かつての武功は
「ところでアルカ」
再びカイネが声をかけた。
「これからまもなく私の傭兵団に貴方を招待、しいては紹介することになりますが希望する呼称や役職はありますか?」
どうやらアルカをどのように迎え入れるべきか悩んでいたらしく、希望はあるのかと問う。
これを受けたアルカは少し悩ましげな表情を浮かべたがすぐに応答した。
「私にこれといった希望はない。……が、変に体よくされても困ってしまう。私の元部下たちは良しとしても貴殿の兵の中にはこれを良く思わぬ者もいよう」
3年ぶりなのだ。
アルカも元部下たちと顔を合わせるのは楽しみにしている反面、汚名が付いてしまった自分に居場所はあるのかという心配もある。
なによりもカイネが率いる者達が敵国の元団長を快く迎え入れてくれるかどうか――。
少なからず良く思わない者がいることだろうとアルカは言う。
「アルカのローランドでの武功はガマニアにも轟いていることですしそこまで心配する必要はないと思いますが。あれでしたら私が口添えしてもいいですし」
しかし、アルカという戦力を一般兵として扱うのは難しい――、いや勿体無いと考えているカイネはどうにもそれなりの席を用意したいようである。
父がかつて戦いた存在であるローランド騎士団長は我が手中にあるのだと知らしめて一泡吹かしたかったのだ。
「その考えは剣呑であるぞ団長殿」
するとカイネの考えていることがそれとなしに読めたアルカは人差し指を立てて言った。
「私を持て成してくれようとする気持ちは有難く思う。だが、私の経験上それは辞めておいた方が得策であると考える。所詮は個ではなく群れなのだ。ある程度の妥協できる線引きが必要ではないか」
「そう、ですか」
元騎士団長が来たからそれに従えというのではなく、平等またはそれ以下として扱うべきであるとアルカは考えてのことだった。
周囲からの評価、信頼は自ら手に入れるべきものであることを知っているからこその言葉である。
しかし、暗殺者を5人相手に文字の如く瞬殺してしまった力量を持つアルカを持ち上げて誰が否定しようものかとカイネは思った。
そこまで全てを蔑ろにして下手に出る必要はないのではと。
その様子を見たアルカはまた一つ、中指を立てて言った。
「それに私もようやっと重責から解放されたのだ。団長殿が良きに計らってくれるというのであれば是非とも私を一介の兵として扱ってはもらえないだろうか」
そう告げたアルカの表情は非常に穏やかであった。
騎士団長という座に上り詰めるまでの努力は勿論であるが、その功績に付いて回ったのは周囲の期待を具現化したかのような無敗という冠。
その一度の敗北も許されないという重責はあまりにも重くそして脆く――、まるでこれまでの功績を無かったことにされたかのような罵声と期待の裏切ったというレッテルを彼はこの3年もの間、浴び続けたのだ。
ならばお前たちは何かしたのか。あれはローランド陛下の仕業であるのだと言いたいが口が裂けても言えなかったアルカは思念を噛み殺し、過去の栄光に縋ることを棄てたが同時に得た物もあった。
「この埃を被っていた剣と共に私は一から歩みたいのだ」
不器用でただただひたすらに真っ直ぐだった彼を縛るものは何もない。