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11.もう一度、あの時を

「―――…さま……リ……アさま、リチェリアさま!」


 身体を大きくゆすられ、聞きなれた声に飛び起きる。

 一体何事かと思って見回すと、あきれたような顔をしたアンナが立っていた。


「おはようございます、リチェリア様」

「え? あ、おはよう、アンナ」


 戸惑う私に、アンナはまだ寝ぼけてるんですか?と笑った。

 いつもの朝のはずだが、どこかで見たような気のするやり取りに首を傾げる。


「今日から試練が始まるのですから、いつまでもそんな事では乗り越えられませんよ?」


 アンナはそう言いながら、ベッドに腰を掛けた私の肩にストールをかけ、私の足元に室内用の靴を置いた。

 試練? 試練なら数日前に全てを終えたはず……あれ?


「アンナ、今日は何年何日だったかしら?」

「もう、リチェリア様ったら! 今日はレイアーナ歴304年、緑の月の1日ですよ。大切な試練の始まる日ではありませんか!」


 私が尋ねると、アンナは腰に手を置き怒ったようなポーズで私にそう言った。

 そうそう今日は304年の緑の月の1日、試練の始まる日……え?


「ほら、起きてくださいリチェリア様。あちらにお湯を用意してありますから、顔を洗ってすっきりしましょう! ね?」


 いつもの調子でアンナはそう言い、私の腰をぐいぐいと押して寝室から追い出した。


 レイアーナ歴304年、緑の月の1日。

 それは、私の王になる為の試練の始まった日であり、女王であった私が通り過ぎた日でもあった。


 夢だと思っていた、あのゲームのオープニングのような映像や体験を思い出し、両手で自分の身体を抱きしめる。

 過去に戻った? 前世でプレイしたゲームのように?

 ずっと現実だと思っていたこの世界は、ゲームの中だったのか?

 いろいろな事が疑問として浮かび、それを私の生まれてから女王になるまでの思い出、そして女王となってからの出来事を思い出して、否定する。


 辛い事もたくさんあったけれど、これがゲームであってたまるものかと、心の底から私は思う。

 同時に、やり直しができるのだとしたら、今度こそ全員誰も死なせずに…とも思ってしまう。

 ぐるぐると堂々巡りするその二つの考えに、頭の奥がくらくらとした。


「リチェリア様、まだ着替えてないんですか!」


 叱るようなアンナの声音に振り向くと、途端にアンナの顔がくもってしまった。

 アンナは私に駆け寄ると、熱を測る時のように私の額に手を置いた。


「大丈夫ですか、リチェリア様。緊張するのはわかりますが、今日だけは休む訳にはいきませんから、気をしっかり持ってください」


 心配そうに私の顔をのぞきこみ、朝ご飯は食べれますか? 着替えられますか? と聞いてくる。

 私は笑顔を作り、大丈夫よとアンナに微笑むと、アンナの用意してくれたお湯を使って顔を洗った。

 アンナに手渡されたタオルで顔を拭き、籠へタオルを放り込み、寝間着を脱ぐ。

 そしてアンナの用意しているドレスを見て、心の中でああと呻いた。


「今日は大切な日ですからね。リチェリア様の好きな色にしましょう」


 今日見た夢の中で着ていた、女王と成る3年前のお気に入りだった、前世でプレイしたゲームと同じ、薄桃色のドレスであったのだ。



☆  ☆  ☆



 ドレスに着替え、朝食をとり、部屋に戻って髪を整え直す。

 コンコンと扉を叩く音にどうぞと告げれば、近衛騎士団の団長であり将軍のひとりでもあるネイティ・ラ・メルセルドとその息子で騎士のセルファン・ラ・メルセルドが部屋へと入ってきた。

 そう、この時点でのセルファンは、まだ近衛騎士ではなく、たくさんいる騎士の中のひとりであった。


「リチェリア殿下」

「何かしら、ネイティ将軍」


 過去に一度体験したものと同じ会話をネイティ将軍と繰り広げ、思い出にある通りにセルファンが私に付く騎士となる。

 前世の記憶(ゲームデータ)未来(むかし)の私の記憶があるからこそ、この試練は私だけのものではなく、セルファンの試練でもあるのだと私は知っていた。


「よろしくね、セルファン」


 思い出の通りにセルファンへ微笑みかけると、セルファンは私の前へと剣を置き、膝を床につけて大真面目に騎士の誓いを読み上げた。

 懐かしいなと思いながら、その誓いを受け取り剣を返す。

 前と違って、つっかえずにすらすら言えたのは経験があったからか、女王であった時の自信が今の私に残っているからか。


 そんな事を考えていると、ふいに目の前に青い色のついた向こう側が見えるくらいに透けている板が現れた。

 思い出と違う、しかし前世で見たようなソレに目を見張る。

 その板の右下の方にはスキップという文字が、左下の方にはメニューと書かれた文字が、それぞれ“日本語”で書いてあった。

 リチェリアとしての記憶にはないが、前世の私の記憶にはしっかりと残っているそれは、「プリンセス・フェアリー‐身分違いの恋模様‐」でよく見たアレだ。セリフや選択肢が出てくる、名前は忘れたがあのボードのようなアレである。


 これはどうした事なのかとアンナやセルファン、そしてネイティ将軍を見るが、目が合っても彼らは不思議そうな顔をするだけだった。このボードは見えていないらしい。

 私だけにしか見えていないそのボードと文字。

 まさにゲーム画面、そのものである。


 試しにメニューという文字を押してみようと考えれば、手をそこに伸ばす前に、装備、持ち物、大切な持ち物、ステータス、ログを見る、アルバムを見る、最初に戻る、というアイコンがボードの上に並んだ。触れなくても思うだけで操作可能らしい。


 いやちょっと待って待って。

 私はひょっとしなくても、まだ夢の中なのかもしれない。

 たしかに私の現世のいる世界は「プリンセス・フェアリー‐身分違いの恋模様‐」と似てはいるけれど、それでもゲームではなかった。痛みも悲しみもある世界、現実だ。

 だからきっと、私はロルルたちの謀反の後始末に疲れて、そのまま眠ってしまったのだ。

 目が覚めればこの夢は終わる。


 そう思えばこの夢はそれほど悪いものではないのではないだろうか?


「リチェリア様、そろそろお時間です」


 アンナの声にわかったと告げ、セルファンに促して部屋を出る。


 きっとこれは思い出を元にした夢なのだろう。

 夢の中なのだから、ゲーム画面が出ていても不思議ではない!

 ならば、せっかくの夢であるのだし、前世の知識(ゲームデータ)をフル活用して、夢から目が覚めるその時まで、2周目もどきを楽しんでやろうではないか!


 そう決意し、試練を受けるための宣誓をする為に父のいる玉座の間へと、私は急ぐのであった。

混乱っぷりや動揺具合いを書くのが難しかったです!

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