幕間 彼女と出会った日
リチェリア視点ではありません。
昔、彼女と出会った時の話。
ボクはその日、生まれてはじめてのお使いを頼まれた。
その事が誇らしく、とても嬉しかった。
光苔がほんのりと光る狭く細い洞窟の道を進み、ごつごつとした岩山を越える。
山を越えた先にはどこまでも広い海からは強い潮の香りがし、その海を見下ろす丘の上には大きな街があった。
ボクは初めてみる街に興奮し、ついついお使いの事を忘れて寄り道をしてしまう。
大きな街の中には、たくさんの人が居た。
たくさんの人々は道を埋め、店を構え、家族で団らんをしていた。
にぎやかで、さわがしく、とても楽しい。
ボクはその街にあっという間に魅せられた。
街が楽しくなって、ボクはお使いの事なんてすっかり忘れて、遊び惚けていたある日の事。
ボクが目を覚ますと薄暗い檻の中に、ボクが居た。
びっくりしたボクは檻の外に向かって叫ぶけれど、檻の外には誰もいない。
魔法を使って出ようとしたけれど、ボクの言葉に力は反応しない。
息を吸うように扱えていた魔法(力)が使えない。
ボクは、ボクがお使いをさぼって遊んでいたから、罰が下ったのだと思った。
このくらいでどうしてと叫んでも檻から出る事はできなかった。
もうしませんと泣いても力は使えなかった。
ボクは、ボクの無力さに泣いて泣いて、それでも状況は変化しなかった。
ボクが檻に入れられてから、何分、何時間、何日、何週間……どのくらいの時間が経ったのだろう。
ボクの頭にはもう何もなく、一人孤独な檻の中で泣くのも止めて、目を閉じて横になっていた。
「あら、アナタはどうしてそこにいるの?」
久しぶりに聞くボク以外の声。
ぼんやりと見上げると、檻の外から小さな女の子がボクを見下ろしていた。
ぱちくりとさせた女の子の目と、横たわるボクの目が合った。
「怪我をしているの? 動けないの? 大丈夫?」
ボクが返事をしないでいれば、女の子は心配そうに声をあげた。
檻の掴んで、ぐいぐいと押したり引っ張ったりしているが、檻はビクともしない。
どこからか大きな、女の子の顔くらいの大きさの石を持ってきて、檻にぶつけるが、それでも檻は壊れない。
女の子が何をしても檻はずっと檻のまま、ボクを閉じ込めたまま。
いろいろな事を試し切った女の子は大きな目に涙をためる。
みるみる間にその口から嗚咽が聞こえ、泣き始めた。
その事が不思議で不思議で、ボクが彼女に尋ねてみた。
「どうして泣くの?」
ボクの言葉に女の子は驚いたみたいで、泣くのを止めた。
「しゃべれるの? 大丈夫なの?」
「しゃべれるよ、大丈夫ではないけどね」
女の子の問いかけにボクは答える。
よいしょっと声を出して、久しぶりに立ち上がる。
そんなボクを見て女の子はよかったと言って、檻の中に手を。
ボクに手を差し出した。
その手の中には小さな紙に包まれた、小さな何かがあった。
「チョコレート、おいしいよ?」
その包み紙をボクが見ると同じくらいのタイミングで女の子がそう言った。
チョコレート。
街に居た時に食べた、色は茶色いけれど甘くておいしい、お菓子のひとつ。
女の子とチョコレートの入ってる包み紙を見比べると女の子は笑って言った。
「アナタにあげる。おいしいよ!」
おそるおそるその包み紙を手に取って、包み紙をペリペリとはがしてチョコレートを口に入れた。
久しぶりに食べる、甘い味。
「泣かないで」
女の子が言ったその言葉で、ボクはボクが泣いている事に気が付いた。
目元をぬぐった手に涙がついていて、あれだけ泣いたのに涙は枯れていなかったのかと不思議に思った。
それが彼女とボクの出会った日の、大切な思い出のひとつ。
その数か月後、ボクは檻から出る事ができた。
喜びを伝えに彼女のもとへ飛んで行ったが、彼女は息を止めていた。
※1月4日 ちょっと訂正しました
次から本編再開です




