第51話 囚われのプラタ
プラタは目が覚めた。ここはどこだと辺りを見回すがよくわからない。
背中は岩肌に触れチクチクして痛い。さらに肌寒く、冷たい空気が流れている。
どうやらどこかの洞窟に捕らえられたようだ。両腕は鎖で繋がれている。
プラタの中では命が助かって儲けものだと楽観視していた。
「イーッヒッヒッヒ! ようやく目覚めたようだね王子様!」
そこにひとりの男が現れた。人間でプラタより少し小さい。アライグマの毛皮を身にまとっている。実は中にアライグマの骨が縫い込められており、見た目以上に頑丈なのだ。
そいつは弓を持っている。
「私の名前はミスティルティン。ホッドミミル王国の第三王子だ!」
ミスティルティンの背後には彼より一回り大きい兵士が控えていた。彼らはクジラの骨を利用したハルバードを手にしている。
「俺はプラタ。ネプチューンヘッドの息子だ。あんたが俺を助けてくれたのか?」
「その通りです! だが君はネプチューンヘッド様の子供ではない、我が兄ラグの息子リーヴだ!!」
ミスティルティンの言葉にプラタはドキリとなった。それはプラタの本当の名前だった。
10歳の時、ネプチューンヘッドが教えてくれたのだ。お前を護るように抱いていたエルハヴァはプラタの名前はリ―ヴだと今際に教えたというのだ。
もっともプラタにはどうでもいいことであり、気にしなかった。むしろ恩人のエルハヴァの名前だけは後世に残そうとして、大頭船にその名を付けたくらいである。
「イーッヒッヒッヒ! 隠そうとしてもだめですよん。だって私はある人からそれを聞いちゃったんだからね」
ミスティルティンは勝ち誇ったように笑った。どうも癇に障る声で、不快になる。
「私の手には双子の妹であるスラシルもいる。あの偽りの王から王座を蹴落とすことができるのだ。ああ、我がホッドミミルが天下を取れる日も近い!!」
彼は自分に酔っていた。プラタはこの男に不審なものを抱いていた。自分の事しか興味がなく、他者を利用するそんな人種に思えたのだ。
「おっと、何の話かわからないだろうね。失敗失敗。きちんと君に事情を話さなくてはならないな。ちょいと長いのでお茶を持って来させよう。それと壺も一緒にな」
ミスティルティンは部下に命じると、素焼きの壺を持ってきた。それをプラタの股の下に置く。
そしてパンツをペロンと脱がした。やったのは若い人間の娘で、男の物を見ても平然としていた。
プラタは大小を一気に行う。鼻のくる臭いが充満するが、女の部下は事務的に顔を崩さない。汚れた部分を紙で拭いた。
次に女の部下がやってきて花を持ってきた。さらに温かいコンブ茶を持ってきたのだ。
プラタは身動きが取れないまま、お茶を飲まされる。熱いといえばすぐにやめて、布巾で口を拭った。
「すまないな。君の扱いに関しては謝罪したい。君を逃がさないためもあるが、敵に連れて行かれる可能性も高いのでね」
「それよりスラシルといったな。俺の妹とはどういう意味だ?」
しかしミスティルティンは答えない。おそらく一緒に説明するつもりなのだろう。
☆
18年前のホッドミミル王国は平和であった。人間の王であるラグと、王妃で金色の人魚ナロクが収めていたのだ。
ラグは筋肉モリモリで日焼けしており、いつもへその力で敵を殴り倒していた。
敵は緑人王国の海賊がほとんどで、敵から物資を奪っていたのだ。
ラグとナロクの間には双子の子供がいた。
リーヴは人間の男の子で、スラシルは金色の人魚の女の子だった。
乳母は家臣の娘、エルハヴァ・ホーキンスといい、ふたりの面倒を見ていた。
ホッドミミル王国では大頭船を所持していた。近海を回るだけでゴミを回収し、涙鉱石を排出するのである。
それを売った金で国は成り立っているのだ。
それを真っ先に反発したのがミスティルティンである。彼は積極的に戦争をして領土を広げるべきだと主張した。戦うのが好きなのではなく、近辺の海賊を力でまとめるべきだというのだ。
そうなれば今までいがみ合った部族と話し合いができる。あとは自分たちの望むものを交易すればよいのだ。
ラグの弟で、ミスティルティンの兄であるバルドルは商売こそが重要だと訴えた。
そもそもラグに頼り切るのは危険すぎる。兄に頼りすぎると死んだらそれでおしまいだというのだ。
「そんなことはないんだ! なぜなら我が兄ラグの恐怖は死後も続いている! その隙に兄の子たちが王位を継いでおけば、さらに周辺の部族はなき兄の亡霊に怯えているのだ!」
ミスティルティンは力説した。彼は彼なりに国を思っている様子である。しかしプラタを鎖で繋ぐなど常軌を逸脱している。
彼の周りにいる部下たちは野性味が溢れているが、規律のある態度を取っていた。
ミスティルティンはただの愚かな王族ではないようである。
「ところが18年前、我が国に不幸が襲った! 兄夫妻は殺害され、ふたりの遺児も行方知れずになったのだ!!」
それはある真夜中の出来事であった。北部のホテル村が海賊に襲撃されたのだ。ミスティルティンはただちに全軍を海賊討伐に差し向ける。といっても百人程度が最高なのだが。
城には護衛と女中しかいない状況だった。
ミスティルティンは戦った。しかし海賊たちは強く、鉄砲を出してきたのだ。
彼は頭を撃たれ、十数年昏睡状態になってしまった。
起きたときはすべて終わっていたのである。
まずラグとナロクは死んでいた。ラグは首を刎ねられ、ナロクは胸に短刀が突き刺さっていたのだ。
バルドルは槍で刺されていたが、何者かに治療されており、一命を取り留めた。
不思議なことにふたごは消えており、エルハヴァと妹のピークォドも姿がなくなっていたのである。
ラグがいなくなった後、バルドルが跡を継いだ。彼は商売熱心で、国内のインフレに力を注いだ。下水道や道路設備により、生活は向上した。
他の部族は住みやすい国にやってくる。そんな彼らに適当な職を与え、貿易を重要視した。
かといって武力に手を抜かず、他の部族からの次男などが兵士になり、どんどん強化されていった。
ラグ王と比べると暮らしやすくなったと、名君と呼ばれるようになったのだ。
「甘ったるい! 恐怖で相手を縛らなくては、他の奴らからなめられるばかりだ!! 現にこの国は海賊に狙われている! ピークォドがいても女だからなめられているんだ!! やはり男でなくてはひれ伏すことはないんだよ!!」
ミスティルティンの暴言にプラタは眉をしかめたが、同時に同意もした。
世間は女に対して厳しい。いくらピークォドが強くても女という理由で、馬鹿にされるものだ。
妖精王国のクイーンヘッドは例外なのだ。
「しかし今ここにはリーヴ様がいる! ラグ王の遺児が跡継ぎになるのは当然の事だ! そして即位したら周辺の部族をひとつにまとめる! 緑人王国を支配し、妖精王国も攻めてやるんだ!!」
ミスティルティンは吼えていた。彼は自分の欲ではなく、国を想っていた。彼の言葉は国民の代弁なのだ。だからこそ部下たちも彼についていくのである。
「さてスラシル様の事を教えましょうか。彼女は私が保護しております。今すぐ会わせましょう。感動の対面ですよ」
そう言ってミスティルティンは部下に命じた。数分後、女の部下が椅子を持ってくる。そこには金色の人魚が座っていた。
小奇麗な恰好で、ゆったりとした布が巻き付けられていた。真珠のネックレスに耳飾りで着飾っている。
「オウロ?」
「プラタ?」
それは顔見知りであった。スラシルがオウロだったのである。
「イーッヒッヒッヒ! スラシル様、双子の兄上と再会できて、さぞかし嬉しいでしょうなぁ!!」
ミスティルティンは高笑いした。だがオウロの顔は青くなったままだ。小刻みに震えており、今にも泣きそうである。
「うそ、うそよ……」
「うそではない。あなたは亡きナロク王妃にそっくりだし、リーヴ王子も兄ラグの生き写しだ」
しかしオウロは嫌々と首を振る。彼女は悪夢から覚めたいという気分であった。
「うそよ! 私はプラタの妹なんかじゃない、姉よ!!」
「いや、そっちかよ!! 俺の双子ってことはどうでもいいのかよ!!」
プラタは突っ込んだ。
「うーんと、そっちはどうでもいいかな。いや、やっぱりなという気持ちだわ。あんたに男を感じない理由がそれだったわけね」
プラタも同じ気持ちだった。なぜオウロに対して胸を触る気がしなかったのは、血を分けた兄妹だからだ。
「いやー、長年の謎が解けてすっきりしたな!」
「まったくね! あはははは!!」
ふたりとも笑いあった。しかしミスティルティンは真顔である。
「重要な話も軽く扱う。まさに亡き兄夫妻そっくりだ。やはりホッドミミル王国の王にふさわしい」
本当はすぐにピークォドと出会う予定でした。しかしそれでは危機感がないので、叔父のミスティルティンによって囚われの身にしました。
そもそも私の作品はあんまり危機的状況にならないし、なってもすぐ解決するからつまんないんですよ。




