旦那様のお仕事
ダメンズに惹かれてしまうのは、古来より連綿と続いてきた女房系妖怪の性なのでしょうか。
兵太郎の力で、かつての力を取り戻しつつある大妖二匹も、御多分に漏れることはないようです。
そして女房系妖怪とはダメンズの元に現れて、富と幸福をもたらす存在。
たとえ兵太郎が有史以来トップクラスのダメンズだったとしても、二匹の大妖怪の力があれば、きっとなんとかできるに違いありません。
きっと、多分!
「しかし立地のことはなかなか難しいですわね」
「なに、国道に道を繋げればよいのじゃろ?」
「頼もしいですわね。流石は土地神」
「まあそれだけではどうもならんじゃろが」
「ネット社会です。道さえ何とかなれば後は話題で」
二人の言っていることは兵太郎にはとんとわかりませんが、あ、とんとわからないのもそれはそれでどうなんだという話ですが、二人が自分のために何とかしようとがんばってくれていることはわかります。
「二人とも本当にありがとう」
兵太郎は二人の奥さんに向かって、深々と頭を下げました。
「まあまあ、どうしたのですか兵太郎」
「夫婦じゃぞ。頭など下げるものではないのじゃ」
兵太郎から見れば、何もできない自分の傍で助けてくれる二人の奥様は神様みたいな存在です。自然に頭もさがります。
「うん。夫婦だからなおさら。カフェのこともそうだけど、二人に見捨てられたらどうしようかなって思ったの。ホラ僕、奥さん貰えるなんて思ってなかったからさ」
ずっきゅーーーん。
「くっ!」
「はうっ!」
人間基準ではアレな兵太郎も、二人から見れば超絶美男子。その上妖力を取り戻す不思議な食べ物を作り出す、神様みたいな存在です。
そんな兵太郎のいつになく弱気な言葉が、紅珠と藤葛を見事に貫きました。
「お前様、それは反則じゃぞ」
「まあまあ、紅さん。弱気な兵太郎も良いではないですか」
「いや、悪いとは一言も」
「その分旦那様の務めを果たしていただくということで」
「……なるほど、一理ある」
ぽんと手の平を打つ紅珠。どうやら藤葛の言っていることが分かったようです。
しかし兵太郎には何のことか全くわかりません。
「旦那様の務め……?」
甲斐性なしを絵に描いたような自分に務まることなど、何かあるのでしょうか?
「なに、お前様は何もしなくてよいのじゃ」
「ええ、ええ。全部私たちに任せて、天井板の節目で人の顔でも想像していて下さいませ」
「え、何、何?」
奥さん二人は美しく可愛らしく微笑んでいるのに、なぜかすごい迫力です。なんだか既視感があります。
「んじゃそういうことでジノブン、いい感じに終わらせておくのじゃ」
「通報されないようにお願いしますわね」
……………………。
……えええええ。
「え、なに? どういうこと?」
兵太郎が廊下の奥にある寝室へと半ば引きずられるようにして消えていきます。
しかしジブン如きマイナー妖怪が紅珠様や藤葛様にたてつくわけにも行かないのでアリマス。
……こうして、山奥の一軒家の夜は特になにごともなく平和に更けていくのでアリマシた。
「えっ、なんか蔦が……? ちょ、ちょっと待って、紅さんそんなとこ、藤さんそんなこと、きゃああ~~~?」
|聞こえない、聞こえない《めでたし、めでたし》。
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