アイドルになろうよ
藤樹明は鬱々とした気持ちで、大通りを歩いていた。
「まずい、このままじゃいい苗子を見つけられなかったら、俺はクビだ!」
三流マネージャーである藤樹明は、自分の前途が真っ暗だと感じていた。
目の前の空き缶を一脚で蹴り飛ばすと、一声の叫びが聞こえてきた。
しまった。
藤樹明は急いで駆け寄って謝った。「すみませんすみません、わざとじゃないんです、大丈夫ですか?」
一人の女生が地面にしゃがみ込んで頭を押さえ、涙目で藤樹明を見ていた。
藤樹明は呆然とした。目の前のこの女生は、自分のオーディション基準に完全に合致していた。
女生は何も言わず、ただ黙って立ち去った。
藤樹明は彼女の後ろ姿を見つめながら、心の中で何かを決意したようだった。
前に進み出て尋ねた。「すみません、アイドルになってみませんか?」
女生は不思議そうに彼を見た。藤樹明は自分の名刺を取り出して彼女に差し出した。
女生は両手で受け取り、その名刺を見た。藤樹明は自分ができるだけ猥琐に見えないように努めた。
「俺はスカウトです。君はアイドルの条件にぴったりだと思うんですけど、考えてみませんか?」
女生は首を振り、名刺をしまい、丁寧にお辞儀をしてから立ち去った。
彼女が行こうとするのを見て、藤樹明はこの機会を諦めたくなかった。さらに前に進み出た。「考えてみてくださいよ、アイドルは本当にいいですよ、稼げるし、しかもあなたを支持してくれる人たちもたくさんつきますよ。」
彼がまだ諦めないのを見て、女生はついに口を開いた。「私はアイドルに興味ありません。もうついてこないでください。」
彼女の声はとても澄んでいて心地よかった。藤樹明も足を止めた。
女生は急いで加速して立ち去った。そしてあの名刺も、彼女が無意識のうちにポケットにしまい込まれていた。
藤樹明は会社に戻り、上司に頭ごなしに怒鳴られた。
涙も出ない気持ちで荷物をまとめた。彼は自分がいずれ去らなければならないことを知っていた。それならせめて体裁よく辞めたほうがいい。
時間は早く過ぎ、すぐに退勤時間になった。彼は居酒屋でしっかり食べて、自分の失業を祝うことにした。
酒足飯飽の後、彼は近道をして帰った。
ある路地を通りかかったとき、藤樹明は歌声を聞いた。
音の軌跡を辿って探すと、藤樹明はなんと今日出会ったあの女生だった。
彼女は静かにアパートの下の長椅子に座り、夜風に吹かれながら夜景を見つめ、そっと歌を歌っていた。
藤樹明は酔いが大半分醒めた。電柱にもたれかかり、女生の歌声を聞いていた。
突然、女生は誰かに覗かれていることに気づいたようで、あたりを見回した。藤樹明は前に出て言った。「こんばんは、また会いましたね。」
「あなたは……昼間のあのスカウト?」
女生が自分を覚えているのを見て、藤樹明は驚喜した。「そうですそうです、俺が言ったこと、もう一度考えてみてくれませんか?」
「いいえ。」
あっさりと断られた。藤樹明は笑って、女生にさよならを言った。
彼が去るのを見て、女生はあの名刺を取り出した。彼女は数時間前に気づいていた。
藤樹明。
この文字を見て、女生は首を振り、名刺をポケットにしまい、唯一の娯楽を続けた。
翌日、藤樹明はずっと会社でサボりながら退勤時間まで過ごした。社長は彼の様子を見て、何度も首を振った。
彼は道を歩いていて、突然何かに導かれるように、女生が昨日いた場所へ向かった。
やっぱり誰もいないのか。
藤樹明は少し失望し、意気消沈してここを離れた。
前にコンビニがあったので、彼は入ってビールを一本買った。
お金を払おうとしたとき、突然目の前のこの人がどうしてこんなに見覚えがあることに気づいた。
「あっ、あなた!」
この声にレジ係がびっくりした。彼女は藤樹明を見た。「またあなた?」
そう、このレジ係こそあの女生だった。
「なあ、俺たち何回も会ってるだろ、そろそろアイドルにならないか?」
藤樹明は機会があるたびに勧誘を始めたが、女生は全く相手にしなかった。
彼女がまだこんなに頑ななのを見て、藤樹明もあまり絡まず、お金を置いてさっさと立ち去った。
女生は彼が去ったのを見て、小さくつぶやいた。「なんでいつも彼に会うんだろう……」
その後数日間、藤樹明は毎日ここに来てビールを一本買った。他でもない、彼女と顔見知りになるためだけに。
最初は女生も相手にしたくなかったが、藤樹明は決して過激な行動を取らなかったので、女生も次第に彼と交流するようになった。
ある夜、藤樹明はいつものようにコンビニにビールを買いに来たが、数人の金髪がだらしなくカウンターの前に立っているのを見つけた。
女生は嫌そうな顔をしていたが、数人のチンピラはますますエスカレートし、手を伸ばしてきた。
女生は目を閉じた。しかし突然悲鳴を聞いた。目を開けると、藤樹明がその金髪の手首を掴んでいた。
そっと押すと、その金髪は痛そうに手を引っ込め、大声で罵った。「誰だお前?余計なことすんな!」
藤樹明は女生の前に立ち塞がって言った。「俺は彼女の兄だ。何がしたいんだ?」
数人の金髪が殴りかかろうとしたとき、藤樹明は電話を手に取って言った。「よく見ろ、警察がもうすぐ来る。よく考えたほうがいいぞ。」
数人は不満そうに彼をしばらく睨んだ後、コンビニを出て行った。
「ありがとうございます。」
女生は彼にお辞儀をした。藤樹明は何も言わず、ただビールを一本手に取って会計をして立ち去った。
彼が去ると、女生の心は突然乱れた。彼女はその奇妙な感覚を無理に押し込めた。
彼は、明日も来るだろうか?
数日が過ぎ、藤樹明は相変わらず毎日一回は来ていた。ただこの数回は買ってすぐ帰るのではなく、わざわざカウンターの前でしばらく留まるようになった。
女生も彼の存在に慣れ、彼との交流も次第に多くなっていった。
会話の中で分かったことだが、女生は大学生で、家には誰もおらず、学費を滞納しているためバイトに来て借金を返しているのだった。
藤樹明がいくら借りているのか尋ねると、女生はこの数日で彼をかなり信頼するようになっていたので、何も考えずに言った。「80万円。」
80万か……これは俺の全財産だ。でも……俺は一度賭けてみたい。
缶の酒を一気に飲み干し、彼は言った。「こうしよう、俺が立て替えてやる。君もコンビニのバイトはやめろ、危ない。」
女生は少し震えながら言った。「なぜ私を助けるんですか、私にはあなたに80万出す価値なんて何もない。」
彼女はよく分かっていた。この世界に誰かが理由もなく自分に親切にするはずがない。このスカウトはきっと何か目的がある。
藤樹明は耳をほじり、気にしていないふうに言った。「まだ話は終わってないぞ。俺が先に立て替えてやる、君はアイドルになって俺に返せ。ただ債権者が俺に変わっただけだ。」
「俺の会社と契約すれば、君が売れてから返してくれても遅くない。」
しばらくして、女生は尋ねた。「じゃあ、私がずっと売れなかったら?」
「そしたらゆっくり返せばいい。急かさないし利息も取らない。」
藤樹明は脈があるのを見て、続けた。「考えてみろよ、アイドルをやれば俺という知り合いがついてる。ここでレジ係をやってたら、この前のことも見ただろ、どれだけ危ないか。」
女生は眉をひそめた。藤樹明は頃合いを見て、笑って言った。「そんなにすぐ返事しなくていい、まず考えてみてくれ。」
出口に着いたとき、彼は突然尋ねた。「そういえば、俺の名刺まだ持ってるよな?」
「うん。」
藤樹明は笑って言った。「じゃあ、必ず電話してくれよ。」
そう言ってコンビニを出て行き、女生一人がこのことを考えるために残された。
夜、彼女はこの数日の彼の様子を思い出した。とても距離感があり、とても親しみやすかった。
まさにこの成熟した感じが、彼女の心に少し違う感情を芽生えさせた。
彼女は名刺を裏返し、ペンで裏に一行の文字を書いてから、そっとポケットにしまった。
さらに数日が過ぎ、藤樹明は相変わらずビールを買いに来ていたが、女生は何事もなかったかのように見えた。
彼は思わず心の中で震えた。まさか失敗したんじゃないだろうな?
家に帰った後、藤樹明は不安そうにスマホを机の上に置き、今日彼女が電話をかけてくることを祈った。
「プルル……」
やはりこの数日の神頼みは効果があったようだ。藤樹明は電話に出ると、中からいい声が聞こえてきた。
「藤樹さん、今お忙しいですか?」
「忙しくないよ、言ってくれ。」
藤樹明の今の声は甘ったるくて死にそうだった。電話の向こうも少し驚いたようだった。「藤樹さん、大丈夫ですか?」
「コホン、大丈夫だ、続けてくれ。」
女生は決心して言った。「よく考えたんですけど、藤樹さんの提案、受けます。」
自分の飯の種がついに守られたのを見て、藤樹明は感動のあまり涙を流した。
「でも、藤樹さんに一つお願いしたいことがあります。」
藤樹明は胸を叩いて言った。「何だ、言ってくれ。」
電話の向こうでしばらく躊躇していた。藤樹明がどうしたのか聞こうとしたとき、彼女の声が聞こえた。
「藤樹さんには、私だけを専心誠意持って担当してほしいんです。私以外の誰も担当しないでください。」
ただのこの小さな要求だと見て、藤樹明は二つ返事で承諾した。
向こうからそっと笑うような声が聞こえたが、すぐに抑えられた。
藤樹明は一度会おうと提案し、女生は快く受け入れた。
公園で、藤樹明はきちんと身なりを整えて長椅子に座っていた。彼はちょうど社長に、新しい星を連れて帰ると伝えたところだった。
今に至るまで、彼は社長のあの信じられないような口調を忘れられなかった。
「藤樹さん。」
一声の呼びかけが彼を過去から引き戻した。藤樹明は顔を上げて女生を見た。彼女はなんと魅力的だった。
女生は恥ずかしそうに言った。「どうですか?」
「完璧だ、完璧すぎる、君はまさにアイドルのために生まれてきた!」
藤樹明は嬉しそうに彼女の周りを何周か回り、女生の顔を真っ赤にさせた。
「そういえば、まだ君の名前を聞いてなかったな。」
藤樹明はこの数日女生と雑談していて、名前を聞くのを忘れていた。
女生の目がきらめいた。彼女は笑って言った。「藤樹さん、今になって名前を聞くなんて、本当にあなたの専門性を疑いますよ。」
藤樹明は気まずそうに頭をかいた。女生は耳元の後れ毛をかき上げ、そっと言った。
「私の名前は、雨宮玲奈です。」




