38:不遇……才能、人物に値する地位を得ていないこと
腕の中のリナの瞳が、ゆっくりと焦点を結ぶ。
濁っていたはずの視線が、急速に澄んでいく。
その瞬間だった。
リナの体の奥で――
パキッ。
氷が割れるような音がした。
「……?」
エタの眉が動く。
次の瞬間。
ドンッ――とリナの胸が大きく跳ねた。
まるで雷に打たれたように。止まっていた心臓が、強引に叩き起こされたかのような鼓動。
「ッ――!」
エタの腕の中で、リナの体が強く震える。
その瞬間、周囲の空気が凍りついた。
床。
空気。
血。
すべてが、一瞬で白く染まる。
「な……」
エタが言葉を失う。
足元から、氷が広がっていく。石床を押し割りながら、透明な氷が地面を覆っていき、巨大な氷柱が地面から噴き上がった。
エタの背後から左右。
逃げ道を塞ぐように。
そして――
ドンッ!
エタとリナの周囲を、巨大な氷の壁が囲んだ。
まるで闘技場のように。まさに氷のフィールド。
「……!」
エタが後ろへ跳ぶ。
だが遅い。
すでに四方を氷壁が囲んでいた。高さは建物ほど。外へ出る隙間はない。
「リナ……?」エタが呟く。
腕の中にいたはずの彼女は、もうそこにはいなかった。
数メートル先。白い息を吐きながら、静かに立っていた。
その体から、冷気が流れ出している。床に触れた血が、一瞬で凍りつく。
エタの目が震える。
「……好きだ」
その言葉は最後まで出なかった。
リナの目を見たからだ。
その目に宿っていたのは、
感動でも、
再会でもない。
冷たい光。
思跡魔法すら使わなくてもわかる。
今、リナは戦場に立つ者になった。
リナはゆっくりと肩を回す。
凍っていた体を確かめるように。
パキ、パキ、と氷が砕け落ちる音と共に、口から氷の粒を吐き出す。
「やっと、動く」
小さく呟く。
その声は、どこか疲れていた。
そして視線が、エタへ向く。
エタの体がわずかに震える。
「リナ……やっぱり君は私を」
その時。
リナの視線が、ほんの一瞬だけ横へ流れた。
フィールド外に立つ男へ。
ゼル。彼は一歩も動いていなかった。
ただ、フィールドを外から眺めている。
まるで観客のように。
リナとゼルの視線が合う。
ほんの一瞬。その目は言っていた。
『――見てろよ』
そして、
『――邪魔すんなよ』
ゼルは小さく息を吐く。
そして壁にもたれた。
「確かめてやるよ」
誰にも聞こえない声で呟く。
「好きに、壊せ」
氷のフィールドの中。
リナはゆっくりと拳を握る。
視線はエタから外さない。
「リナは汚されるんだよ! ゼルという奸物に」
さっきだってそうだ。なんだ? 彼のために私を相手にする。リナは私だけのために動いてくれればいいのに!
「エタ・リヒト」
その名を呼ぶ声はあまりにも冷たかった。怒りも情けも何も詰まっていなかった。
「続き、やろうか」
氷の床が、ミシッと鳴った。
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