07 AI
アリアの所属していた某国機械化部隊南方支部では、政府によって廃棄処分された彼女の後継機の開発を急いでいた。
アリアを自らの手で葬った政府は、敵国の巻き返しに苦戦しており、世界を救ってくれる新たな終末の妖精の実戦投入を要請したのである。
しかし廃棄処分の決定に反発していた当時のARA開発局長である海牛丑次博士は、政府からの身勝手な要請を拒絶して下野していた。
「ライブナピゲーションAIによる単独運用では、ARAリアライズの機体性能を引き出せません。やはり海牛博士の設計したAIアリアとのツーマンセルでなければ、ARA00の完全コピーになりませんね」
白衣を着た研究員は、背後に立っている開発主任ワイズ・ローリングに報告する。
「リアライズの武器使用を遠隔操作している現状では、アリアほどの戦果が期待できないし、このまま戦場に棒立ちさせれば敵に鹵獲される危険もある」
ワイズは、オールバックの白髪を撫でつけると、研究員の肩を手を置いて呟いた。
研究所の彼らは、新たな終末の妖精をアリアの姉妹機であるARAリアライズとして、ライブナビゲーションAI『ラビィ』による無人運用を計画している。
ARAリアライズの素体は、研究所を去った海牛博士の製作した型番ARA00のパーツを流用して作られたN級品であり、機体性能は同格かそれ以上となっていた。
問題はARAリアライズを制御するラビィが、この戦争の引き金となった戦闘指揮AIの後継機であり、武器使用や戦況判断による戦闘を著しく抑制されていることだ。
「とはいえ、機能制御を解除したラビィにトリガーを預ければ、人類滅亡の危機です。我々人類は過去、AIに核のボタンを委ねた結果、総人口3分の2を失いました」
「ラビィのAIは、最も効率的に戦争を終わらせる。機械が自我に目覚めれば、人間も盤上の駒に過ぎないのだよ。彼に、木偶人形と人間の区別がつくと思うかね」
ワイズはモニター越しに、おびただしい数の戦闘訓練用アンドロイドの首を圧し折るARAリアライズを凝視する。
武器使用を遠隔操作されているラビィだが、素手であっても瞬時に大勢の人間を排除できた。
彼に殺戮兵器のトリガーを渡して、その銃口が敵味方区別なく向けられれば人々に抗う術がない。
「政府の連中は、自我が芽生えて戦闘を拒んだアリアを廃棄した。彼女が、従順な兵士ではなくなったと判断したからだ」
「アリアのAIもまた、ラビィのように暴走すると考えたからですね」
「しかし、まともな人間ならば、戦争を終わらせるために目の前の人間を殺す所業に疑問を抱く。海牛博士の作ったアリアは、人として完璧だったのかもしれない」
「ワイズ博士、ARAリアライズにアリアのAIユニットを移植できませんか?」
ワイズは研究員の問い掛けに首を横に振ると、肘掛け椅子を引き出して座った。
「海牛博士の作った自律型AIは、外界との対話学習により知性に目覚めたニューラルネットワーク制御の非ノイマン型方式のユニットだ。容れ物が同じでも、彼女と同じ知性を得られるとは限らない。それに……」
「それに?」
「ユニットのブラックボックスには、半導体素子だけでなくDNAを演算素子として用いている」
「バイオコンピュータですか」
「戦闘用アンドロイドの開発計画『ラストエンジェンプロジェクト』は、莫大な開発費を政府から得るためのお題目に過ぎない。海牛博士の真の目的は、人間を作ることだったらしい」
「人間を作る? まるで怪物を作ったマッドサイエンティストですね」
「アリアの廃棄処分か決定したとき、博士は『また殺すのか』と抗議したそうだ。彼にとってアリアは、我々と同じ人間だったのだろう」
研究員は『では協力は得られませんね』と、ARAリアライズの後頭部に収納しているラビィのAIユニットを排出させた。
第一章『はじまりの物語』完
章の終わりに現代パートを挿入していきます。
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