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第8話 プラタ18歳 三角湖での再会

「さぁ見るがよい。ポセイドン号の最後だ」


 とある孤島にネプチューンヘッドとその配下であるパイレーツヘッドたち。そして唯一の人間であるプラタがいた。今年でプラタは18歳になる。


 彼らは大頭船ビッグヘッドシップであるポセイドン号の最後を看取るために地中海にある無人島を選んだのだ。すでに砂浜に打ち上げられている。


 ポセイドン号はガレオン船のように大きいが、見る見るうちにマストから葉っぱが生えてきた。さらに枝も伸びてきている。

 そして船底からは根が張り出した。それはタコの足のように動き出す。


 一時間も経つとポセイドン号は島の中心まで移動していた。巨大な樹がどっしりと立っている。ネプチューンヘッドはポセイドン号であった大樹の元に来た。幹に手をかざすと、白く神々しい光を放つ石がふたつ出てきた。


「これが船のシップ シードだ。神応石しんおうせきとも呼ぶ。これはトリトンヘッドとプラタに渡そう」


「はい父上!!」


 ひょいとネプチューンヘッドの髪の毛から出てきた。それはスイカほどの大きさで頭に緑色の髪の毛が生えている。彼がネプチューンヘッドの息子トリトンヘッドだ。彼は数年前にネプチューンヘッドの額から生まれたのである。


 ネプチューンヘッドはふたつの石をトリトンヘッドとプラタに差し出した。


「この種をチークに植え付けるのだ。そうすればすぐに大頭船に成長する。もっともガレオン船ほどの大きさになるにはひと月以上はかかるがな」


 プラタは船の種を見る。これが船になるというから驚きだ。


「兄上。今日でぼくらはお別れですが、兄弟の絆は切れたわけではありません。ぼくたちは生まれや種族は違うけど、心は繋がっているのです」


「その通りだトリトンヘッド。俺たちは離れ離れになっても兄弟の縁は切れることはないんだ」


 そういってプラタとトリトンヘッドは拳を握り、合わせたのだ。それを見たネプチューンヘッドはにっこりと笑った。


「プラタよ。お前の船にふさわしい木はペルギュン島にある。ヒコ王国の南にある小さな島だ。その島には特別なチークが一本生えておる」


 ネプチューンヘッドは言った。プラタはわかったと頭を振った。


「ありがとうおやじ。俺はこいつで世界を回るつもりだ。その前に仲間を呼び出す必要がある。まずはあいつらと合流してからペルギュン島へ行こう」


 こうしてプラタは18年間世話になった船を降りた。ネプチューンヘッドは息子の教育のために一緒になる。彼自身もあと数年で大樹へ変化するのだ。その時トリトンヘッドが新しい海の守り神となるのである。


 ☆


「さて8年ぶりだな。あいつらは元気にしているかな?」


 プラタは三角湖トライアングルレイクに来ていた。8年前の約束を果たすためである。しかし念書があるわけではないのに仲間が来ると信じているのはいささかおめでたい頭と言えた。

 

 彼は微塵も仲間たちを疑っていない。この日に集まると決めかかっていた。さて森の中は変わっていなかった。三角湖のジライア村は水運業で忙しい。


「本当に来たのか」


 プラタは昼寝していた。そこへ声がかけられる。それはニホンアマガエルの亜人だ。その後ろには黄色いナメクジ、バナナスラッグの亜人が立っていた。かなり巨体でさらしにふんどしをつけている。


「よぉ、ヒスイ。ずいぶん色っぽくなったな。コハクもグラマーになって何よりだ」


「8年ぶりに会ってそれか。まあお前らしいけどね」


「あのね~。姉上もコハクもこの日を待ち望んでいたんだよ~」


 ヒスイは皮肉交じりで、コハクはのんきそうな声で言った。


「じゃあフビとイエロを待とうか」


「いや、普通あたしらのことを聞かないか? 大体8年前の約束を守ると思っているわけ?」


 ヒスイがイラついた口調で訊ねた。しかしプラタは真顔のままである。


「ここに来ているんだから約束を守ったじゃないか。何言ってんの?」


「そうだね~。コハクも総舵手として訓練したよ~。主にうちの船でね~。姉上も都会から航海士の本を買って猛烈に勉強したよ~」


「こら、コハク!! 余計なことをいうな!!」


 コハクの暴露にヒスイは慌てた。ふたりは8年前の約束を守るために勉強と訓練を繰り返していたのだ。ふたりはジライア村の村長の娘だ。先代は引退し、父親のガマグチに譲ったのである。


 この村では女は跡継ぎになれない。ただし代理はできる。彼女たちにはナガレという弟がおり、跡継ぎには困らない。しかし弟は気弱で気象の荒い男たちを怒鳴るより、部屋でもくもくと細工作業をする方が似合っていた。


 もうひとりアマというヤドクガエルの妹がいるが、まだ乳飲み子なので論外だ。どうせ独立するならプラタの方へ行くことにしたのである。幼少時にたった一度しか会っていない男についていくのはかなり無謀と言えた。


「そうですか、先を越されたようですね」


 突如上から声がした。それは一人の女性であった。ヤマビルの亜人である。木の枝につかまり逆さにぶらさがっていたのだ。


「おお、フビか。胸はあんまり成長してないな」


「そうです。私の胸はあんまり成長してないのです。とても悲しいです」


 フビは木の枝から離れると落ちた。くるっと身体を丸めて着地する。着ている服は白いワンピースだ。


「ヒスイさんにコハクさん。おひさしぶりです。ヒスイさんはお仲間ですね、嬉しいです。コハクさんはちょっとジェラシーしてしまうです」


「おいそれが8年ぶりに再会して口にする話題かよ」


 ヒスイが突っ込んだ。フビはまったく気にしていない。彼女は船医として勉強の日々を過ごしていた。亜人の村長は医者を代行する場合が多い。亜人の篤志とくし解剖の記録をまとめた亜人全書を作るためである。


 さらに船医は地上の医者とは違うため、都会から書物を取り寄せて勉強したのだ。村長の家系でも将来は村の男と結婚するのが決まりである。どうせなら村の外に出たいとプラタの約束を守ったのであった。


「あとはイエロさんです。三分待ってこなかったら置いていきましょう」


「ずいぶんと気が短くなったな。昔はのんびりした性格だったのに」


「医者はすばやく処置を行わけなければならないのです。ヒルのようにのんびり屋では手遅れになるのです。ですからあと一分待って来なければ行くのです」


 フビは右手を握ったり開いたりしていた。もっともその様子は落ち着かない子供に見える。


「あまりに短気すぎです。なんでも早ければいいわけではありません」


 森の奥から声がした。それは鉄の像であった。関節の部分はまるで鎧のようである。生きている鎧が歩いているみたいだ。胸と下半身は革のビキニで覆われている。


「おお、イエロ。いいおっぱいをしてるじゃないか。揉ませてくれ」


「いやです」


「うーん、イエロは変わりすぎだな。まるで鉄人間だ。プラタはよくわかったもんだ」


 ヒスイは再会したイエロの変貌に茫然としていた。アイアンメイデンという種族は聞いたことがあったが、ここまで人間と違うとは思わなかった。なぜ鉄の身体になるのかと言えば、女には月に一度重い日が来る。それが体内から排出されず鉄の皮膚を作り出すという。


「よし、仲間は揃った!! 俺たちの戦いはこれからだ!!」


「なんか不吉な掛け声だね。すぐ打ち切られそうな感じがするよ」


 ヒスイは呆れていた。


 ニホンアマガエルのヒスイ。役職は航海士。

 バナナスラッグのコハク。役職は総舵手。

 ヤマビルのフビ。役職は船医。

 アイアンメイデンのイエロ。役職はコック。


 そして彼女らを率いるのがでべその海賊、キャプテンプラタなのである。

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