第9話 プラタ ヒコ王国へ帰宅する
「ただいま!!」
ヒコ王国にあるロウソク屋の扉が乱暴に開かれた。相手は銀髪の人間プラタだ。筋肉モリモリで着ているのは黒パンツにサンダルだけというありさまである。
店の中にはロウソクが並べられており、作業部屋にはひとりの人魚がロウソクに絵を描いていた。
ふわふわした金髪は腰まで伸びており、美しい顔に胸はメロンのように大きい。
腰は括れており、尾は金色であった。
ちなみに人魚と言っても魚とは違う。足は踵とふくらはぎがくっついている。生まれつき人魚症といい、足がくっついた子供が産まれる場合があるのだ。
金色に見えるのは鱗ではなく毛である。毛が鱗のように整っており、水中を泳ぐのに適しているのだ。
もちろんエラ呼吸ではない。普通の人間と同じだ。ただし肺活量は常人の3倍で海中でも目を開けて潜ることはできる。人間と魚は似ている。腹筋が6つに分かれているのがその名残だ。
ヒコ王国は百数年前、キノコ戦争が起きる前はポルトガルという国だった。海洋国家ゆえに国民は海に近い魚人へ変貌を遂げたのである。これは人間の脳にある神応石のおかげだがその謎が解けるのはレスレクシオンからフエゴ教団が登場するまで待つことになった。
「なによプラタ。ぷらっとどこかへ行ったと思ったらいきなり帰ってきて。お父さんとお母さんがどれだけ心配したかわかってんの?」
人魚はため息交じりに皮肉を漏らした。今は人魚しかいないので留守なのだろう。
「すまないなオウロ。実はおやじから船の種をもらったんだ。それと俺の仲間も一緒に連れてきたわけだ」
オウロは怪訝な目でプラタを見た。プラタの言うおやじはネプチューンヘッドというビッグヘッドだ。レスレクシオン共和国ではビッグヘッドは忌み嫌われているが、ヒコ王国では身近な存在だ。人を喰らうスマイリーという亜種もいるがこちらはエビルヘッドの配下なので分けている。
「仲間ですって? 確か8年前に約束したとか。そんな子供の頃の話なんか覚えてるわけない……」
「お邪魔します」
オウロがロウソクの絵を休まず描いている最中に、人が入ってきた。ニホンアマガエルの亜人、ヒスイだ。彼女は胸にさらしを巻き、白い褌を引き締めている。
「あのね~、ここがプラタのおうちなのね~」
次に入ってきたのはバナナスラッグの亜人コハクだ。ヒスイとは双子の妹だが身体はかなり大きい。黄色いぶよぶよした肌で迫力がある。こちらもさらしにふんどしの格好だ。
「失礼いたします」
今度は鉄人形だ。アイアンメイデンのイエロである。全身が鉄でできており、関節部分も固い皮膚で包まれている。目は水晶のように白く濁っており、髪の毛は石綿で腰まで伸びている。身に付けているのは革製のビキニだけだ。
「ふむ。ここがプラタさんのもうひとつの家ですか。プラタさんの匂いがプンプンするです」
最後に入ってきたのはヤマビルの亜人、フビだ。髪の毛は生えておらず、頭から大量のヒルが生えており、髪の代わりである。一人だけ白いワンピースを着ており、ふにゃふにゃした身体を揺らしながらドアを閉めた。
「……」
オウロはぽかんとしていた。ヒスイたちは目に入っているが、思考がとまったのである。
プラタは彼女に近づき、右手を突き出し目の前で振る。まったく反応はなかった。
するとオウロの目は大きく見開いた。そしてうっすらと笑みを浮かべる。
「どうしたオウロ。あの日か?」
プラタが礼儀の欠けた質問をするとオウロは切れた。座ったまま跳び上がり、プラタの頭に蹴りを入れたのである。
プラタの身体は思いっきり吹っ飛び、扉を壊して表通りに飛び出た。
外には木箱が積まれており、プラタはそこにぶつかったのである。
「おいおい、何をするんだ。そんなに俺の言葉が気に障ったのか?」
「そんなわけないでしょ!? なによこの人たち、全員女性じゃない。あんたは仲間を連れに来たんじゃないの!!」
「連れてきたよ。だから目の前にいるじゃないか」
プラタはまったく態度を変えていない。逆にオウロのこめかみはぴくぴくしていた。
「だからといって女の人だなんて聞いてない!! あんたはハーレムを作るためにスカウトしたわけ!! 船に乗るなんて嘘だったわけ!!」
オウロはヒステリックに叫んでいた。ヒスイとイエロはすぐに察した。
「すまないが私たちはあくまでプラタの仲間としてここにいる。あなたが考えているような事は一切ない」
「その通りです。私たちはプラタさんの船に乗るために8年間技術を身に付けました。それだけです。そもそもプラタさんは女性にだらしない人なのですか?」
ふたりは淡々と説明する。その口調は硬く、男女の関係は皆無と思われた。
オウロも突然の訪問に驚愕したが、長年プラタと暮らしてきたのでよくわかる。彼はハーレムに興味はないということはよく知っていた。
冷静になり怒りを解こうとしたが……。
「そのね~。コハクはプラタに誘われたから身も心も捧げたんだよ~」
「そうです。私の初めてはプラタと決まっているのです。そんなに嫉妬してるならさっさとプラタと寝るといいです」
コハクとフビがぶち壊した。見る見るうちにオウロの顔はどす黒い色と化し、血管が浮き出ている。
その怒りの矛先はプラタへ向かっていった。
「このドぐされがァァァ!!!!! いっぺん地獄を見せてやらァァァ!!!!」
オウロの尾っぽ攻撃が容赦なくプラタの顔面を殴打する。その音は近所にも高く響くが周囲の人間は見向きもしない。
「あらあら、ひさしぶりにオウロちゃんの尾っぽ攻撃が始まったわねぇ」
「でもあの音はとてもいい音だよ。ひさしぶりに帰ってきたのが嬉しいんだねぇ」
「だけど晩熟のプラタちゃんが女の子を4人も連れてきたのはびっくりだわ。やるわねぇ」
買い物かごをぶら下げた魚人の主婦たちはプラタとオウロの様子を和やかに見ていた。どうやら日常茶飯事のようである。
「結構いい音だな。あれほどの音はなかなか出ない」
「あのね~、そろそろ止めないとプラタがかわいそうだよ~」
「構いません。あの人の怒りはもっともです。もう少しプラタさんは痛い目を見ればいいのですわ」
「それよりも彼女とプラタの関係が気になるのです!!」
4人はオウロの暴力を止められずに傍観するだけだった。ふたりの間には入り込める隙間がないのである。
「おや? プラタじゃないか。帰ってきたのかい」
そこに野太い女性の声がした。それは鯛の魚人の女性であった。体格は二メートルほどでコハクと並んでいる。
右手には買い物かごをぶら下げ、両肩と頭には小さい鯛の魚人の子供がしがみついていた。右は赤で左は青、頭は黄色であった。大体5歳くらいである。
「あっ、母さんただいま。おっぱい揉ませて」
プラタはオウロの暴力から抜け出すと、鯛の女性のふくよかな乳房を揉んだ。巨大な南瓜のように大きい胸はまるで宇宙を抱いている気分になる。
「兄者! 母上のおっぱいは拙者たちのものでござる!! 気軽に揉んではならないのでござる!!」
「いいや、プラタ兄さまはきちんと許可を求めました。すなわち問題はないのです!!」
「プラ兄だけずるい~。ボクも一緒に揉むの~」
子供たちは全員性格が違うようである。共通しているのはプラタを兄と認識していることだ。オウロは肩で息をしていたが、彼らを見て慌てて取り繕う。
「あら、フォーゴにアグア、ルスじゃないの。お母さんを困らせたりしなかったわよね?」
「……オウロ、今更遅いよ。というか隠すことかね」
「その通りでござる!! 姉上の気性の荒さはご近所では公認の秘密でござる!!」
「いいや、オウロ姉さまはお年頃です。それを口にしたら天誅が下ります」
「うえーん、オウロ姉の顔がセイレンヘッドみたいに怖いの~」
オウロは母親と弟たちと会話していた。ヒスイたちは口を挟むことができなかった。
「そうだ母さんにフォーゴにアグアにルス。俺の仲間を紹介するよ!!」
プラタはヒスイたちを紹介するのであった。




