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Ep36: 【生きている理由】

 なに言ってるの。そうやって君はいつも冷たい目で私を見つめた。だがそれは君の一種の愛情表現なんだろう? 私は君を愛しているし、君が私を愛しているのは必然だから。でも、あの男が現れてからリナは変わってしまった。情けない。彼女を守れなかった自分が嫌いになる。


 でもリナ……。まだ君は私を心の底から好きだろう? そうだろう、いやそうに違いない。私がこれほど心血を注いでるんだ。君が私を好きでないはずがない。これは疑問でも仮定でもない、断定だ。愛し合っているからこそ伝わる愛。それが君から私に伝わってくる。それに……ゼルは君に興味すら感じていない。君を駒として見ているんだ。そんなのゴミ以下だ。こんなにも可愛いリナを侮辱するなんて言語道断。誰しも口を揃えてそう言うはずだ。


 でもなぜ私の愛が君に伝わらない。なぜ君を抱いている私が苦労しなくてはいけない。知っているよ、それは旦那としての義務だ。妻の苦しみは私が受け止めなければいけない。


 だから結論だ、ゼルを殺しておいてよかった。もうあの男はいない。あの男がいたからリナの一部が醜く汚れてしまったのだ。あいつが悪い、あの男こそ死ぬべき存在だ。ゴミ以下と呼ぶのにも反吐が出る。


 ああ、ほんとうによかった。お前が死んでくれたおかげで私はまたリナと……。


エタ・リヒトは腕に抱いているリナの顔を覗いた。冷たい大通りの石床から伝わる妙な感覚がエタを震わせた。気持ちがいいと。


「な? リナ……君と私はまた」


 ――また、リナと私は


言葉が詰まる。腕の中にあるはずの可愛い温もりが、妙に軽い。


「リナ」

呼びかけても返事はない。


おかしい。さっきまで、確かにここにいたはずだ。

私の腕の中で、静かに息をしていた。いや、していたはずだ。


私はゆっくりと視野を広げていく。リナの温もりしか見えていなかった暗闇は明るさを取り戻していく。


だがそこにあったのは――

赤く染まった布と、力なく垂れた腕だった。


「……」


 違う。


 違う違う違う。


 これは違う。


私は慌てて彼女の体を抱き直す。だが腕の中のそれは、驚くほど冷たくて、重い。

「おい、リナ。冗談だろう?」


笑いながら言う。

そうだ、これは冗談だ。彼女は昔からこういう意地悪をする。


きっと今も目を閉じて、私の反応を見て楽しんでいるんだ。


思跡魔法! そうだ思跡をリナに……。


心の声を拾う魔法。いつもなら、彼女の思考が流れ込んでくるはずだった。


『』

その先にあるのは無音。


「リナ。どうしてぇ、リナ! 起きろよ。もうゼルはいないんだ。全部終わったんだぞ?」

私は彼女の頬に手を当てる。


 冷たい。


 いや、違う。これはただの勘違いだ。冷たいわけじゃない。少し体温が下がっているだけだ。人間なら誰だってそういう時はある。


「ほら……リナ」


私は彼女の肩を揺らす。

ぐらり、と体が揺れた。まるで糸が切れた人形のように。


「……」

沈黙が落ちる。


エタはリナの口へ顔を持っていく。


 御伽話の王子のように、口づけでもすれば目を覚ますのか? 君は私をいつものように試しているのか?


唇と唇が触れ合うその時、背後で、石を強く踏む音がした。コツッ。と。私はゆっくり振り向く。


「……」

しばらく、言葉が出なかった。


 だって、そんなはずがない。

 私は確かにこの手で――


「さっきぶりだな」

男は淡々と言った。


その声を私が聞き間違えるはずがない。

「ゼル……」

喉がひどく乾く。


 ありえない。


 ありえない、ありえない、ありえない。だって私は確かに――


「お前は死んだはずだ」

やっとの思いで言葉を吐く。


ゼルは、わずかに首を傾げ「死んだ?」まるで心底不思議そうに呟いた。そして視線を、私の腕の中へ落とした。


「……ああ」

小さく、息を吐く。


「リナはここに」

その声には、感情がほとんどなかった。ただ、事実を確認しただけのような声。


「それで、お前は」

ゼルの目が、静かにこちらを見る。


「満足したのか?」


「満足ですか? そんなことは今関係ありません」


 答えられない。妻を取り返した。すべて終わったはずだった。なのにおかしい! 腕の中の重さが、妙に現実的で。確かにお前はそこに立っている。


「なあ」

ゼルが言う。


「もう一つ聞いていいか?」

足音が一歩、近づく。


 なぜゼル、お前が。


「お前」

そして静かに告げる。


 生きている! 殺したはずだ!


「本当に俺を殺したと思っていたのか?」


 私は――お前を!

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