2-1.レイン
「どうしてあのままカミーユさんの所に残らなかったの?」
「残って欲しかったのか?」
「そーいう訳じゃないけど・・・」
「レイメイは気にしているんですよ。」
「自分達がお前の重荷になってるんじゃないか、とな。」
「気にするな、邪魔になったらおいていく。」
「「「ひどっ!!!」」」
あれから俺達はエムトを離れ、ハヤブサで北へ向かっている。避暑を兼ねて北の武神に会いに行くのだ。 伯爵のところで巻き上げた金貨があるので、当分フトコロは温かい。俺の金貨10枚も戻ってきた。
今回の旅は俺の我がままを聞いてもらった形だ。行った先で適当な依頼を探すそうだ・・・自由すぎるぞ、冒険者!
俺はデッキにでて柔軟運動をしている、かれこれ3時間ほど。次に腕だけでマストの上り下り。マストの径が大きいのでなかなか大変だった。走りながらマストに駆け登りはじめたところでハヤブサに怒られた。
仕方がないのでランニングにする。場所がないので体にロープを巻きつけて海に飛び込む。ハヤブサに沿って海上を走っていく。俺の流派で『水走破』と呼ぶ歩法だが、スピードがでない上に100mしか走れない。これを沈むまで繰り返す。最後に『飛天』と『縮地』も鍛錬しておきたい。俺の流儀ではどちらもよくお世話になるからな・・・
「ドゴン!!」
『警告事項、後部甲板にて異常な衝撃が確認されました。』
・・・ハヤブサから衝撃を伴う鍛錬は禁止されてしまった。仕方ない、上陸してからだ。
新鮮な食料品のため、俺達は港を見つけると寄港している。もっともハヤブサクラスが寄港できる港はあまりなっかた。そして必ずヤーンの神殿に寄ることにしている。これは何かあった時、カミーユからの鳩が飛ぶことになっているからだ。そして今はレインの港にいる。
神殿に寄った俺達は、屋台の串焼き肉をほおばりながらギルドへ向かってあるいている途中だった。その時、通りから走ってきた少年が俺の前を歩くレイメイにぶつかっていった。
「悪いねー、お姉さん!」
「もうっ、気をつけてよね!」
気をつけるのはお前だ、レイメイ。俺は残っていた肉に噛りつき、少年に向かって串を投げつけた。
「痛っ!何すんだよ!」
俺の欲しかったのはその一瞬の間だ。『飛天』は5mの距離を零にできる、『縮地』はその倍だ。だから俺はすでに少年の前に立っていた。
「うおっ!いつの間に?」
「それよりさぁ、あんなんでもうちのメンバーなんだよ。財布、返してくれないかなぁ。」
ようやくレイメイ達も事態を把握したようである。
「お、俺が盗ったなんて証拠がどこにあるんだ!」
「しょうこ・・・?」
半殺しがいいか、腕の一本もへし折ってやるか考えていると、通りの奥から2人の冒険者風の男達がやってきた。
「レッド、カイン、いいところに!こいつら、俺が盗みをしたって因縁つけるんだよ!」
「なにぃ、そいつは聞き捨てならねえなあ・・・ってお前、こいつ料理番じゃねーか、リーダーはどいつだ?」
なんて清々しい3文芝居だ。よし、ご指名だ、ここはリーダーに任せよう。
「リーダー、こちらのお方がお話があるそうですが・・・」
「お前・・・」
「先の1件のリハビリ代わりによろしいかと。」
「僕も参加決定ですか。まあ、いいとこありませんでしたからねぇ。」
「レイメイさまも、こちらの少年とお話しなさってはいかがでしょうか?」
「アンタ、ほんっとーにいい性格してるわね!」
「私、しがない料理番ですから。」
痩せても枯れてもBランクパーティーだ。カップ麺ができる時間でケリがついた。久しぶりにカップ麺食いたいな。
「確かに私が悪かったんだけどさー、あのままやればハヤトの瞬殺でしょ?」
「僕もそうは思いますけどね。」
「訓練代わり、ということだろう。」
さすがリーダー、うちのメンバー訓練嫌いが多くって。とんだ寄り道をしたがギルドに到着だ。
特に目ぼしい依頼もなく、ニー達が遺跡についての情報交換をしている。その帰り道だった。
「おおぃ、待ちな。」
うわー、3人組だ・・・懲りないやつらだな。
「先ほど、うちのメンバ―に稽古をつけてくれたのは誰だい?」
「それを聞いてどうするの?」
「もちろん、リーダーの俺も稽古をつけてもらうのさ。」
「なるほど、それではうちのルールに従ってもらいましょうか。」
「ルールだと?」
「うむ。リーダーの自分が相手に足る男かどうか、うちの料理番に先ず相手をしてもらうのだ 。」
「料理番相手だと・・・なめるなよ?」
「ふむ。うちの料理番は強いぞ?」
「そいつに勝てば、てめえが相手になるってんだな?」
「自分は嘘をつかん、ここにいる全員が証人だ。」
そういうと、レイメイ、フレイ、ニーの3人はものすごくいい笑顔を俺に向けてきた。
「こんな奴に勝っても自慢にゃならねーが・・・悪く思うなよ?」
相対距離5.5m、『飛天』では足りない。自然体で歩き、足りない間を埋めた。
「行きますよ?」
「おお、来い!」
駒落としのフィルムのように、次の瞬間に俺は零距離で左正拳中段突きを決めていた。
「やっぱり、ハヤトがやれば瞬殺じゃない~」
「絶対知覚が無ければ信じられない動きですね。」
「ハヤト、あの消える奴はやらんのか?」
ニーがいっているのは伯爵のところでやった『乱歩』だ。もちろん消える訳はなく、あくまで消えて見えるだけだ。人の認識より素早く動き回り、多人数をかく乱させる技だ。
手品師は同じ手品を2度しない。武闘家も何度も同じ技は見せない。相手に知られては意味がないのだ。相手がどんな技を持っているか分らないから恐ろしい。分らないから面白い。
次も日曜日更新の予定です。




