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アリアルトの森で  作者: 麻戸 槊來
踊りましょう編~番外~
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アナザストーリー ~森への招待~

皆様、いつもお世話になっております。完結してから時間が経過しているのに、再びお会いすることができ嬉しい限りです。今日は、ミツバチ(3/8)の日ですよ!


いまだにこの話へお付き合い頂いている感謝をこめて、拍手に乗せていたアナザーストーリーに少々色を付けさせていただきました。多少本編とは描き方が異なっていますが、お付き合いいただけると幸いです。



「ベルンハルトさんのせいで、私たちバカップルって呼ばれているらしいです」


「うん?また、イルザさんにからかわれたのか?彼女は妊娠中で苛立っているんだから、すべて真に受けたらいけないって注意しただろう」


「『また』って言わないでください!そもそも、ベルンハルトさんが人前で顔を近づけてきたり、額にキスしたりするから悪いんですよっ」


「俺は……どうせ呼ばれるなら『おしどり夫婦』がいいなぁ」


「うっ……だからそれは、お互いの仕事がひと段落ついてから考えましょうって言ってるじゃないですかっ」


「じゃあ、ためしに『あなた』とか『旦那様』とか呼んでみるか?」


「訳がわからないこと言わないでください!」






✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾






互いに長き戦いにつかれ、策を練るべくひとまず引いた状態にいる。

奇襲をかけるべく踏み出そうとしても、少しくらいの動揺では戦況を有利な方へは導けない。どうやら相手も国への良い土産が欲しいらしく、死に物狂いで攻め込もうとしてくる。


仕掛けた密偵によると、相手を指揮する者は第三王子だが金遣いが荒く。女癖も悪いというぼんくらだった。今回我が国を負かすか、最低でもいい条件を飲ませなければ国へ戻っても明日は望めないという。こんな馬鹿な奴ら、本来であれば我々にとって恐るに足りない。―――しかし悪い事に、奴らがひきつれているのはなかなかな精鋭の上、『仮初めの指揮官』である第三王子の後ろについたものは優秀だったようだ。


「我々と渡り合うだけの力があるのに、どうしてあのような者の下に甘んじているのか……」


思わずそんな本音が零れるほどに、好ましくない状況に立たされている。皮肉にも空は青く澄んでいるのに、周囲の表情は曇っている。

この状況にひと波ほしい所だが、いい方法が浮かばない。


「何か手はないものか…」


「―――あれを、出しますか?」


「アレか……」


ここで上官、副官がそろって思い浮かぶのは一人しかいない。

だがあまりに手綱を握るのが大変過ぎて、あとの始末に苦労するのだ。何をするのにも規格外で、敵のみならず味方までをも攪乱するありさま。しかしそんなことでもなければ、正しく整列した敵軍を乱すことはできないであろう。


「―――よい。いい案が浮かばぬ今、アレを出すしかなさそうだ」


馬に乗った此度の指揮官は、深い息を吐いた後に下の者に指示を出した。


呼びかけられて、一人の男が姿を現す。

上の者たちが神妙な面持ちでいるにもかかわらず、その男はこの雰囲気の中飄々とした様子で進み出た。勇猛な男たちの中でも、一際大きな体の者が足を進めれば、自然と周囲も道を開ける。呼ばれた男は己の背丈ほどありそうな大剣を軽々と抱え、上官たちの指示を待つ。


「いいか、少し敵の意表を突くだけでいいのだ」


「わかりましたよ。統一を乱せばいいんですよね?」


まるで子どもに言い聞かせるかのように、言い含められているのにもかかわらず、男は聞いているのか怪しい軽い口調で答えてみせる。ただでさえこの男に任せていいのか悩んでいたところだというのに、その様子はさらに周囲の危機感をあおる。


戦場にいるのとはまた異なる緊張感に、訳を知らない者たちまでもピリピリとした雰囲気に包まれだす。



男が勢いよく大剣をその場に突き刺すと、他の者がもってきた槍を持ちかまえた。

弓さえ届くか怪しい距離なのに、何をしているのかとあきれる仲間もいる。けれど不思議な顔をするのもあざ笑うのも一部だけで、ほとんどの者は上官も加えて真剣なまなざしを向けている。


「おまかせ……あ、れっと!」


軽口をたたく要領で、飛ばした槍は到底届かないだろうと思われた。

しかし、そんな考えを優に裏切り、男の放った槍は敵軍のなかへ命中した。その槍自体に傷つけられた者はいなかったが、群れを乱すのには十分だった。




ありえないと思われた奇襲に、劣勢かとも思われた戦況が乱されている。

群れの中心にまでは届かなかったが、自分たちよりほんの少し高台にいるだけの彼らからのありえない攻撃は、戦いに慣れた者までも動揺を誘われた。馬は落ち着きをなくし、落馬するものまで出ている。上の者はそんな集団を落ち着けるのに必死で、次なる攻撃に備えることもできない。たった一つの攻撃を皮切りに、ぞくぞくと兵が乗り込んできて混乱はさらに広がる。


槍を投げた男も大剣を振り回し、その力で数人をいっぺんに吹き飛ばしている。

長期戦をも覚悟された戦いはそれを機に動きを見せ、予定されていた半分の日数で終結された。






✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾






ようやくもぎ取った非番を利用し、あくびしながら街を歩く。

そんな姿を見てある者は苦笑し、ある者はしゃんとしろなんて声をかけてくる。至る所かけられる声にやる気のない表情と態度で応えるが、時々「出来立てでうまいから、これを食べろ」なんて食い物を押し付けられるのは、ひとえに騎士団の人気が高いからなのだろう。


「ベンノさん」


聞き覚えのある声に呼び止められ、びくりと肩を震わせた。

しかし、よく考えてみればその声は若く青年のもので、自身が恐れている対象ではないのだと気づき安堵した。びくついていた己をごまかすように、男はくるりと振り向いた。


「また大暴れしたみたいですね」


「おいおい、英雄に向かって大暴れったぁ酷いじゃねぇか。『活躍した』の間違いだろ?」


そう訂正すると、青年は片眉をあげてみせる。

小憎たらしいのに憎めないそんな仕草は、彼の母親を思い出させる。薬師である彼は、王宮薬師とのつながりも深いため、もう先の戦いを知られたのだろう。これだけなら特別驚くことでもない。いつものようにぐしゃぐしゃと髪を乱して見せると、幼いころのようにむっとした表情を向けてくる。


彼の父親は大柄なのだが、この青年はどちらかと言えば細身だ。

それは、まだまだ育ち盛りなのだから特に気にする必要はないというのに、「僕の母は、ベンノさんの半分しかありません」などと言われてしまえば黙るしかない。


さすがに半分とは言い過ぎなのだが、同じ男としてあの可愛らしくも控えめな背丈に似るのは御免願いたい所だろう。そんな両者にとって事実とはいえ失礼な事を考えていた罰が当たったのか、目の前の青年から爆弾が落とされた。


「うちの親から伝言です。『暴れ大熊』なんてたいそうな名をもらっている癖に、説教される度胸すらないのか情けない。とっとと家まで顔をみせに来いとのことです」


「げっ、もう親父さんにバレているのか」


この青年の父親は恩師であり、この国の隊長を長く勤めていた人でもある。

この人ほど隊長職を長く務めた人はおらず、今でも指南役として騎士団へ顔を出している。この人から特別に指導を受けたこともあり、今でも頭が上がらない。なにせ、俺がこうしてまともに生きていられるのは、この家族のおかげなのだ。たとえイラついていようとも、年下のこの青年すら手荒に扱うことはできない。


「いえ、これは母からの言葉です」


「おいっ、お袋さんにまでバレているのか!」


今度こそ困ったことになったと、頭を抱える。

彼の父親にバレることは覚悟していたが、まさかこんなに早く彼の母親まで話が届くとは思わなかった。誰がバラしたのかと怒りがこみ上げたところで、「人の口に戸は立てられませんよ」などと年若い青年に敏され肩を落とす。





恩師は戦場でこそ恐ろしいが、普段は穏やかな人徳者だ。その点、奥さんである女性も優しくはあるのだが口が立つタイプで、頭もまわるから一度も勝てたためしがない。恩師は街でも評判の愛妻家で、彼が彼女より優位に立っているところは一度も見たことがないのが、二人の力関係を物語っている。


―――しかし、たしなめ役の恩師も彼女の身が危ぶまれたり、恋敵になりえる存在が出てくると話は別で。

それこそ戦場で、狂った野獣だなんだといわれていた恐ろしさを充分に発揮していたという。未だに騎士団の中で語り継がれている話は、一つや二つではない。奥さんのほうが怒っているとなれば、恩師も黙っていないだろう。


怒涛の勢いで言葉を紡ぐ奥さんと、たんたんと正論を交え諭してくる恩師。

そんな強力なタッグが待ち受けているのかと思えば、遠のいていた足がさらに重さを増した気がする。普段戦いから戻ると、まずは恩師の家までごちそう目的にあいさつへ行くのに、数日たった今も顔を見せていない。


そんな状況に焦れて、とうとう息子という刺客が送られてきたことに深く息をつく。


「早くしないと、母さんが直々にやってきますよ」


「わぁってるよ!」


そんなことにもなれば、公開説教となることは目に見えている。

俺といいとこ勝負の体格を持つ大柄な恩師にではなく、小柄な奥さんのほうに小突きまわされる己を想像してさらに追い込まれた気がする。

八つ当たり交じりに喚いてはみたが、そんな男の様子など慣れたものといった風に青年は苦笑しつつ立ち去った。






背を見送ってから、どうしたものかと自身も歩き出す。


「ベアーさん!」


鈴を転がすような声が聞こえ、眉をしかめる。

何もこの声の主に逢うのが嫌なわけではない。呼ばれ方が気に食わないのだ。


「だからっ、俺はベアーじゃない!ってんだろうが、馬鹿娘!」


振り返ってみると想像通り、にやりといたずらな笑みを向けてくる少女がいた。

背丈はある方だと思うのだが、すらりと伸びた手足は細く華奢に見える。


「そんなこと言っても、こう呼んだ方が一度で振り向いてくれるじゃないですか」


思わぬ反撃を食らい舌打ちする。

これは、前回名前を呼ばれても答えなかった時のことを示しているのだろう。不意打ちで呼ばれた名に、予想以上に驚いてしまって反応が遅れたのは不覚だった。その時も彼女にころころと笑われ、「自分の名前に驚いてどうするんですか」などと言ってからかわれた。驚いたのは『彼女が発すると、こんなにも己の名前に甘さが加わるのか』という点なのだが。


あれ以来、変に意識してしまい名前を呼べと強要できなくなってしまった。


「それに、本当にベアー人形とそっくりなんですよ!」


「知るか、そんなもん!」


目をキラキラさせて言い募る彼女に、叫び返す。

数十年前に流行ったその人形は、ベアーと呼ばれ人気がある。街で流行の店で売られていたというそれは、最近復刻版として販売されてから人気がぶり返しているのだ。



そもそもの始まりは、女店主がとある夫婦の結婚祝いに贈った人形だと言われている。


何を隠そう、その夫婦とは恩師たちのことだというのだから、世の中は狭いと驚かされる。いつしか恩師をみながら、「昔の、この人にそっくりなのよ」なんて奥さんが笑いながら見せてくれたことがあった。それは今売れている人形よりも、もう少し目つきが悪いように思えて複雑な気持ちになったのを覚えている。

だが、今話題のその人形には、昔と変わらず頭や肩などどこかしらに小さな妖精がついているのには、あながち似ていないこともないかと納得させられた。当の本人は、「『変わった小人』呼ばわりの次は、妖精ですって!?どんどん小さくなっているじゃないっ」と怒り、恩師に窘められていたが。


俺の恩師の知人が営んでいるその店は、美人店主が営んでいるうえに商売上手だ。男からすれば、なぜあんな目つきの悪い人形が売れているのか甚だ疑問だが、例にもれずこの少女も夢中になっている。




以前に流行ったときは単なる人形だったが、今回は着せ替えなどもできるように人形に合わせた服を購入することもできる。現在では妖精が取り外しできるようになったり、妖精が服へ元から刺繍されていたりする。



季節に合わせた限定品もあるのだといって、彼女に連れられて行列に並んだのは苦い思い出だ。

どうせなら知人として手に入れられないか口利きをしようと提案したのだが、『自分の力で好きなものを手に入れるから、価値があるんじゃない』などと呆れた顔で断られた。それでいて、『一人で並んでもつまらない』と少ない休みをそんなことに付き合わせるのだから、よくわからないこだわりだと息を吐くしかない。


「―――クマさん隊長のところに行くなら、ついて行ってあげましょうか?」


溜め息をついたところで、そんな事を言われて目を瞬かせた。

俺があまりにも気乗りしない様子だったため、恩師たちに呼び出されているとわかったらしい。厳密には隊長ではないのに、街へ暮らすものは尊敬と愛を込めてこの名で恩師を呼ぶ。恩師に至っては「もう隊長ではないし、妻にようやく名前で呼んでもらえるようになったのに……」と、嘆きとも呆れともとれない表情で、結局しょうがないと笑っていた。そしてそんな姿を、奥さんはにこにこ笑ってみているのだ。


嗚呼、何だか無性に蜂蜜のふんだんに使われた手料理を食べたくなってきた。


「おうっ!ありがとよ」


森へ行くべく、少し憎たらしくて……なかなか可愛らしいと思えてしまった少女の手を取り、歩き出した。






✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾







「ねぇ、ベルンハルトさん。これからも末永ぁく、よろしくお願いします」


「もちろん、喜んで傍にいさせてもらうよ。何なら、可能な限り張り付いていてもいい」


「いや、張り付くのは結構です。薬の調合だってやりにくくなるし……って、そんなにあからさまに落ち込まないでください!」



期待外れになっていないと、いいのですが……。

お付き合いいただき、本当にありがとうございます。

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