愛すべき剣
「後は私次第、か」
ホルクスが去ってからそう呟くアルカはどこか恥ずかしげを見せるようにして酒で濡れた頭を掻いた。
場を取り持ってくれたホルクスに感謝しつつも、意気揚々と酒場にやってきた割に何も出来なかった羞恥心から体のあちらこちらがむず痒くなる。
「おーい、ディアナちゃん!! こっちにも来てくれ!!」
「はーい!!」
そんな様子を見てか、堂々としていた入店時とは違いどこかそわそわとしているアルカの隣に座る男が配給の女性に声を上げた。
その声に応じるように席の間をすり抜けながらディアナと呼ばれた女性がやってくる。
「俺らにはおかわりね、えっと……団長様もご一緒で?」
「おぉ。うむ」
男からの急な問いかけに戸惑いつつもそれでいいとアルカは答え、オーダーを受けたディアナは「わかりました」と元気よく返事をしてから再び軽やかなステップを踏みながら奥へと姿を消していく。
「なんか意外ですね」
その様子を見送っていたアルカに同じくして一緒にテーブルを囲む男の一人が話し始めた。
「もっとこうローランドの騎士団長は厳格なお方だと思ってましたよ」
「そうだよな、同じ国のガガトロイ騎士団長ですら直接話したこともないくらいだしな」
意外とお茶目な一面を持つアルカに彼らは口を開き始めたのだ。
しかし、決して警戒を怠っているわけではない。
「ホルクスさんにあそこまでしてもらったんだから、楽しみましょうよ団長様」
「ここの飯、結構旨いんですよ? これなんて――」
出来るだけの自然体を装って地雷を踏み抜かないように無難な話題を提供している。
元は敵国の騎士団長、軍の最高指揮官――。
自国の騎士団長とすらまともに話をしたことがない彼らにとって住む世界の違う人間なのだ。
それを感じ取ってか、アルカは口を開いた。
「忝い、私は貴公らには少々無茶が過ぎたことをしてしまったな。元はローランドの団長であったことを軽く考えてしまっていたようだ。だがこれより先はカイネ団長殿の下、同じ釜の飯を食う仲間である。何卒宜しく頼む」
そしてグッと両ひざに手を当てて小さくお辞儀をした。
どこまでも堅い男である。
「――ぷふっ」
やがてその姿を見ていた酒場にいるの一人が笑い、まるで連鎖するかのように次第に全員が笑みをこぼしていた。
何故だと云わんばかりに状況が察せずに困惑した表情をアルカは浮かべた。
挙句の果てには濡れた髪がそんなにもおかしかったのだろうかと自身の髪をいじり始める始末……。
「こりゃあ、あのホルクスさんも気にかける訳だ」
「ちげぇねぇ!!」
「ようこそ、我儘姫様の傭兵団へ!!」
酒が飛び、飯が飛び――。
それが合図だとでも云わんばかりに皆が肩を組んで次々に酒を開けた。
◇
「どうしてアルカ様はそんなにも強くなられたのですか?」
もう何杯目かも分からないほどにグラスの転がるテーブルに突っ伏し顔を真っ赤にした男はアルカに問いかける。
酒の勢いもあるがガマニア帝国を相手に遅れを取ることがなかったローランドの主力に質問できるチャンスなのである。
聞きたいことは聞いておけとばかりに質問を投げかけていた。
いつの間にかアルカのことを団長と呼ぶものはいなくなり、この状態に至るまでずっと質問攻めを受けていたアルカはそれでも嫌な顔一つせずに答える。
「どうしてか……。うむ、私は剣が好きだ。剣を振るうにはそれ相応の力がいる、全ての剣を振るうにふさわしい肉体を目指した結果の果てなのだ」
その答えに対して良く分からないと、同席していた男たちはポカーンとした表情でアルカを見る。
「貴公らは剣が好きか? 」
そしてアルカからの質問に男たちは互いに目を見合わせた。
「そんなこと、考えたことありませんね……」
何故、考えたことがないのか。
その答えはアルカが良く知っていた。
「これはローランドの者には口うるさく言うてきたのだがな。ただそこにあるから使っているのでは強くはなれぬ。武器を理解し、身の丈にあった武器を選ばなければ己の真価は発揮できないのだと」
「それがアルカ様の場合は剣であった……、と? 」
「うむ、合う合わぬは追及する内に自ずと見つかるものよ。何より私は幼少の頃から剣が好きだったものでな、色んな剣を振るうことが出来るよう剣にあった修行を積んだものである」
果たしてそれだけで、武器を好きになるだけで強くなれるのだろうかという疑問はさておき、もう一つ気になることを男は聞いた。
「ではカガリさんのあの太刀を相手にその、……ただのロングソードでどうやってアルカ様は優位を取っていたのですか?」
そう、誰がどうみてもカガリが優勢だと思われた中でただの一撃も受けなかったアルカはどうやってあの試合を制したのか。
何か特別な力があるのではないかと、いわばアルカの秘密を探るような質問に固唾を飲んで返事を待った。
だが、それこそアルカの思う壺であったことを皆は知らない。
「ふむ、確かに場慣れの経験差もあるにはある。しかし何よりもカガリ殿より私の方が剣を思う気持ちが強かったのではないか」
違う、そうじゃないと不満げな表情を見せる男たち。
ここにきて冗談を交えるかのような返答に肩を落とすが、その後もなんと言おうとアルカは全てを語らない。
語るのはあくまでも剣についてのみであり、追及した先で得られる物は来る時に個々で感じてもらいたいが為に。




