第55話 意外な真実
「海賊だって!? いったいどこから来たんだ!!」
プラタが叫ぶ。スカアハは息を切らしていたが、徐々に息を整えた。
「えっと、あなたは誰、ですか?」
スカアハはプラタを見て言った。彼女にとって彼は初対面の人だからだ。
「俺はプラタ、ネプチューンヘッドの息子だ!!」
「まあ、そうでしたか。私はホッドミミル王国の第一王女スカアハと申します。ところでピークォドお姉さまはぐったりしているようですが、どうかなされましたか?」
彼女はきょとんとしながら、地面に寝ているピークォドたちを見まわす。全員プラタの腰によって粉砕されてしまったのだ。
「スカアハ。海賊が襲撃したとのことだが詳しく教えろ」
ピークォドは立ち上がれない。スカアハは疑問に抱きながらも説明する。
突然ガレオン船が襲撃してきたのだ。緑人王国によくある船だが、乗っていた人間はかなりの手練れであった。
手にはフリントロック式の銃を手にしており、城を瞬く間に制圧したのである。
国王バルドルは囚われの身となり、ちょうどオウロを連れて行ったミスティルティンも捕まったのだ。
スカアハは隙を見て逃げ出し、ピークォドに助けを求めに来たのである。
「なるほどな。だが俺たちは腰を砕かれて身動きが取れない。代わりにプラタ、お前さんが行ってくれ」
「ああ、いいよ。あんたらをこんなにしたのは、俺の責任だ。海賊どもを追い払ってやるよ」
するとスカアハは尊敬する女傑の視線に不可思議なものを感じた。まるで乙女が白馬の王子様を見つめるような優し気なまなざしになっているのだ。
「……オネエサマ。もしかしてこの方と結ばれたのですか?」
スカアハの目に生気が抜けていた。目はうつろで幽霊のように存在感がなくなっている。
「ああ、そうだよ。ここにいる女たちは全員プラタに血を捧げた。さすがに従妹のお前は参加させるつもりはないけどな」
ピークォドは何気なく答えると、スカアハは切れた。
それは普段大人しい秘書のまねごとをするお姫様の物ではなかった。
「なんたることですの!? ピークォドお姉さまだけでなく、コアラーズお姉さまにトラファルガーお姉さま、さらにサイクロプスお姉さまにアニトラお姉さままで!! 男にこびないのがピークォド海賊団ではありませんでしたの!! いいえ、世界最強のお姉さまが男に自ら受け入れるはずがありませんわ。きっと無理やり力でねじ伏せたに違いありませんわ!!」
スカアハは興奮していた。女だけの海賊団にあこがれを抱いていたのだ。もっともホッドミミル王国にとって女は下に見られる存在なので、白鯨女王が活躍しても評価されることはなかった。
「いや、俺は男を禁じてないよ。たまたま女が集まってきただけさ」
ピークォドはなんでもないという口調で答えた。それがスカアハには癪に障るようだった。
「許せません、許せませんわ。わたくしのお姉さまたちの純潔を散らすなんて許せませんわ。あなたを八つ裂きにして、はらわたを引っ張り出し、それでソーセージを作って、ホオジロ竜の餌にしてあげますわ。いいえ、生きたまま食人魚に喰わせますわ。この世に生まれてきたことを後悔するような苦痛と激痛を味合わせてあげますわ……」
スカアハは興奮しきっていた。そこにアニトラが近寄って、彼女の頭に手刀を当てた。
ぐったりと倒れて気を失う。
「ふぅ、スカアハは頭に血が上ると、おしゃべりが止まらないんだよね。お城へはあたしとプラタたちで行くとしよう。それでいいな?」
アニトラはヒスイたちの方を向き、同意を求めた。彼女たちも全員縦に首を振る。ロビンヘッドだけは片手を大きく上げて、元気よく答えた。
「城の場所は知っている。さあ、行こう!!」
アニトラ海賊団とプラタの一味はホッドミミル王国の城へ向かうのであった。
☆
「これはひどいありさまだな」
プラタはエルハヴァ号に乗り、南側へ向かっていった。アニトラの船が先行しており、迷わず行けた。
港町に来るとそこは国というよりも、小さな漁村という印象が強かった。
ペルギュン島と同じくらいで、家は百戸ほどであった。さらに東には大きな館がある。石造りの無骨な造りであった。
おそらくそこが城なのだろう。
プラタは知らないけれど、ホッドミミル王国には百の部族があり、40年前は互いに憎しみ合い、殺しあっていたのだ。
それを先代の王、つまりプラタの祖父になる人がバラバラの部族をまとめたのである。
もっともすべてをまとめ上げたわけではなく、西半分は未だ群雄割拠であった。
先代は人間で王妃はイルカであった。ラグとミスティルティンが人間で、次男のバルドルがイルカとして生まれた。
側室は各部族から長の娘をもらっている。それらは新たな長となり、血を薄めていった。
さて城の周りは凄惨なものであった。血が飛び散っており、この国の兵士たちが地面に転がっていた。うめき声を上げる者から、すでに冷たくなっている者もいた。
どれも足を撃たれたり、胸に穴が開いている者がいた。
銃でやられたのは間違いない。
「ひどいもんだな。さてバルドル王は無事だろうか……」
アニトラはケットシーの亜人であるリジーナに命じて、負傷者の手当てをさせた。
プラタはその中でうめいている兵士に声をかけた。
「おい、大丈夫か。海賊はどこに行った!!」
兵士は問いに答えなかった。あまりの激痛に声が出ないのだ。
プラタは舌打ちすると、城内に入っていった。中はさらにひどく血の臭いが溜まっており、鉄に殴られたような感覚になった。
食堂では女たちが床に倒れていた。死体かと思ったが眠っているだけである。どうやら無傷のようであった。
「どうも妙だな。海賊たちはできるだけ非戦闘員を無力化させているようだ」
プラタはざっと見まわすと、そう結論付けた。宝物庫にはピークォドが持ってきた涙鉱石の山が手つかずに眠っていたのだ。
どうも相手を脅すつもりで発砲したらしい。胸に当たったのは脅しだったが運悪く死んだといったところか。
さて王の間らしい部屋に入ると、そこにはミスティルティンが仰向けになって倒れていた。
胸に風穴があいており、銃で撃ち殺されたのだろう。その表情は鬼気迫るものがあった。
おそらく銃口を向けた相手に一歩も引かなかったのだろう。軽率な人間であったが、王族としては立派な人間であった。
「おお、そなたが我が兄の忘れ形見か」
王座の後ろからひょいと出てきた。それはイルカの亜人だった。すべすべの肌で王冠に赤いマントを羽織っている。
「我が名はバルドル。ホッドミミル王国の王なり。そなたは18年前にこの国から去ったリーヴなのか?」
「違う。いや違わないか。確かに俺の本当の名はリーヴだ。だが今の俺はプラタだ。父親はネプチューンヘッドだ」
それを聞いたバルドルはほっとした様子であった。甥っこがいきなりやってきて、自分が後継者だと言い出したら困っていたところだ。
プラタもその辺の含みを理解しており、あくまでホッドミミル王国に興味がないと示したのである。
ミスティルティンもややこしくしたくないため、プラタと呼んでいたのだ。
「ところでここにオウロが来たはずだ。彼女はどこに行った?」
「連れ去られた。海賊たちは兵士たちを無力化した。我が弟の命を奪ったが、殺すつもりはなかったようだ。動揺していたよ。海賊たちの狙いはオウロさんのようだった。18年前も同じだったよ」
バルドルはため息をついた。オウロはさらわれたようである。いったいどこへ連れて行かれたのか見当もつかない。
「海賊たちの向かった先は妖精王国だ。やつらは自分から妖精海軍だと暴露をしていたよ」
「妖精海軍だって?」
プラタは驚いた。海軍が海賊の真似をしたからだ。だが兵士と盗賊は表裏一体である。要は国に雇われているか否かで決まるのだ。
しかし妖精王国は比較的豊かな国だ。海賊の真似をするとは思えない。もちろんハロルド・ウエスト大尉のような悪人もいる。
「18年前と同じだといったな。すると当時も妖精海軍が関わっていたのか?」
「その通りだ。当時も最新式の拳銃で襲撃してきたし、なるべく人を殺さないようにしていたからな。兄とナロク王妃も死んだが、よく調べると自殺した痕跡が見られたのだ」
生みの親が殺されたのではなく、自殺していた。その事実に驚いたが、なぜ公表されなかったのだろうか。
おそらく士気を高めるために国王夫妻は殺されたことにした方が盛り上がるのだ。変に公表しても講評されるのがオチである。指揮のための士気を下げないためにも国王は海賊の手にかかったことにされたのだ。
「実をいうとピークォド海賊団に頼んで情報を仕入れていたのさ。そのおかげで襲撃した海賊たちの正体をつかめた。
海賊のひとりはブルドッグの亜人だが、あれは妖精海軍のローリング・パープル少佐だな。ビヨンド・ハッシュ大佐の部下だ。18年前にもスプリガンの亜人が混じっていたが、彼が海賊の頭だったのだよ」
意外な事実にプラタは衝撃を受けた。妖精海軍のビヨンド・ハッシュ大佐は知っている。人当たりの良い人間だった。
それが18年前に海賊になってホッドミミル王国から財宝を強奪したことが信じられなかった。




