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第11話 アニトラの踊り

「あっは~ん♪ あたいらはアニトラ海賊団だよ~ん」


 港にはガレオン船が一隻止まっていた。船の先端にはひとりの虎女が立っている。

 それはカスピトラの亜人であった。小さい耳に顔の下半分の毛が長く、顔が大きく見える。黒髪で髪を肩にかからぬよう切りそろえていた。

 身体は橙色だいだいいろを帯びた暗いベンガラで背が黒ずんでいた。


 それ以上に虎女の衣装は奇抜だった。フェイスベールに紫のハーレムパンツを穿いている。そして革のブラジャーを身に着け、白い腹を晒していた。


 その後ろには猫の亜人たちが二十人ほど騒いでいた。スカーフをかぶり、白と水色の縞々のシャツを着ているものや、遥か東にある鳳凰ホングァン大国にある足をすらっと見せるドレスを着たものや太陽アマテラス列島の胸を広げた着物という民族衣装を着ている者もいた。


「アニトラ海賊団だって? ペルギュン島を縄張りにしている奴が何でここに来たんだ!?」


「あいつらは同じ海賊しか狙わないはずだぞ。なんでヒコ王国を襲撃するんだ!!」


「というかアニトラの目がいっちゃってるぞ。子供たちを避難させるんだ!!」


 港にいる男たちは騒ぎ始めた。兵士たちを呼び、自分たちも自衛の準備をしている。

 盾を構え、槍を捧げる。この国では海賊の襲撃は日常茶飯事だ。いちいち王国の兵士たちを頼ってはいられない。

かといって不測の事態もあるのできちんと国に報告はする。


 プラタたちもこの場に来ていた。その後ろにはヒスイにコハク、イエロとフビもいた。オウロたちは留守番だ。

 初めて見る海賊に興味が湧き、少しだけ心臓がドキドキしている。

 果たして彼女らがどのような暴挙に出るか、プラタたちは見守っていた。


「いいおっぱいだ。ふさふさして触り心地がよさそうだな。ぜひ揉みたい」


 プラタが何か言っているが無視された。


「さぁアニトラの踊りを見るがいいさ!!」


 そういうと彼女は先端から降り立った。ベリーダンスといい中東では有名な踊りである。

 足を大きく開き、くるくると身体を回転させていた。

 その様子は卑猥であり遠くにいた子供たちに見せつけているのだ。


「何、あの踊り!? とってもいやらしいわ」


「子供たちの目に触れさせてはいけないわ!! 目をふさぐのよ!!」


「ベリーダンスが悪いんじゃない、悪いのはアニトラよ!!」


 女性たちはアニトラの踊りを子供たちの目に触れさせないようにしていた。

 そこに猫の亜人たちがやってくる。手には武器を所持していない。猫の武器は爪なのだ。

 彼女らは一般人を睨みつける。子供たちは泣きそうな顔になり、母親は愛しい我が子を守るために強く体を抱いた。


「さあお魚をよこすにゃー!!」


「こっちは鶏肉をよこすにゃー!! でもインドクジャクの肉は勘弁にゃー!!」


「またたびをよこすニャル!!」


「そしてオス猫を用意してほしいねぇ」


 猫の亜人たちは自分たちの欲望を口にした。それなら市場で買えと女性のひとりが叫ぶ。

 猫たちはネコ目を光らせた。じっと女子供をにらみつける。

 その後に顔が明るくなった。


「それもそうにゃ。さっそく市場へ向かっておさかなを食べるにゃー!!」


「……」


「タイガーリリー。きっと乾燥大麻ある。市場まで、我慢」


「オーッホッホッホ!! さあ男たちよ私の痴態を見て、血をたぎらせなさい!!」


 彼女らはすぐに港にある市場へ向かっていく。残された子供たちは呆気に取られていた。


「なんか悪い奴らじゃないみたいだな」


 ヒスイがその様子を見てつぶやいた。ただ騒がしいだけで無害のようである。


「あれ~。どうしてコハクの頭の上で寝ているの~」


 コハクが頭上に違和感を察し、上を見る。白猫の亜人がコハクの頭の上に丸まって寝ていたのだ。


「ふ~。ひんやりしておちつくにゃ~。ここでおひるねにゃ~」


 コハクは困った顔になる。まさか自分の頭上で昼寝を始めるとは思いもよらなかったからだ。


 よく見ると猫の亜人たちは好き勝手な行動を始めていたのだ。


 黒猫の亜人は頭にターバンを巻いており、老婆の膝上で丸くなった。老婆は優しそうに頭を撫でている。頭に羽根飾りを付けたスナネコの亜人は老人と一緒に乾燥大麻を吸っていた。


 虎猫の亜人は身体がぴっちりした深いスリットが入ったドレスを着ており、ゴミ捨て場からネズミを大量に狩っていた。タスマニアデビルの亜人も一緒で両手にネズミの尻尾をまとめて握り見せびらかしている。その様子を見て主婦たちはぱちぱちと拍手を送った。


 三毛猫の亜人は和服を着ており、三味線という楽器を手にオス猫の亜人に秋波を送っている。胸をはだけて色っぽい声色で誘っていた。さらにアビシニアンの亜人も喘ぎ声を上げながら踊っている。こちらが児童の教育に悪そうだ。


「おいそこの男!! なぜあたいの踊りを見ていない!!」


 アニトラはプラタを見つけると駆けつけた。他の男たちは鼻の下を伸ばし、よだれをたらしているのにプラタは平然としているのである。

 

 彼女は自分の踊りに見惚れない男が許せないのだ。踊って男を前かがみにさせるのが大好きなのである。


 ハーレムパンツから出ている尻尾は長く、ぶんぶんと怒りに震えていた。


「ふん。お前みたいにおっぱいを見せびらかす女は嫌いだよ。おっぱいは子供を育て男に活力を与える素晴らしい海なのだ。同じおっぱいでもコハクの方が慎ましくて好きだな」


「えへへ~、ありがとう~」


 コハクは褒められて嬉しそうだ。姉のヒスイは頭を抱えている。


「俺の手はお前のおっぱいを揉まない。なのでへそで揉ませてもらう!!」


 プラタは両腕を上にあげ、力こぶを作る。するとへそが手の形に変わり、アニトラの胸を揉んだのだ。

 その動きはまるで虫がしゃかしゃか移動する姿に似ていた。

 だからといって単純に揉んでいるわけではなく、感じるところを的確に狙い、とろとろにしたのである。


「あふ~~~ん!! こんなの初めて~~~!!」


 アニトラは果てた。あまりの気持ちよさに腰が抜けたのだ。うっとりとした表情になりよだれがたれている。猫にイカを食べさせると腰が抜けるというが、プラタの腕はイカ以上の破壊力があった。


「なぜ人様の胸を揉むのですか。理解不能です」


 アイアンメイデンのイエロは無表情でプラタの鼻を殴った。ぷちっと潰れた音がする。だが本人へ平然な顔をしていた。


「俺がおっぱいを揉むのは癒しを求めているからだ。逆にへそで揉むことは相手を倒すためなんだ。俺はお前らのおっぱいはきちんと手で揉むから安心してくれ」


「そうだったですか。ならばよしです!!」


「フビ。よしではありません。プラタを甘やかさないでください」


 プラタの高説をフビが賛同したが、イエロが切って捨てる。とはいえアニトラを無力化したのだ。

 船長の敗北を見て、猫の亜人たちは次々と集まった。コハクの頭上で寝ていた白猫も起き上がって集団の中に入る。そしてアニトラの前に立ち、プラタたちの方を向く。


「ごめんなさいだにゃ。うちらは何だか知らないけどこの国に来て暴れたくなったのにゃ。アニトラ姉さんが腰砕けになったのでうちらも正気に戻ったのにゃ」


 白猫は頭を下げながら事情を説明した。アニトラは黒猫と虎猫に支えられ立ち上がる。


「あは~、こんなに気持ちいいのは生まれて初めての経験だわ~。へんなでか頭の笛の音を聴いて頭が変になったけど、すてきな体験ができてラッキーだわ~」


 アニトラは気になることを口にした。だが突如港の方から騒ぎが聴こえてくる。


 それは巨大なカモメが襲撃してきたのだ。通常の二倍の体形を持つ巨大カモメである。さらに巨大トビウオも飛来してきた。こちらは通常のトビウオより大きくて、刃物のような固さを誇っている。船に突撃し、船底に穴をあける狂暴なトビウオだ。


 巨大カモメもくちばしが鋭く、木の板など軽く貫通するのだ。アナウサギやハツカネズミはもちろんのこと、アカシカやヤギを集団で喰い殺すなど獰猛さを持つ。


 普段は港に来ることがないのだが、突然のことで大騒ぎになっていた。


「オーッホッホッホ!! わたくしはハーメルンヘッドよ!!」


 アニトラの船のマットの上にビッグヘッドが立っていた。顔は道化師のようにペイントしてある。目の周りは星が描かれており、赤く丸い鼻に分厚い唇だ。頭部には星の入ったとんがり帽子をかぶっている。おそらく地毛で編みこまれたものだろう。


 ハーメルンヘッドはプラタを睨みつけているのであった。

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