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6:虚飾……実際の価値が伴わないのに、外見ばかり華やかに飾ること

突如、バラルガが口を開けたかと思うと、ジャラジャラとした金属が溢れ出した。


「はぁっ?」

兵士が悲鳴を上げて飛び退く。


地面に散らばったのは、緑色の胃液にまみれた大量の銀貨、金貨、宝石類だった。

「あー、すっきりした。主、これで足りるでしょうか」

「……」


 もしやこいつ、捕食した冒険者の所持金を胃に貯めていたのか。


「うげぇ……なんだその汚ねぇ金は。しかも臭」

兵士は鼻をつまみ、周囲の列に並んでいた商人や旅人たちも、「なんだあいつら」「え、やばくね」とひそひそと囁き始めた。


「拾ったんだ。洗えば使える、はずだ」

ゼルは無表情で、胃液まみれの銀貨二枚を足先で弾き、兵士の足元へ転がした。


「金は金か。さっさと行け。二度とここに来るなよ」


なんとか門を潜り抜け、ゼルたちは街へと足を踏み入れる。

「申し訳ありません、主。お見苦しいところを」


「構わない。結果的に通れたのだから。それより金は?」


「この通り! きれいに回収してきました」


「その金を使って、やることがある。ついてこい」


ゼルはショーウィンドウに映った自分たちの姿を見て、深く溜息をついた。

「服だ。俺とお前の格好は目立ちすぎる」


ショーウィンドウに映っているのは、全身を禍々しい黒のフルプレートアーマーとボロボロのマントで包んだ、いかにも怪しい男。


「1500年前の俺は、こんな格好をしていたのか。恥ずかしい」

多少のかっこいいファッションを知るゼルにとって、かつての正装はひどいものだった。


「そんなに恥ずかしいものでしょうか? 私はかっこいいと思いますよ」

「お前の趣味とは合わん……とりあえず行くぞ服屋に」



***



 数十分後。 ゼルたちはバラルガが吐き出した資金で、ごく一般的な服を購入していた。ゼルは動きやすい革鎧に紺色のフード付きローブ。バラルガはポンチョと、少し上等なズボン。


「ふむ、体が軽いですね。悪くありません」

「ああ。これで少しは風景に溶け込めただろう」


 さて服は確保した。次は情報だ。人間の技術、勇者の動向、そしてこの時代の力関係。それらを知るには専門の連中が集まる場所が一番早い。


「行くぞ、『冒険者ギルド』へ」


街の中央に位置する巨大な石造りの建物。剣と盾が交差した看板が掲げられたその場所へ、ゼルたちは足を踏み入れた。


扉を開けた瞬間、熱気と酒の匂い、そして荒々しい怒号が押し寄せる。

「おい。この依頼料安すぎだろ。生死かかってんだぜ?」

「新人ちゃん、こっちで飲まない~?」


ゼルはギルド掲示板に寄り、腕を組みながら目を通した。そこには依頼と引き受ける人名。推奨ランクなど書かれていた。


「主、どうしました」

「少々、懐かしいと思ったのだ」


ゼルたちはカウンターへと向かう。


「登録をしたい」

受付の若い女性職員に声をかけると、彼女は笑顔を向けた。

「はい、冒険者ギルドへの登録ですね。お名前と、得意な武器や魔法を教えてください」


「ゼル・アル……」


 危ない。魔王の苗字、アルヴァルトは言ってはいけないな。


「ゼルだ。魔法は『移動魔法』」

「バラルガと申します。得意なのは……肉弾戦と、『重力魔法』です」


「移動?」

受付嬢の手が止まる。彼女は少し困ったような顔でゼルを見た。


「えっと、バラルガ様の重力魔法は稀に聞きますが……ゼル様の移動魔法というのは、テレポートのことでしょうか?」


「ああ、そうだ」


その瞬間、カウンター近くで飲んでいた数人の冒険者が吹き出した。

「ぶはっ。おい聞いたかよ! テレポートだってよ」

「移動魔法使いか! お前、喧嘩になったら真っ先に逃げる気か?」

「荷物持ちにはいいかもしれねぇなぁ。ハハ!」


店内に嘲笑が広がる。 やはりこの時代、非実体系――特に攻撃手段を持たないとされるテレポートへの評価は底辺だ。


「……」

バラルガの殺気が漏れ出ていたので、ゼルは手で制した。

「構わん。事実、移動魔法だ」


「コホン。では、魔力測定と実技試験を行います。奥の修練場へどうぞ」


案内されたのは、石畳が敷かれた広い屋内修練場。中央には、魔力を測るための巨大な水晶玉が置かれている。


「ではまず水晶に手を。魔力量と属性適性を測ります」


まずはバラルガが手を置く。 水晶が激しく振動し、濃密な銀色の光が溢れ出した。


「計測不能。Aランク……いえ、それ以上の魔力反応」

試験官が目を見開く。野次馬に来ていた冒険者たちも静まり返った。

「おい、あいつ何者だ」

「すげぇ魔力だぞ」


「ふん、こんなものだな」

バラルガは主であるゼルへ頭を下げた。

「お先に失礼しました、主」


次はゼルの番だ。 あの怪物の主というからには、さぞかし凄い魔力量に違いない。周囲の期待が高まる中、ゼルは水晶に手を触れた。


シーン。 水晶は、薄ぼんやりとした透明な光を放つだけ。振動もしない。


「はい?」

試験官が水晶を叩く。

「あれ? 故障かな。いや、反応はあります。ですが……魔力量は一般人以下。属性は『無属性・移動魔法』のみ」


「ぷっ」

爆笑の渦が巻き起こった。

「なんだよ期待させやがって」

「おいおい、移動魔法しか使えない一般人が冒険者だってよ」


試験官は気まずそうに咳払いをした。

「えー、バラルガさんは即戦力としてBランクスタートが可能ですが……ゼルさんは、魔力量も少なく、非実体系のため戦闘能力に欠けると判断されます。よって」


試験官は残酷な表情をする。

「最低ランクの『F』からのスタートとなります」


「Fか」

ゼルは全く動じることはなかった。


 大体想像はつく。魔力の無さ。出来損ないがここで出たな。


「おい待てよ試験官!」

その時、ニヤニヤと笑う大柄な男が試験場に入ってきた。背中に大剣を背負った、Cランク冒険者の男だ。


「なあなあ、俺が相手してやるよ〜。一撃で死なねぇか心配だからよぉ」


ゼルは試験官の方を見たが、止める様子もなく俯いている。


「Fランクでも甘ぇんじゃねぇか。おい、逃げる準備はできたか? 坊主」


ゼルはゆっくりと男を見上げる。その瞳は、ゴミを見るように冷え切っていた。

「……逃げる?」


ゼルは一歩前へ出た。


「乗ってやるよ」

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