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38/50

38:不遇……才能、人物に値する地位を得ていないこと

腕の中のリナの瞳が、ゆっくりと焦点を結ぶ。

濁っていたはずの視線が、急速に澄んでいく。


その瞬間だった。

リナの体の奥で――


パキッ。

氷が割れるような音がした。


「……?」

エタの眉が動く。


次の瞬間。

ドンッ――とリナの胸が大きく跳ねた。


まるで雷に打たれたように。止まっていた心臓が、強引に叩き起こされたかのような鼓動。

「ッ――!」


エタの腕の中で、リナの体が強く震える。

その瞬間、周囲の空気が凍りついた。


床。


空気。


血。


すべてが、一瞬で白く染まる。

「な……」

エタが言葉を失う。


足元から、氷が広がっていく。石床を押し割りながら、透明な氷が地面を覆っていき、巨大な氷柱が地面から噴き上がった。


エタの背後から左右。


逃げ道を塞ぐように。


そして――


ドンッ!


エタとリナの周囲を、巨大な氷の壁が囲んだ。


まるで闘技場のように。まさに氷のフィールド。

「……!」


エタが後ろへ跳ぶ。

だが遅い。


すでに四方を氷壁が囲んでいた。高さは建物ほど。外へ出る隙間はない。


「リナ……?」エタが呟く。

腕の中にいたはずの彼女は、もうそこにはいなかった。


数メートル先。白い息を吐きながら、静かに立っていた。

その体から、冷気が流れ出している。床に触れた血が、一瞬で凍りつく。


エタの目が震える。

「……好きだ」

その言葉は最後まで出なかった。


リナの目を見たからだ。


その目に宿っていたのは、


感動でも、


再会でもない。


冷たい光。


思跡魔法すら使わなくてもわかる。

今、リナは戦場に立つ者になった。


リナはゆっくりと肩を回す。

凍っていた体を確かめるように。


パキ、パキ、と氷が砕け落ちる音と共に、口から氷の粒を吐き出す。


「やっと、動く」

小さく呟く。


その声は、どこか疲れていた。

そして視線が、エタへ向く。


エタの体がわずかに震える。


「リナ……やっぱり君は私を」

その時。


リナの視線が、ほんの一瞬だけ横へ流れた。


フィールド外に立つ男へ。

ゼル。彼は一歩も動いていなかった。


ただ、フィールドを外から眺めている。

まるで観客のように。


リナとゼルの視線が合う。

ほんの一瞬。その目は言っていた。


『――見てろよ』


そして、


『――邪魔すんなよ』

ゼルは小さく息を吐く。


そして壁にもたれた。


「確かめてやるよ」

誰にも聞こえない声で呟く。


「好きに、壊せ」

氷のフィールドの中。

リナはゆっくりと拳を握る。


視線はエタから外さない。


「リナは汚されるんだよ! ゼルという奸物に」


 さっきだってそうだ。なんだ? 彼のために私を相手にする。リナは私だけのために動いてくれればいいのに!


「エタ・リヒト」

その名を呼ぶ声はあまりにも冷たかった。怒りも情けも何も詰まっていなかった。


「続き、やろうか」

氷の床が、ミシッと鳴った。

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