第64話 王都での大騒動
王都は静かであった。建国祭で色とりどりの旗が飾られており、町は祭り一色である。
今は人がひとりもいない。野良犬すらいないありさまだった。
軍隊がすでに王都に封鎖命令を下しているからだ。町に徘徊するフェアリーヘッドが町中を飛び回り、自宅へ避難するよう命令を出していたのである。
ビッグヘッドで作られた木の家、ビッグヘッドハウスの中から人の気配がする。まるで虫のようにカサコソと這いまわっているようだ。
主な通りには軍人がブラウン・ベスというマスケット銃を抱えている。かつてイギリス軍が使用したものだ。75口径のフリントロック式である。
その横にはマーリンヘッドたちが巡回していた。コボルトやゴブリンが時折笛を吹いている。プラムクラスのビッグヘッドをコントロールする音色を出しているのだ。
「さあ、突撃だ!!」
プラタは作戦もなしに突入を命じた。王都にどれだけの海兵がいるかわからない。あまりにも無茶であった。
「ツェッペリン夫妻が囮になってくれるんだ。その隙に暴れまくってやろうぜ!!」
ツェッペリン夫妻はプラタたちを送り届けた後、囮を買って出たのだ。元々ふたりは脱走犯である。海兵が追い回すのは当然と言えよう。
アンピとプテラの体毛は鎧のように硬く、矢はもちろんのこと、銃弾も通さないと豪語していた。
ふたりの想いに答えるために、プラタたちは前に進まなくてはならないのである。
「いくぜ!!」
「おう!!」
プラタたちはおたけびをあげた。
バリケードの前に立っていたゴブリンの海兵はブラウン・ベスを抱えながら、巡回していた。タリエシン元帥からの命令だが、どうも腑に落ちない。しかし上官の命令には逆らえないのだ。
ため息をつきながらも、与えられた任務を全うしようとしていた。
すると空から何かが光っているように見えた。はてな、なんだろうかと首を上げていると、それは見る見るうちにはっきりとした輪郭を現した。
それはカエルの亜人であった。鞭のように細長い両足がゴブリン海兵の首を蹴り上げたのである。
ゴブリンは建物にぶつかった。まるで馬車に衝突されたように吹き飛んだのである。
他の同僚たちは何事かと、銃を構えるが、その内のひとりの銃身にカエルがピョコンと乗っかったのだ。
それはニホンアマガエルの女だった。胸はさらしを巻き、白いふんどしを引き締めている。
「あっ、この女を知っているぞ! でべそ一味の航海士、鞭蹴りのヒスイだ!!」
ゴブリンのひとりが叫んだ。ヒスイの蹴りは鞭のようにしなり、間合いを開けてもいつの間にか相手に届く。恐ろしい蹴りの使い手と噂されていたのだ。
ヒスイは消えた。本当は跳び上がったのだが、あまりに早くて見えなかったのだ。
そしてゴブリンたちに蹴りを入れる。回るように蹴り上げる様は、まるで竜巻のようであった。
「くそっ! 相手はひとりだ、射殺せよ!!」
カイゼル髭を生やしたゴブリンが命じる。ゴブリンたちは銃口を向けるが、体が傾いた。
地面が盛り上がり、片足を握られ、持ち上げられたのである。
彼らは何が何だかわからず、そのまま大勢の同僚たちに投げつけられたのだ。
後に残るのは黄色いナメクジ、バナナスラッグの巨体だけであった。こちらもさらしに白いふんどしを引き締めている。
「あはは~。油断大敵だよ~」
のんびりした口調で語るナメクジの亜人に、ゴブリンたちは恐怖を抱いた。
「あれはコハクだ、でべそ一味の総舵手だ!! 大地に同化する大地のコハクだ!!」
コハクは地面などに同化する能力を持っている。それ故に大地という二つ名を持っていたのだ。もっとも本人はまったく知らない。
ゴブリンの緊急連絡を受け、コボルトの一団が現れた。彼らもブラウン・ベスを抱えている。
「でべそ一味を甘く見るな! 奴らはひとりひとりが並じゃない、なめてかかると痛い目に遭うぞ!!」
コボルトたちは銃口を向けた。ヒスイとコハクに狙いを定めている。
そこに黒い影が現れた。コボルトたちは一斉に発砲したが、カンカンと音を立てている。
傷一つ負っていないので、その場にいた全員はたまげていた。
「ふぅ、痛くはありませんが、衝撃が結構きついですね」
それは異様な風貌であった。皮膚は鉄に覆われており、髪の毛も石綿でできていた。
アイアンメイデンのイエロである。
「鉄人だ! 鉄人イエロ、でべそ一味のコックだ!!」
コボルトたちがイエロに向かって巨大なビッグヘッドを差し向けた。4本足でその巨体を移動させるチャリオットヘッドだ。
兵士が笛を吹いて操るのである。スイカのように大きな目がイエロを見た。大きな口から象の鼻のように長い、舌を出す。
しかしイエロは怯まない。右手に青白い火花を発している。巨大な舌を振り回すが、イエロは地面に根を張ったようにふんばった。
パチパチと音を立てる。焦げた臭いが周りに充満した。
しかしチャリオットヘッドは一体だけではない。もう2体ほど姿を現したのだ。
これにはイエロもどうにもならないと思われる。
「はいです!!」
ビッグヘッドハウスの上から何かが飛び降りた。それはヤマビルの亜人であった。
白いワンピースを着ているが、それを脱ぎ捨ていると、チャリオットヘッドに抱きつく。
すると見る見るうちにチャリオットヘッドが干からびたのだ。
「ああ! フビだ、吸血船医フビだ!!」
コボルトたちが叫ぶ。フビはヒルの亜人だ。全身で相手の血液を吸い取る力を持っているのである。
そして吸い取った血液を一気に吐き出す。チャリオットヘッドに対し、水圧カッターのように切り裂いた。
あっという間に木に変化してしまう。
コボルトたちは真っ青になった。プラタ一味の強さに驚愕した。
「ええい、相手はたった5人だ、何をしている!! 早く突っ込め!!」
「まて! あいつらを甘く見るな、様子を見ろ!!」
ゴブリンとコボルトの上官たちは正反対の命令を下す。海兵たちは混乱していた。
ゴブリンの海兵たちは銃口を向け、発砲した。そこにオークウッドの亜人が割って入る。
右手をポンと叩くと、そこから巨大なキノコが風船のように生えてきたのだ。
銃弾はすべて大きくて柔らかいキノコの中に止まってしまう。
「ああ、あれは兵器茸だ!! エビルヘッド教団の司教、ベルフェゴールだ!! なぜでべそ一味の仲間なんだ!!」
海兵たちは慌てふためいている。ベルフェゴールの名前は妖精王国にも届いているようであった。
ベルフェゴールの皮膚には兵器茸の菌が全身に広がっている。簡単な衝撃を与えることで望み通りのキノコを生やすことができるのだ。
「なはは! ロビンもいるのだ!!」
可愛らしい声とともに、海兵たちは身動きが取れずにいた。全身が糸に巻き付けられているのである。
相手は小さいビッグヘッドだ。金髪で赤い帽子に手袋と靴を身に付けている。正確には帽子に見える髪型なのだ。
「ビッグヘッドだ! しかもしゃべっている! パインクラスのビッグヘッドなのか!?」
海兵たちはあまりの出来事に頭が付いて行かない。基本的にしゃべるビッグヘッドはパインクラスと呼ばれており、妖精王国ではクイーンヘッドだけである。
実はロビンヘッドは一番下のプラムクラスとして生まれたのだが、指揮官であるバンブークラスの命令を受け付けない特別なビッグヘッドなのだ。
「異常だ、こいつらは異常だ!! 持てる戦力を投入しろ!! 奴らをここで叩き潰すのだ!!」
プラタたちの目の前に大軍が現れた。赤目の黒犬の亜人、バーゲストの部隊に、巨大な筋肉の持ち主であるオーガの部隊。彼らは鉄の胸当てに巨大な鉄の斧を握られていた。
そして小柄で黒く毛深い亜人ボギーの部隊が弓を構えている。
他にもゴブリンやコボルト、レッドキャップの部隊がプラタたちに回り込んだ。
誰もが彼らの命運はここで尽きたと思っていた。
だがプラタは不敵な笑みを崩さない。逆にそれが相手に奇妙な恐怖を抱かせるのであった。
「ネイブルストーム!!」
プラタはモスト・マスキュラーのポーズを取った。両腕を輪のように構え、腹部に力を入れるのである。
でべその拳が目の前の敵を殴り飛ばした。バーゲストは犬のようにキャンキャンと殴られて泣き出しながら逃げた。
オーガたちはあまりの衝撃に地面に落下した後、あわを吹いて気絶する。
ボギーたちはまるで埃を払うようにナギ飛ばされていったのだ。
「すごいもんだな、あいつの技はますます冴えているようだね」
「そうだね~、でもわたしたちもなんだか強くなった気がするよ~」
「認めたくないですが、プラタの相手をしたためでしょうか」
「はいです! 男も女も守る者がいれば強くなれるのです!!」
ヒスイたちはプラタの様子を見て感心していた。
ベルフェゴールはそれを見て満足する。
「ええなぁ。これぞ理想の男女関係や」
「……? ロビンにはよくわからないのだ!!」
その横でロビンヘッドが叫んだ。




