正しすぎる判断に直人は会話の糸口が掴めない。
「言いたい事が顔に書いてあるけど、駄目よ。あなたの目的は家族を探すこと。決して人助けをする余裕も実力も無いはずよ」
確かに、力があればフォルデイスは死ななくて良かった。正確には力はある。けれどその力は使えない。使い方も分かっていない。
「はあぁ、また書いてある。フォルデイスが死んだのはあなたのせいではないのよ。なのにそんな顔をされたらお姉さんまで苦しくなるわ。それにあの娘はこんなところで私達と一緒にいるべき人間ではないのよ」
直人もそれは思う。公な理由があろうとそれは、国の大事を見放した事と変わらない。国民を思うならと、とも思う。
それでも、直人の苦渋の顔は変わらない。ティナが少し呆れたような表情を浮かべる。
「あな……」
「それでも……俺はあの二人を助けてあげたいと思う。同情や感傷と言われてもそれが俺の気持ちだから。どんな形でも一度でも仲間って思った人を放って置くことなんて、出来ないよ……」
はあぁ、と一際大きく溜め息をついて見せるティナだが、その青い瞳に失望の光は無い。寧ろ嬉しそうでもあるように見える。
「直人、あなたの目標は?」
「母さんと兄さんを探し出す。その為に賢者ニナに会う」
迷い無く返す直人の言葉に何かを納得したのか、ティナは頷いてから答えた。
「では、あの二人を傭兵として雇います。一国の王女を、しかも王位継承争いをしているの国の宝をいつまでも連れ回すわけにはいかないわわ。それにあのダンジョンに当たるには本当は冒険者か傭兵を雇うつもりだったしね」
「それじゃぁ……ありがとう、ティナ、二人に伝えてくるよ」
勢いよく席を立ちアンナ達の所に向かおうとする直人をティナが止める。
「いえ、雇い主として私が行くわ。あの二人には聞きたいこともあるしね」
直人は残ってニースを看ていてあげなさいと告げると、席を立ち部屋を出ていった。
直人はニースが眠るベッドの脇に座りニースを眺めた。今は寝言も無く穏やかに眠っているようだ。
良かったな、憧れの姫様と一緒だぞ、とニースに囁くと心なしか笑ったようにも見えた。
(あの吸血鬼……また来るのかな)
まだ大して時間の経過していない先程の一連の襲撃。そしてティナの姿で現れた吸血鬼。フォルディスの命を奪った赤毛の吸血鬼、フレイヤと言ったか、それとも違うようだった。フレイヤは主に肉弾戦の剣士タイプ、今回現れたのは魔法使いタイプだ。ティナの姿をしていたって事は、此方が気付かない間にマークされていたという事。
(敵を知れば百戦危うからず、か。 それを敵にやられてるってのは不味いよなぁ)
いかに武道に長けこの世界の魔力を使えても、所詮直人は平和な現代人だ。常在戦場を地でゆくこの世界に直ぐについてはいけない。旅や日常に置いてもその殆どをティナに一任している現状も宜しく無い。仮にティナに何かあればそこで動きが止まってしまう。動きが止まればそこを突かれる。その程度は分かる直人も、もう食べれないよ~、とお決まりの寝言を言い出したニースを見やり、苦笑いを浮かべるしか今は出来なかった。
ちょっと停滞気味かなぁ。
36くらいで話が動くかなぁ……。
こんな話ですが、楽しんで頂ければ最上です。
次回は一応土曜0時予定ですが、書ければ間に入れます。




