12.
屋敷に戻り、前にそうしたようにこっそりと裏門から中へ忍び込もうとしたシャルロッテとベンは、屋敷の敷地に一歩足を踏み入れるなり青ざめた。そこには、いかめしい顔つきをした、シャルロッテの母である子爵婦人が仁王立ちになっていた。彼女は二人を見据え、無機質ともとれる声で言った。
「間もなく嫁ぐ身の子爵の娘が、なんたる真似を・・・。ベン、今度という今度は、もうお前を許すことはできません。おまえには今日限り、この屋敷での奉公を辞めてもらいます」
「母上様、そんな・・・」
シャルロッテは母の足元にその身を投げ出して懇願した。
「母上様、ベンに無理矢理外に連れ出してくれるよう頼んだのは、この私なのです。ベンに罪はありません。この屋敷にずっと縛り付けられていることに耐え切れず、私はベンに、せめて夜だけでも外へ連れ出してくれるよう頼んだ・・・、いえ、命じたのです。どうして使用人のベンが、主人である私の命に逆らうことができましょう?ですから、どうか・・・」
「おまえがそのような望みを持っていたことを、ベンは私に報告すべきでした。おまえが何と言おうと、ベンには今日限り暇を出します」
子爵婦人は決然と言い放った。シャルロッテはおろおろとベンのほうを見たが、彼はまるで、覚悟はしていたとでもいうように、無表情で俯いていた。子爵婦人は続けた。
「シャルロッテ、おまえは今日限り、この屋敷の敷地はおろか、自分の部屋から出ることも許しません。侍女を見張りにつけることにします」
「母上!」
シャルロッテは叫んだ。
「それはあまりにも、無体というもの。あの中庭の籠の鳥、あの鳥たちをご覧下さい。大空に憧れる鳥たちの苦しげな瞳に、母上はお気づきにならないのですか。まして私には、鳥よりも知恵があるのです。どうしてこの屋敷に閉じ込められて、正気でいられるはずがありましょうか。鳥を籠に閉じ込めるより、あなたの娘を閉じ込めることのほうが、尚むごいことではありますまいか!」
そう言ってから、シャルロッテはふと何かに気づいたように一瞬言葉を止めた。それから彼女は一瞬躊躇ったが、更に言葉を継いだ。
「・・・母上はまさか、私とベンのことを疑っておいでだから、ベンに暇を出し、私を閉じ込めるなどと酷いことを仰るのではないのですか。誓って申しますが、兄妹同然に育った私たちの間で、母上が考えられるようなことは断じてございません。ベンは私に、指一本触れてはおりません。神様の前でさえ誓えます。ですからどうか・・・」
「言いたいことは、それだけですか」
子爵婦人は娘を遮ると、踵を返し、侍女に命じた。
「シャルロッテを部屋に戻して、着替えをさせなさい。その格好はあまりにも酷すぎます。それから鍵をかけて、決して部屋から出さぬように」
「畏まりました」
気の毒そうにシャルロッテを見遣りつつ一礼する侍女たちの目も気にせず、シャルロッテは母の背中に向かって叫んだ。
「母上様、あなたは人でなしです!」
だが、母が振り返ることはなかった。侍女たちが、躊躇いがちにシャルロッテを取り囲んだ。ベンはそっと、無言でその場を離れた。




