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第20話 朝の雀と小さな子犬

 あちゅんちゅんちゅん、アソレちゅんちゅんちゅん。


 特に意味もなく雀が鳴きます。



「ううん、ううん、マシュマロに食べられる……」



 おや。めずらしいことにいつも早起きの兵太郎が、まだ寝ていますね。



「寝言……? うふふ、可愛い。何か夢を見ているのでしょうか」


「ふむ。夢は見る者の願望を表わすと聞くぞ」


「そうなのですか?」


「うむ。知り合いの占い狐が言うとったから間違いない」


「それはそれは。きっと良い夢を見ているのでしょうね」



 いえ、どう見てもうなされて……。いえ、何でもないでアリマス。


 兵太郎を挟んだ二匹のマシュマロ、じゃなかった妖怪たちが、愛おしそうに良い夢にうなされる旦那様を見守ります。



「おお、ジノブン。大儀であったな」



 お早うございます。昨夜はお楽しみでアリマシたね。



「ええ、ええ。とても良い働きでした。またお願いしますわね」



 畏まりましたでアリマス。


 紅珠と藤葛はお肌ツヤツヤ。しかしこの二人が美しいのはいつものことですから、特に何もなかったと思われるでアリマス。



 ******




「ふあぁあああ~~」



 大分日も登ってから、やっと起きてきた兵太郎。まだ眠そうです。このところずっと働き詰めですからね。疲れが抜けないのも仕方ありません。他には何も疲れる要素はありませんからね。


 日課の掃除をしようと大あくびをしながら店の扉を開けると、戸口に見慣れないものが置いてありました。


 一抱えほどの段ボール箱。その表面には小さな子供が書いたのか、かろうじて「からいガつてくだちい」と書いているとわかる文字。


 そして中には、真っ黒な子犬。



「えええええ?」



 長い鼻と毛色と同じ真っ黒な瞳、ぴんと立った三角の耳。見たこともない犬種です。雑種でしょうか?


 しかし、一体だれが置いていったのでしょう。この辺りには住人などいません。ましてや子供など。


 子犬はへっへっへと息を吐きながら、つぶらな瞳で兵太郎を見上げています。



「ううん、困ったなあ」



 兵太郎は、とりあえず子犬を抱き上げてみました。


 黒い子犬は兵太郎の手を強引によじ登ると兵太郎の顔を舐めます。



 うべべべべべべべ



「うひゃあ」



 それはもうすごい勢いで嘗め回すので、兵太郎は尻もちをついてひっくり返ってしまいました。



「わあ、ちょっとまってくすぐったい」



 でも子犬は待ってくれません。ひっくり返った兵太郎の顔に両手をつき、さらなる攻撃を仕掛けてきます。



 うべべべべべべべべべ



 それはそれはすごい勢いで顔中あちこち舐めるものですから、息まで苦しくなってきます。でも相手は小さな子犬。払いのけるわけにも行きません。



「駄目駄目、おしまいおしまい」



 両手で持ち上げるようにして引きはがすと、子犬はそれでもなんとかして兵太郎の顔をなめようと必死に首と舌を伸ばします。


 どうやっても届かないと悟ると子犬はさも名残惜しそうにきゅうンと鳴きました。



「あ、あ、なな、なななななな」



 さてどうした物かと兵太郎が悩んでいると、家の中から、ななな鳥が鳴く声が聞こえてきました。



「なんじゃあああああ、貴様はあああああああ!」



 違いました。どうやらななな鳥の鳴き声ではなくではなく紅珠のわななき声だったようです。



(ひと)の家の前で旦那を押し倒して、ちゅうの嵐とは、貴様一体どういうつもりじゃああ!!!!」



 びしいっっと指を突き付けて、紅珠が子犬を糾弾します。



「紅さんどうしたの。そんな大声上げたらこの子がびっくりしちゃう」



 子犬は紅珠の声から逃れる様に兵太郎の腕の中に潜り込む子犬を、落ち着かせるために優しく撫でながら兵太郎は立ち上がります。



「貴様あああ! 奥さんである儂の目の前で、兵太郎に抱っこされながら頭とくびこちょこちょ撫でられるとか、許さんぞおおおおおおおお!」


「紅さん、紅さん、落ち着いて」



 目に涙まで浮かべて喚く紅珠を、兵太郎は必死で宥めます。



「これが落ち着いていられるかあ! お前様あ、浮気はせんと言ったではないかあああああ!」


「浮気? してないしてない。ほらよく見て。この子、犬だから」


「犬? 犬だったら朝っぱらから外で兵太郎を押し倒してちゅうしまくって、ついでに他に色々嘗め回してもいいのか? じゃあ、儂もするぞ? 儂は狐じゃかなら! 公衆の面前で色々するぞ? ジノブンでごまかしちゃったようなことしちゃうんじゃからな、もう通報されても知らんからなあああああああ!」


「紅さん、紅さん、何言ってるかわからないよ」


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