出立
前話で設定いれましたが、多分、いやきっと、矛盾が出る度修正が入ると思います。。
今回短め
では12話目宜しく御願い致します。
太陽の光の膜の向こうに白い月が見える。
目の前に広がる草原を吹く風が頬を撫でていくのが心地いい。
葦毛の馬に乗り、すっと息を大きく吸い込んでみる。
地球にはない、不純物の混ざっていない、まさに新鮮な空気が肺を埋める。
動こうとしない主人に痺れを切らしたのか、馬が短く鼻をならし催促してくる。
先に進んでいる2頭に追い付きたいのだろうか、所在無げに前を見つめている。
「や、やっと追い付いた…じょ、乗馬って思ったよりも、きゃああ」
遅れてきた少女は、まだ慣れないのか、手綱捌きも覚束無いようで、まだ馬に遊ばれているようだ。止まりたかったのだろうが、馬は数歩先まで進んでから、急停止して頭を大きく上下動させていた。その度に少女は銀髪を振り乱しながらも落とされまいと踏ん張っている。
本人は必死なのだろうが、端から見ている直人には微笑ましい光景で、自分が小さい頃に初めて馬に乗った時を思い出して、思わず顔がにやけた。
「ちょ、ちょ、何笑って、あ、待って、ちょっと休ませて~、止まって~~」
馬が会話を遮るようにまた早足で進みだし、少女はまた必死になって手綱を握った。
「ニース、違うよ、足を絞めて、グッと手綱を引くんだ」
無駄なく馬を進ませて、ニースの横に並ぶと直人がそう教えてあげる。
えっ、よっ、こお?
とニースも言われたとおりにやってみて、ようやく馬を自分の意思で止めてみせた。
「止まった……はぁ、なんなのよもう、私の言うことは聞かないのに直人がちょっと手を貸すと止まるなんて」
「いやいや、止めたのはニースだから、馬は賢いんだ、舐められると言うことを聞いてくれなくなるよ、そうだ、上手く聞いてもらえたら、首筋を撫でながら褒めてやると、馬も喜ぶよ」
横について、ニースの馬の首筋をガシガシと撫でてやると、気持ちいいのか鼻を鳴らして応えてきた。
そうなの? とニースも見よう見まねでガシガシと撫でると、今度は鼻を鳴らしてまた進み始めた。
「もう、何でなのよ~~」
「あはははは」
ニースが馬を御するのは少しかかりそうだ。。
「ふふ、仲良くなっちゃって」
「ああ、若いってのはいいな」
並んで馬を進めながら、ティナの呟きにフォルディスはニヒルな笑みを浮かべて応える。
「あら? まるで誰かは若くないと言ってるように聞こえたけど、まさかね? 空耳よね? じゃなかったら……」
魔法の詠唱を始めようとするティナに慌ててフォローを入れるフォルディス。
四人は今共和国に向かう街道を進んでいる。
街道とは言ってもただ踏み均されて固くなっただけの地面だが。それでも人の往来の跡は、正しく目的地へと伸びている。
だから人はそこを進む、そうして草原を割くように出来た道は、要所と要所を結ぶ街道として、そこに確かな道を作っていた。
2日前、魔物大量発生から1週間が経ったとき、共和国からマリウスとティナが戻り、そこに直ぐ様フォルディスがファティマ行きの話を出して、その日の内に旅の計画が練られた。
次の日だけは何とかマリウスと話をする機会を得た直人だったが、主に直人が地球での生活をマリウスに聞かせる展開になってしまった。
マリウスも、直人の母ユウカとはまだ少女と言っていい時期に離れ離れになったので、その後のユウカのことが知りたかったと言うのが大きい。結局、この世界で、直人を狙う邪教徒の話や、龍の巫女の事、龍神、等等直人に関係しそうな事を聞き出せたのはもう夜も更けてからだった。
次の日には、旅の支度、簡易装備、旅程と目まぐるしく動き回り、夕食の時に、マリウスと話し、次の日、今日の早朝には神殿を出たのだ。
ニースをリリーヤが、ティナを神殿の神官や侍従達が、フォルディスを騎士隊の面々が、直人はマリウスにそれぞれ送り出された。
マリウスは涙を流しながら、
「日の浅い繋がりでも、私達は確かに家族です。いいですか? 家族を探すのもとても大切な事ですが、叔母として私が言えるのは、直人、あなたの無事をいつまでも願っていると言うことです。
私はここで待ちましょう。あなた達の家でもあるここで、お帰り、とあなた達に伝えるその時まで。どうか、御無事で。龍の加護があなたにあらんことを」
突然出会った叔母は、母の面影を宿して、異世界と言うあまりにも遠い距離の隔たりを越えて、家族として見送ってくれた。
その振る舞いと気持ちは直人も抱いている。
だから、直人はマリウスに返した、待っていて下さい、家族でただいまを言いに帰ってきます、と。
感傷に浸っていたが、ニースのおかげで良くも悪くも平常心ではいられるな、と心の中で思う直人。
危なっかしくて、ほっとけないんだよな……と。
今も、早足から駆け足に変わり、前の二人を追い抜いて行ってしまったニースが、馬に振り落とされまいと必死にバランスを取っているのを、同じく駆け足で追いかけながら笑みを浮かべてしまう、そんなニースに感謝しなきゃなとも思っていた。
「で、これからの展望は?」
追い越して行った二人を笑顔で見やりながら、フォルディスにこの先の事を問う。
取り急ぎ神殿を後にしたものの、お互いに居残る者達への引き継ぎや、準備などで、旅の細かい話しを全くしてないままなのだ。
それでも安心感があるのは、フォルディスのこれまでの実績と、本人は嫌がるだろうが、肩書きのお陰だろう。
「まずは、共和国で俺から直接元老院に掛け合う。そこで上手くいけば良し。だめなら、最終的にはファティマに向かうが、商業都市も一応視野には入れている。だが、まあ、あそこはダメだろうな。なんせ金が物を言って、そして、全てだからな」
最後はため息混じりに言い終えると、前方でようやく自力で馬を御したニースが少女の笑顔で直人に無い胸を張っているところだった。
そんな二人を見てニヒルな笑みに戻る。隣ではティナも二人を微笑ましく見ていた。
まあ、なるようになるさ。
旅は始まったばかりなのだ、悪いことばかりも考えていられない。
自分にもそう言い聞かせ、あまりはしゃぎすぎるな、と前の二人の元に馬を寄せていった。
夕暮れ時、一際高く造られた城壁の外で見廻りをしていた兵士が、不審な人影を見つけ、短槍を突きだしながら5歩ほどの距離まで近づいた。
「何奴、こんなところで何をしている? 顔を見せろ」
背を向け突っ立っている全身をローブで隠した相手に、警戒の声をあげる見廻り兵。
胡散臭いやつめともう一歩近づいたところでローブが体ごと振り向いた。
城壁の影ということもあり、見辛くなっているが少女のような顔立ちに、兵士の緊張も若干和らいでしまった。
娘がこんなところで何をしている、と問いただそうとした見廻り兵は、声をかけるよりも早く切り裂かれた喉から、ヒュウヒュウと息の抜けた声と、大量の血を吹き出しながら自身があっという間に作った血の池に身を沈め倒れた。
「あはぁ、ダメだよ~、不審者相手に気ぃ抜いちゃぁ」
数歩の距離を苦もなく詰め、横合いから見廻り兵の喉を裂いた少女は、右手に持ったショートソードを腰の後ろの鞘に納めながら、前屈みに、ダメだぞ、と子供を叱るように既に物言わぬ死体となった見廻り兵を叱った。
「クフフフ、あぁ、やっぱり殺しって最高~、でもでも~こんな案山子じゃ全然物足りな~いぃ、体の芯を奮わせてくれないと~」
興奮しているのか少し上気した表情は大人のそれだ、舌なめずりしながら頬よりも赤い瞳をギラつかせながら、次の獲物を求めて歩を進めた。
戦時中でもあれば見廻り兵が戻らぬ異変に早く気付けたかもしれないが、今の平穏な日常では、サボりやがって、ぐらいにしか思われず赤い瞳の殺戮者の侵入には、死んだ見廻り兵以外には城壁の外では誰も気づけなかった。どうなるかを考えれば見つけられない事が良かったかも知れないが。
この日、アルバ共和国首都ソルでは兵士11名、騎士5名、内1名はアルバの三騎士と讃えられたアニマ・ザウアー侯爵であったが、いづれも斬殺されているのが少ししてから発見された。
直人ら一行が神殿を出た次の日の出来事だった。
伏線って何?美味しいの?
伏線を色々混ぜて書きたい!でも難しい!でも書きたいから今後頑張る!