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ドラゴニック・マナ  作者: ボケ封じ
第一章
26/65

覚醒3

アクセス1,000でテンション上がったから連続投稿♪


いつもより1,000文字増やしました(笑)


26話目です。宜しくお願い致します。

 雨は降る。

 天から降り注ぐ雫は、全ての罪悪を洗い流すのだろうか……。



 一通り着替え終わり、一息ついた。ニースはティナが着替えさせたのか、もうベッドで寝息を立てている。やはり大分疲れは溜まっていたようだ。時折聞こえる寝言はやはり聞かないことにする。

 ティナは袋から荷を取り出し濡れた荷物を分けたりしている。


 やっぱり雰囲気的に聞くなら今だよなぁ。


 「ティナ……聞きたい事があるんだけど」


 濡れた衣類を椅子の背に掛けて干しながら、荷の整理をしているティナに意を決して話し掛けた。

 ティナは作業の手は止めず、視線だけをチラと此方に向けて話を促した。

 

 「あの時、どうなったんだ? 俺は覚えていないんだ……騎士隊の人達や、あの吸血鬼(ヴァンパイア)と魔獣、それにフォルディスがどうなったのか。出来れば教えて欲しい」


 あれこれ考えてもしょうがない。それに俺の身体の事も気にかかるし、どちらにしろこのままでは、船が調達出来ればあと3、4日でティナとは別行動となってしまう。

 俺が言い終えると、ティナは作業の手を止めて、ゆっくりと此方を見た。

 この四日間冷たい感情しか載せなかった青い目は、今は悲しそうに震えて見えた。


 「それを私に聞くのね……いいわ、あなたはどこまで覚えているの?」


 何かを決心するようにティナは目を細めながら身体を直人に向けて、話をする態勢を整えた。


 「フォルディスが吸血鬼(ヴァンパイア)に剣を降り降ろした所まで……」


 あの時、フォルディスの剣を容易くかわした吸血鬼(ヴァンパイア)に対して、いや、あのフォルディスの剣がかわされた事に打ちのめされたような気になって俯いてから後の事がすっぽりと抜けている。


 「そぉ……私は……あの光景を許せなくて、受け入れたくなくて、あの時、茫然自失だったわ……身体を動かすことも、声を挙げる事も出来なかった……。あのまま何もしなければ、あの悪夢が覚めてくれるとも思っていた」


 いつもの凛とした態度、雰囲気を纏った巫女の神殿の神官長で魔導士でもあるティナではなく、今はただ悲しみを無理矢理自らの心に溜め込んでいるだけの女性になったティナは、眉間に皺を作りながら何かに耐えながら話を続けてくれた。




 重さを感じさせずに石畳に直人は降り立った。

 頭上からは魔神ネクタールの肘より先を無くした両腕からシャワーのように血が降り注ぐ。


 「グゥワァアアアア」


 直人は背を向けたまま絶叫を挙げる魔神の咆哮を聞いていた。

 

 「な、直人……?」


 ニースには目の前に無事な姿で立つ直人を、いつもの直人としては見れなかった。

 ニースに向けられる優しい笑顔は、いつもの顔の形をしているが、吸い込まれるような黒い瞳は、面影も残してはいない。

 白目部分は黒くなり、黒かった瞳は紅々と燃えるように紅く、瞳孔は縦に裂けてまるで龍の眼のように変質している。神殿の祈りの間にある精巧な龍の彫像さながらに。


 その瞳には感情など灯ってはいないように見えて、ニースは本当に彫像の目がはまっているのではないかと思った。


(直人だけど直人じゃない何かだ)


 ニースはハッキリとそう感じた。


 夥しい程の血を浴びながら、感情の無い笑顔をニースに向けた後、くるりと魔神の方に身体を向けて、腕の出血を魔力を止めて憤怒の表情を向ける魔神と相対する。


 「下等な塵屑がこの私に、グギャァァアアアア」


 言い終わらぬ内に魔神の右太ももに直人の手刀が意図も容易く深々と刺さる。直人は笑顔を向けたままグリグリと刺した手刀を太股の中でこね繰り出した。

 堪らず片膝を着く魔神、首をかしげながら抜いた手刀を見つめる笑顔の直人。


 (なんだこいつは? 駄目だこいつは……こいつは違う)


 それらの光景を見てフレイヤは悟った。世界の異物である自分や魔神とも違う、正に別種の生物であると本能が訴えていた。


 自らの体内から迸る魔力と活力。全てを見透かされているかのようなあの紅い瞳。魔獣、魔神、魔人とも違う威圧感。何よりこの場所を包むようなこの存在感はなんだ?


 フレイヤはこれまでずっと狩る側として生きてきた。不死である自分の当然の権利だと思っていた。確かにそれは間違ってはいない。何人も支配するに及ばない不死の王なのだから。


 だが今目の前にある存在はそんな自分を狩る者ではないかと、動揺した心の中で客観的に感じ取っていた。だからこそ、静かに、自分が狩ってきた者たちがするように、狩る者に気付かれる前にこの場を脱しようとしていた。


 直人はそんなフレイヤの心情を知ってか知らずか、見つめていた自身の、血に濡れた手をフッとフレイヤに向けて降り降ろした。


 直人からフレイヤまでの距離は凡そ五歩、静かに後ずさっていたフレイヤの幸運は、必死に稼いだその五歩の間合いのお陰で降り下ろされた直人の突然の手刀の軌跡から辛くも身をかわせた事だ。

 

 手刀が描いた軌跡はかまいたちと言うには生温い程に、衝撃波となって一直線に石畳を裂いて、対面の家屋を真っ二つに引き裂いていった。 フレイヤの赤髪が短いながらも、その衝撃波に一気に舞い上がる。


(あと二、いや一歩でも近ければ避けきれなかった……けど……)


 安堵の息をつけたものの、フレイヤはそれ以上動けなくなってしまった。明らかに今のは警告だ。それ以上離れればお前から殺すという。


 荒い息をつきながら魔神は考えていた。己を超えるかもしれない目の前の存在をどうすれば駆逐出来るのか。仮にも神を冠する自分ならば相手を退がらせられるはずだ、と。


 「喰らうがよい」


 途端、直人の周りを黒い球体が包み込む。黒い球体は徐々に中心に向けて縮小を始める。


 「かは、塵一つ残さず漆黒の世界へと堕ちるがよいわ。我を傷付けた事を悠久の時の中で悔やむがよい」


 魔神にしても相当の消費があったのか、ぜえぜえと更に呼吸を荒くしながらも、片膝のまま直人を蔑むように顔だけは上を向き四つの目で見下ろしていた。

 そんな勝ち誇った口角を拡げた顔も、次の瞬間には驚愕を越えて、茫然とすることになった。


 「バカな……有り得ん……無の回廊に立ち、帰ってくることなど出来る筈が無い……何なのだ貴様は?」


 縮小を始めていた球体は、いつの間にか縮小が止まり、換わりに中から悠々と直人が歩み出てきた。全身顕になった所で、取り残された球体はその場で一気に縮小し消えていった。

 直人のその顔の笑みは先程と寸分変わらず、だが感情の無い瞳は彫刻さながらに魔神を射竦めている。


 両腕を軽く広げながら確かな足取りで魔神の元に歩を進める直人に、魔神は言い知れぬ圧迫感に気圧されて、片膝のまま後ずさる。


 「よ、寄るな塵屑が! 我にそれ以上近寄るでないっ」


 腕を失い、脚も抉られ、恐らく最大の魔法も効かない。魔神は嫌々をする子供のように頭を振りながら、塵屑と蔑んだ直人に懇願し始めた。そんな悲痛な叫びが届いたのか直人は魔神までの距離を一歩残して立ち止まった。


 「そ、そうだ。解れば良いのだ。これは我の意思ではない。我を使役する者の命令なのだ」


 その悲惨な命乞いを受けてか、直人はチラリとフレイヤを見つめた。

 直人に脅しをかけられて尚、じりじりと後退していたフレイヤもピタと動きを止める。


 (そうだ。あの人間擬きを先に片付けに行け。その間に転移しこの場を逃れる)


 転移するためにはもうしばらく回復して魔力精錬せねばならぬ。口惜しいが今は時が大事。


 また魔神を見据える直人の紅い瞳は全てを見透かすように魔神を映す。


 『転移? それも良いだろう。俺はあの女に用があるからな』


 直人が口を開いたその内容は魔神も驚きだった。いつ魔法を使ったのか、心を読まれたばかりか、見逃してさえくれると言うのだ。これには魔神も自然と笑いが込み上げた。

 

 一方で戦々恐々としているのはフレイヤだ。此方もあと幾ばくかの距離で推定の間合いを外れる所まで後退していたからだ。このままでは直人は確実に此方に向かってくる。灰からでも再生する吸血鬼(ヴァンパイア)とはいえ、そんな事になれば一日二日でと言うわけにはいかない。下手をすると封印なんて事になれば目も当てられない。


 「アハアハハハ、貴方も魔人なの? だったらお仲間じゃない? 一緒に人間殺そ~よぉ」


 額に汗を浮かべながら軽口をつき直人に少女とは思えない妖艶な笑みさえ浮かべて見せるフレイヤに、直人は別の反応を示した。

 張り付くように見せていた笑顔は消え、自分の両の掌を見つめ出した。

 まるで自分を再確認しているようにも見えるその挙動に、フレイヤがここで動いた。人を超える力と、何より不死であるアドバンテージが、魔神とは違い規格外の力の前でも行動を阻害しない。


 「ほら、ワンワン、チャンスだよ!」

 「む、承知」


 転移するために精錬していた魔力を解放する。己にではなく、直人に向けて。

 契約を交わした魔神は、契約者の意思を阻害出来ない。ある意味では呪いに縛られているとも言える。


 かくにも魔神は見逃してくれると言った目の前の脅威に再度牙を向ける事になった。

 それを促した当のフレイヤは、魔神の巨体を利用して直人の視線から外れ、全力でこの場を離れることに集中していた。


 奇しくも直人に向けられた転移の魔法は、当然のように効果を発揮せず直人の眼前で魔素へと分解、霧散する。直人の産み出す膨大な魔力は魔神のそれを上回り容易くキャンセルしてしまう。


 そうなるのが解っていた魔神は、項垂れることはせず、仮初めではあるが現在の主であるフレイヤの盾と為るべく振る舞うことを余儀なくされた。

 こうなっては生きてはおれまい。人外とはいえこうも魔神である我を使い捨てるとは……小賢しい生き物よ。


 無事な左足で立ち上がり身体毎直人にぶつけようとした魔神は、微かに口角を吊り上げ笑ったように見えた。

 

 魔神が立ち上がろうとしたのと同時に中腰になり右拳を引いた直人は、そんな魔神の最後の笑みを見ることも無く、音もなく右拳を突き出した。


 空手の正拳突きは足先から捻るようにエネルギーを拳の先へと伝えて相手にぶつける、その基本の型の威力は一撃必中。

 更に今の直人の正拳突きは、身体稼働に沿って魔力が螺旋を描いて水が流れるように渦を巻いて拳と共に放たれる。

 

 目の前の魔神の上半身を爆散させて、その魔力の奔流は後方のフレイヤにも及ぶ。

 咄嗟に魔力を感知したフレイヤも魔力で障壁を張って見せたが、紙くず同様に乱れ散り、そのままフレイヤを呑み込んで、並ぶ石造りの家屋を数軒倒壊させて静かになった。


 身体に染み付いたものか、直人は残心して拳を戻し、直立になった瞬間に糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。


 静けさだけが残った大通りには、自失したティナと、現実に頭がついていかずにぼ~っとそれを見ていたニースだけが立っていた。


 「え?」


 ようやく事態を把握したニースが直人の元に駆け寄っていった。




 「後の事はニースがやってくれたわ。この子は強いわ……私は……何も出来なかった……」


 ニースが寝ているベッドに腰掛け、優しくその銀髪を撫でながら、垂らした自身の濡れた金髪の向こうに、いつもの優しいお姉さんの笑顔が垣間見えたが、直ぐに悲しそうな眼差しに戻る。


 直人にはそんなティナが、フォルディスが死んだ事もそうだが、自身の不甲斐なさを嘆いているようにも見えた。 

 

 「あぁ、ニースは強いよな」


 直人にもそれは共感としてある事実だ。

 互いに変わらぬ年齢と、戦いとは離れた生活からいきなり闘争の連続で、ティナも直人も実質的には打ちのめされたのに、それらよりも総合的な戦力に劣るニースが結果的に皆を鼓舞する約どころにいる。

 明るく、世話焼きで、愛されキャラだな、と直人は思う。


 「俺達もう仲間だろ?」


 直人はティナにぶつけてみた。

 言われたティナは尚もニースの髪を優しく撫でている。


 「この世界に来て、フォルディスに戦い方を教わった。ティナに魔力の事を教わった。ニースには言葉を教えてもらった。だから俺は戦えた。戦いでは皆に助けてもらった。今もこうして生きてる。ああ、何て言うか、何て言ったら良いのかわからないけど……」


 まとまらない言葉を矢継ぎ早にティナに放つが、ティナはピクピクと耳を動かすニースの髪を撫でていた手を止めて、真剣な眼差しで直人を見つめ返していた。だがまた直ぐに悲しそうな眼差しに変わる。


 「それだよ。その目。俺もニースもティナには笑っていて欲しいんだ。だからって復讐を止める気はない。そうなんだろ? 今の話であの吸血鬼が死んだとは思えないし、だから俺達も」

 「それは駄目よ」


 ティナがピシャリと言い放った。目には冷たささえ宿っているようだ。


 「貴方は家族を探して無事に元の世界に帰る。ニースは、強い子だけど戦いとなれば話は別。それに、私は確かに復讐に行くわ。これは今あの人に捧げる事が出来る私の誓いになったから。そんな私情に、同情を持って来られても私には迷惑よ」

 「誓い? そんなのは自己満足じゃないか? それにあの吸血鬼(ヴァンパイア)は強いよ、魔法使いのティナだけじゃ無理だよ」


 こんな筈じゃない。言い争いがしたいんじゃない。でも頭に血が昇る。


 「そう、今の私には無理なのは解っている……でも……それでも……命を投げ出して守ってくれたあの人に、私は報わなければならない」

 「それは違う! そんな事の為にフォルディスは……」


 握りしめた拳から血が垂れる。上手く言葉に出来ない自分と、フォルディスの死の呪縛に掛かったティナの空しさに涙が出るのを堪えて、直人はドカドカと部屋を出た。

 熱くなった頭を一度冷やす必要があると、色んな感情に呑まれながらも思い至ったからだ。


 木の床に落ちた直人の血の後を呆然と見ながらティナは溜め息をついた。

 ティナにしても、こんな争いは本意では無い。が、只でさえ得体の知れない相手に狙われている直人を連れていくことなど出来るはずもないし、教え子でもあるニースには妹にも似た感情もある。

 

 「数年前の私が知ったら驚くわね……」


 力を抜くように深く溜め息をついたティナの背中にふと温もりが拡がった。


 「起きていたの?」

 「知ってた癖に」 

 「ふふ、可愛いお耳ね」


 髪を撫でていた間ニースの長い耳はピクピクと動いていた。聞き耳を立てていたのだろうが無意識に動いていたのだろう。そのことを長い付き合いでティナは知っていた。

 もたれるようにティナの背中にしなだれたままニースが口を開いた。


 「私達もう決めたの。ティナさんが決めたみたいに。何があってもティナさんを一人にはしないって。だから、勝手に連いていくね」


 さらっと告げたニースを振り返って見たティナの顔には悲しさを残してはいるが、優しい笑みが浮かんでいた。


 「本当に……あなたって子は……」

 「だって今私達が襲われたらティナさんは戦うでしょ? 私達も一緒よ。だって私達はもう仲間(パーティー)なんだから」


 曇り無く真っ直ぐな笑顔を向けるハーフエルフの少女の言葉は、なぜか心地好く、ストンとティナの心に落ちてきた。


 「ふふふ、負けたわ……こんなこと教えたつもりは」

 「ううん、教えて貰ってたよ。いつも……今も……」


 ティナは背中からぎゅっと抱き付いてきたニースの髪を後ろ手に撫でながら、心の中で礼を言った。

 

 「ふふふ、仲間(パーティー)なら私の事はもうティナと呼び捨てで構わないわよ。もう身内なんだから」

 「わかった! ティナ、宜しくね」

 「こちらこそ」


 あぁ、貴方……貴方に出会って私はこんなにも変わったわ。全部貴方のお陰よ……必ず、私が、ううん……私達が貴方に安らかなる時を捧げます。


 ティナは、自分に人の温もりを教えてくれた愛しい人を想いながら、首から下げたネックレスを優しく握り、知れず涙を落として新たな決意を胸に宿した。

 

ざっと読み返して無理矢理な展開が多いけどまあこんな感じで(笑)


直人強すぎるかなぁ……フレイヤがしぶといから丁度良いか。


次回からはまた週1、土曜0時更新です。


こんな話ですが、喜んで頂ければ最上です。

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