1-20.騎士団長
弓兵から見た俺は何だろう?おそらく狙いがつかずに困っているんじゃないだろうか。
「なんだあいつは、霧みたいな、煙みたいな・・・体が消えて見える。」
そんなおかしなはずはないんだが、気配さえ消えてしまうのだ。
そして1人づつ屠られていく。逃げ出した仲間の気持ちも分る。だが、あいつは背中から容赦なく射るのだ、切り付けるのだ。出鱈目だ、こんなの戦ではない。少なくとも俺達の知る戦場ではない。
気がつくと悪魔が目の前にいて、俺を睨んでいた。今は普通に見えるが、歩き出すと物語の中の吸血鬼のように、体を霧に変えるのだ。ヤーンよ!
「おまえは弓兵だったな?今日の矢は毒矢か、それとも普通矢か。」
俺には分かった。ここで嘘をつくとその瞬間死んでしまうと・・・
「今日の矢は普通矢だ、人数も少ないし。周りを囲んでいたから自分たちの矢が当たる可能性もあったし・・・」
「分った、ありがとう。」
本人にも分らないように、指弾で地獄に送ってやった。苦しませる趣味はない。
俺は馬車に戻って3人を安心させると、物語の幕引きを考えていた。伯爵は死んだのだ、家に火でも放ってやろうか?と考えていると・・・
「屋敷に火などつけないでくれたまえよ、ミズキ家のハヤトくん。」
「元気そうで何よりだ、伯爵。」
2階のバルコニーの人影に俺は気づいていた。横に近衛が立っている。・・・やはり影武者か。
「あまり驚いてはくれんのだな、残念だよ。」
「これぐらいで驚いていると、冒険者などはやっていられないそうだ。」
「ランズベールの花が病人の役に立ったのは、本当なんだがな・・・」
「それは重畳、そろそろ本題に入ろうか?」
「なに、簡単な話だ。私の部下になってくれないかね・・・騎士団所属でどうだ、給金もはずむぞ。」
「やはりハヤブサには手が出なかったか?」
「頭の良い男は好きだよ、君が配下になるなら船は勝手についてくるからね。」
「嫌だ、といったら。」
「今度は初めから毒矢を使わせてもらうよ?」
「使いたければ勝手に使え。その代り、今日が伯爵家最後の夜になると思え。」
男は少し逡巡した後、こう続けた。
「確かに君の力は認めよう。だが、仲間はどうする。確実に弓矢か剣の餌食だ。」
「それは認めよう、今も怪我を負ったようだしな。」
「ならばどうする?」
「どうもせん。」
「なにっ!?」
「俺は仲間の仇を討つだろう。」
なんだこの男は。目の前の男は狂いか?仲間が殺されるのを承知の上で、自分が仇を討つといっているのか。
「俺は瑞樹家の、隼人だ。この名を継ぐ者が負けるわけにはいかん。」
「伯爵様、差し出がましいようですがここは私めにお預け願えませんか。このままヤツと殺し合いとなるは伯爵様も望まぬところ。なれば私、キロカーンが騎士の名誉にかけて決闘を所望いたします。」
・・・これは救いなのだ、キロカーンよ儂には分る。2度目の惨劇を起こさぬため、儂の命を守るため。
「ハヤトよ、聞こえておったか?此度の決着は騎士団長キロカーンと雌雄を決せ。余人に手出しをさせぬ。」
「俺の対価は何だ?」
「対価だと!?」
「アンタの座興に付き合うんだ、金貨の100枚も貰おうか。」
「だまっておれば、どこまでもつけ上がりおって・・・」
「俺は今すぐ殺し合いを始めても構わない・・・そうすると騎士団長の気持ちを無にするぞ?」
・・・悪魔だ、こいつは。全て承知の上でいっているのだ。殺し合いはできないだろう、と。
「よかろう、大金貨10枚用意させる。」
「用意ができたら馬車にいる女に渡せ。」
「なんだと!」
「俺が負けたら取り返せばいい。」
「いいだろう、その代りこちらにも条件があるぞ。それだけの大口を叩くのであれば貴様は無手でキロカーンの相手をしてみせよ!それができぬとあらば・・・」
「いいぞ。」
「な、なに!?」
「無手でいいといっている。」
馬車の方がざわついたのは気のせいだろう。
大金貨をレイメイが確認したのを見届けると、ハヤトはまるで散歩に出かけるように歩き出した。
慌てたのはキロカーンである。騎士の名誉がかかっているのに名乗りも上げないとは・・・
「我こそはキングスレイ家騎士団長キロカーン=J=スミス、古の作法にのっとり正々堂々いざ勝負!!」
「無手を相手に正々堂々とか、さすがに騎士様はいうことが違うな。」
初撃は剣の間合いの外からの指弾であった。しかしこれは騎士剣によって防がれてしまう。
「この技は何度もみせてもらったゆえな・・・こちらも行かせてもらう。」
両手剣を大上段から打ち下ろす。ただそれだけのことであったが、なんという鋭い斬撃 か!鎧姿でこの太刀筋とは、並みの修練ではあるまい。『二の太刀要らず』の剣法に似ているな・・・
「初見で今の初太刀をよく躱したな・・・やはりおぬしは危険だ。」
「いいもの見せてもらったから、今度はこちらの番だな。」
俺は太刀の間合いから『飛天』を行った。キロカーンには突然、目の前に俺が現れたように見えただろう。
それでもキロカーンは驚きながらも横一文字に切りつけてくる。防御は鎧任せなのだろう。俺は左足踵から足を踏みおろし、軽く伸ばした左の掌底を鎧の上にふれた・・・ように見えただろう。
「ダダダン!!」
鎧姿で倒れたキロカーンは剣を落していた。俺は止めをさすべく近づいた。最近自信を無くしかけている硬気功正拳突きだ。鎧ごしでは水月も心臓も分らない、カンである。
「ドゴン!!」
下段突きとはめずらしいが、結構ダメージが通ったみたいで驚いた。そういえば、ハヤブサが何かいってたな・・・とりあえずもう一発いっとくか・・・
「ドゴン!!」
おっ、うめいたぞ。元気な奴だ、左だしな、鎧が頑丈なんだな・・・おかしいな、ずいぶん場が静かだ。
最後にもう一発・・・
「おまちください!!」
そこに見知らぬ女がまろびでた。




