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1-21.エムトの聖女

 その女性は血なまぐさい裏庭に、3人の供を連れてやってきて声高らかに告げるのだった。

 「ハヤト様、あなた様は見事なる武勇を示されました。それ以上の行いはあなた様の名を汚すものとなりましょう。そして騎士キロカーン、そなたは騎士として忠節のなんたるかを示し、その名誉を守りました。もう戦いの時は過ぎました、今は体を労わるべき時です。」

 

 その声があと0.5秒遅れていれば、俺は確実に仕事を終えていただろう。だが、その声にはカリスマがあった。声を聞かせずにはおかない力があった。故に俺は仕事を終えられなかった。

 キロカーンを見ると呻き声が聞こえる。鎧を見れば水月部分が完全に変形していた。ハヤブサが余計なことをいうから知らず手加減をしてしまったようだ。


「失礼だが、名を伺ってもよろしいだろうか?」

 ええっ、嘘だろ、という気配が馬車と屋敷の二方からわいた。しかし、知らないものは知らないのだ。


「これは大変失礼をいたしました。私はヤーン教団の巫女カミーユ、世俗の名をカミーユ=S=インテグラルと申します。以後、お見知りおき下さいますようお願いいたします。」

 ヤーン教ってあれか、静止衛星を神様にしちゃってる・・・


「キングスレイ伯爵様も、今宵のことはこれまでということで宜しいでしょうか?」

「そなたにいわれて逆らうものなどこの街にはおるまいよ、聖女カミーユ。」


「聖女などと・・・私はただの巫女でございます。」

「どうあれあなたには逆らえない。今宵の座興はここまでとしよう・・・誰かキロカーンの手当を!」

「ありがとうございます。」

 どうやら鉄火場はお終いらしい。俺は馬車に駆け寄った。


「フレイとニーの傷の具合はどうだ、毒矢ではないらしいが・・・」

「フレイはともかく、ニーが・・・2本射られたから発熱がすごいの。」

「そうか、薬がいるな。さすがに伯爵には頼めんだろうな・・・」

 その時だった。


「ハヤト様、宜しければお仲間様と私どもの馬車へ。薬の用意もございます。」


 そして俺たちは2頭立ての馬車に乗っている。荷台はベンチシートのような造作で、人が何人も座れるようになっている。ただし今は床の上で、治療を終えたフレイとニーが横になって眠っている。

「礼をいうべきなんだろうな。助かったよ、ありがとう。」

「いえいえ、教徒用の馬車と設備が役にたってなによりです。」


 今、俺たちは馬車に揺られている。フレイとニーのことを思えばじっとしていたかったが、いつまでも伯爵家の裏庭にはいられない。

「カ、カミーユ様、どうもありがとうございます。でも、どうして私たちを・・・教徒でもないのに。」

「そいつは俺も知りたい。それからこの馬車は、どこに向かっているんだろうか?」


 カミーユは笑って応えた。 

「ヤーンの神殿へ向かっております、私はヤーンの巫女であるが故。お話はそこでいたしましょう。」


 夜の街道を、怪我人に気をつかい馬車はゆっくりと走った。やがて街の一画の中でも、ひときわ大きな建物の前で馬車がとまった。

「カミーユ様、到着いたしてございます。」

「ありがとう・・・みなさま、お待たせいたしました。お仲間様は私どもで中までお運びいたしますので、どうぞこちらへおいで下さい。」


 神殿の内に入っていくカミーユ。すれ違うものは彼女を見ると、軽く会釈をしていくようだ。

「どうぞこちらへ。お仲間様は救護の部屋へお連れして、横になってもらいましょう。」

「では、遠慮なく。」

「し、失礼します。」

 

 カミーユが勧めた椅子に座ると、彼女はテーブルを挟んで正面にすわった。


「では説明頂けるかな、聖女カミーユ。申し訳ないが、あなたのことを何も知らないものでね。」

「カミーユ、とお呼び下さい。『白き星の子』よ。」

「白き星の子?俺のことか・・・いつに間にそんな話になったんだ?」

「無理もありません、順を追ってお話しいたしましょう。」


 カミーユは手を叩いて侍女を呼び、人数分の茶を持ってこさせた。


「昨日、私に神託が授けられました。私は神託の巫女であるが故。そのすべてをお話しすることはかないませんが、『白き星の子』がこの世の平穏を守り、『黒き星の子』は悪魔の囁きを繰り返すという内容でした。白き衣をまとい、白き船に乗り、海の上を走るという奇跡を示されたあなたこそ、正に神託にある『白き星の子』です。」

「いや、俺はそんなもんじゃあ・・・」

「ヤーンの名のもとに平穏なるこの世界、2度と悪魔に囁かれるようなことがあってはなりません。」


 俺が白き星かどうかは知らないが、悪魔の囁きができる者はこの世界に俺の他、唯1人しかいないだろう。 俺と同じ世界からやってきて、おそらく俺と同じレベルの現代知識を持つ男・・・


「やはり、心当たりがおありですか?」

「心当たりがあるといえばあります。しかし、俺もそいつも世界をどうこうしようなんて・・・少なくとも俺は考えていません。」

「相手のお方は違うのですね?」

「それは・・・俺には分りません。」


「すべてはヤーンの意思、ヤーンのもとに紡がれ綾なすでしょう。その時、いにしえの決着がつき古き国の王が悪魔の囁きにのるでしょう・・・ハヤトよ、どうかその時が来ても判断を誤らないで。」

「カミーユ?」

「す、すいません。神託が・・・視えてしまいました。やはり、あなた様が立っておられた・・・」

「相手は分りますか?」

「あなた様と同じ黒い髪、黒い目、黄色い肌・・・みなれぬ異国とつくにの服・・・ああ、それだけです。」

「いえ、十分です。」


「私たちヤーン教団は、来る日のために『白き星の子』に味方するでしょう。しかし、私たちは剣を持つ力はありません。そのかわり、100万の教徒からの情報を提供できると思います。」

「ありがとう、カミーユ。戦の趨勢を決めるのはいつだって早くて正確な情報だ。」


 話が終わるころフレイとニーが起きだしてきた。腹が減ったらしい。カミーユの好意で簡単な食事を用意してもらい、先ほど聞いた話を繰り返した。

「ふーん。それでハヤトは何がしたいんだ?」

「それなんだがな、俺にもよく分らん。」


 みんなからジト目で見られた。

「仕方ないだろ、白だの黒だの突然いわれたんだぞ。悪魔が囁くといっても明日囁くのか10年後に囁くのか見当もつかない。そんな状態で、俺に何を求めるんだ?」

「それもそうよね。」

「もともと行くあてなしで、僕らと同行してましたもんね。」

「一応、今は冒険者だがな・・・それもBランクの。」

「そうなのですか?私はべつにここに残って下さっても構いませんが・・・」

 

 忘れないうちに、俺は気になったことを聞いておく。

「そういえば、なぜ神託の全てを聞かせてもらえないんだ?」

「それは、あなた様の判断に予断をもってほしくはないからです。」

次回投稿は日曜日となります。

楽しんでいただければ幸いです。

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