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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
4章
53/112

4-5 ヘビヘビパニック

 まずはヒュドラに向けて駆ける。

 あいつが行ってくる攻撃は読めている。ピンチにならなきゃ稲妻は撃ってこないはずだ。現に、前回戦った時は9本首が残っていると噛みつきくらいしかしてこなかった。

 案の定、首の1本が勢いよく伸びて襲ってくる。が、よくよく見れば、伸びる時はほとんどまっすぐの軌道でしかない。

 危なげなく躱し、横っ面にアクア・ネビュラを叩き込んで切断してやる。


「おっしゃ!」

「センパイ、やるぅ!」


 陽花の称賛を浴びながら、ヒュドラにアクア・ネビュラを突き出す。

 漏れる体液も、ウンディーネの加護を受けている俺には効かない。

 首の1本を串刺しにしてやると、他の首が牙をむき出しにして襲ってきた。


「リヴァイアサン! 来い!」


 ヒュドラの頭上に泉が現れ、中から10メートルはあろうかという巨大な蛇が下りてきた。


「うおおおっ!?」

「す、すごい……。あれは、あの海にいたモンスター……!?」


 岩のような鱗を持った四つ目の怪蛇。これがリヴァイアサンの、真の姿に近い力を発揮した状態だ。

 俺の期待通り、リヴァイアサンはヒュドラの首を巻取り、拘束した。

 そのまとまった3本の首を、横薙ぎに振るったアクア・ネビュラで切断する。

 毒液が漏れてリヴァイアサンの皮膚で煙を上げるが、岩の鱗はまったく動じていない。頼もしすぎるぜ、俺の下僕は。

 が、そこでリヴァイアサンは時間切れ。かき消えてしまう。

 この時点で残った首は4本。こっからが正念場だ。


「曽良さん、私も!」

「俺が指示するまで来るな! こいつは血も毒だ!」


 近付こうとした真琴を制止する。

 俺今、かなりリーダーっぽくないか? 初見でこれがやれてれば、めちゃくちゃカッコよかったのに!

 あ、でも、陽花達にとっちゃ初見か。どうだ? 見直したか? ん?

 などと調子に乗っていると、すぐ背後にヒュドラの首が迫っていた。


「あっぶね!」


 前方に転がって躱し、振り向きざまに一撃を食らわせる。

 力が乗らず切断には至らなかったが、切っ先が片方の牙をへし折った。

 牙を折られた首が声を上げる。効いてるぞ……!


「っらぁ!!」


 片膝を突いたままでアクア・ネビュラを突き出し、牙を折った首を貫いた。少し痙攣した後、首が消える。

 これで残りは3本。俺1人で随分な健闘をしている。

 やっぱハードモードなゲームはコンティニュー必須だわ……。厳密には今の俺は、コンティニューしたわけじゃなくて「強くてニューゲーム」みたいなもんだけど。

 残り3本になったところで、ヒュドラに変化があった。

 威嚇するように首を振って俺との距離を離そうとする。

 半ば予想できていたが、稲妻を吐くつもりだ。しかも今回は俺の後ろに陽花達がいる。下手に避ければ彼女らに当たるこの状況を、狙って作ったんだとしたら大した蛇野郎だ。

 この対策は考えていた。最初に雑魚の蛇の攻撃を受けた時に、ふと閃いたのだ。

 ヒュドラの大口の中に光が見えた瞬間、俺は床にアクア・ネビュラを突き立て、思いきり後ろへ跳んだ。

 陽花と真琴を抱え、地面へ伏せる。

 ――ガッ!!

 予想通り、稲妻はアクア・ネビュラに落ち、地面へと散った。

 俺達は完全に無傷だ。

 思いつきでやってみたけど、案外上手くいくもんだな!


「一気に畳み掛けましょう。私が正面から……」

「いや待て、正面は俺だ。で、2人は俺が気を引いてる時に、後ろから回り込んでくれ」

「でもそれだと、曽良さんが危険なのでは」

「心配すんなって。俺は何回か咬まれても平気なんだよ」


 こういう時にウンディーネの加護は便利だ。

 たとえばこんな、最後の詰めでパワープレイがしたい時とかな。

 別にヒュドラをナメてるわけじゃないが、前と同じ倒し方をすればとりあえず無力化はできる。

 そしたらこの用意してきたバーナーでじっくり炙って、傷口を焼いてしまえば復活しないんじゃないか。

 だが俺は、すぐにその考えが甘すぎたと後悔することになった。


「なっ……」


 ヒュドラの傷口が盛り上がり、ずももも、と超スピードで首が生えてくる。

 き、キモすぎる……。前見た時は陽花が咬まれた混乱であまり意識してなかったけど、生き物としてあり得ない物を見ると、すげー不安になるな。

 また陽花が咬まれでもしたら同じなので、2人に回り込むのをやめさせる。

 ヒュドラは再生が終わるまでは動けないらしい。

 なら、


「ふっ!」


 アクア・ネビュラを投擲して再生が終わったばかりの首を破壊する。

 だが、それでもヒュドラの敵意がこちらへ向く事がなかった。この調子で投げ続ければ首は押さえておけそうだが、危なっかしくて2人に攻撃を任せられない。

 しかも、決定打になる気がしない。なんならさっきから再生速度上がってないかこいつ。

 くそ、一体どうやって倒せば……。


「センパイ、センパイ」

「なんだよ」

「マコが呼んでるっす」


 見れば、真琴が階段の方で俺を呼んでいた。

 おいおい、避難したところで、こいつがいたんじゃ逃げられもしないぞ。階段の上はご存じの通り行き止まりの空間だし。


「曽良さん、これ」


 真琴が指さしたのは、階段に付いた傷だった。

 不自然なほどたくさん付けられている。


「今そういうイタズラに構ってる余裕は……あれ、何でこんな傷残ってんだ」

「それです。ウンディーネしか読めない文字ではないでしょうか」

「ええ……。そんな都合よくいくかあ? ウンディーネ、どうだ?」

『えっと、ちょっと待って……。それっぽくはあるけれど、近すぎて読めない。もっと離れて』


 離れろったってお前、後ろに下がればヒュドラの餌食だぞ。

 もう首は7本まで回復しているし、完全回復だって秒読みだ。


「私が時間を稼ぐから、曽良さんは文字を読んでください」


 真琴が警棒を構え、俺が制止する前に駆け出した。

 陽花も「ボクもやるっす!」と叫びながら後に続く。

 結局こうなるのかよ! これじゃ何のために……ええい!

 俺はヒュドラの目の前まで下がり、階段へ向き直った。


「ウンディーネ、読めるか!? 暗いとか無しだぞ!」

『もう、無茶言う……! ええと、我は求む、止めよ……あれ? 待って、違う。これだと意味が変わるわ。これは……』

「はよ! はよして!」

『うっさいわねあなた!? ちょっとくらい静かにしてなさいよ! だったらあなたが読めばいいじゃない!』

「ふてくされんな!! お願い! マジで!」


 モグラ叩きのように生えてくる頭を潰し続ける陽花から「まだっすか!?」という催促が飛んだ。

 もはや高レベルのエクスプローラー2人がかりでも、追いつくのがやっとの速度になっている。

 つーか早え、なんだあの速度。コーラにソフトキャンディ入れた時みたいな勢いで生えてくるもんだから、もはや再生ってより『噴出』とか表現した方が近いレベルだ。

 それに付いていってる2人も大概だけど、スタミナは無限に続くわけじゃない。


「ウンディーネ!」

『し、深淵の王、高み目指し、進む時、最も脆き者跪き、王を留めよ、我は求む、傲慢なる民、王の威信、無知と不敬で持って蹂躙せん事を! これ! これで合ってると思う!』

「よっしゃあ! ……って、え、ごめん、なんて!?」


 予想以上に長えし!

 覚えられねえよ一度じゃ!


『もおおお! なんか、深淵の王? が高い所に行く? 時に誰かが跪いて? 王を止めて? 誰かが踏むとか、なんかそんな感じよ!!』

「す、すまん! そんなキレんでくれ……」

『あなたがモタモタしてるからよ!』

「センパーイ!!!!」


 そろそろ限界なのか、陽花が悲鳴のような声を上げた。

 急いでこちらへ戻ってきてもらう。

 あの体力馬鹿の陽花ですら、肩で息をしているくらいしんどかったらしい。

 が、何故か表情はキラッキラしている。


「センパイ、これ、アトラクションだったら120点くらい楽しーっすよ」

「お、おう、良かったな」


 さすがに一生やらせてるわけにはいかん。

 そして、ここでうだうだと休憩しているわけにもいかない。

 今にも動き出しそうなヒュドラを前に、俺は考えを巡らせた。

 なんかあるだろ……さっきのウンディーネの言葉、絶対になんかある……!


『ジャァァァァァッ!!』


 ヒュドラが復活する。

 慌てて階段の方へ逃れる俺達だったが、その後を追うように、ヒュドラはホームへ上がってきた。

 これまでにない動きだ。人間達に頭を潰され続けてお冠になったんだろうか。

 にじり寄ってくる巨体と、打開策が思い浮かばず焦る俺。

 そこで俺は、一か八か思いつきに賭けてみる事にした。

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