出会い
俺は旅を始めてから、夜型の生活を昼型に変えた。
理由は、旅先が主に人間の国家だったからだ。
というよりは、ベルッセン地方以外に鬼族の住む国はない。
昼間の気怠さはきつかったが3か月する頃には結構慣れてきた。
3年ほど、ベルッセン地方の北にあるディアリス王国、スプレクス公国、アスキニス国の3国間を巡っていた。
しかし、今は聖パルティア皇国向かって南下しており、後1日くらいで皇都につく予定であった。
(聖パルティア皇国が敵国だって?ハハハ、ばれなきゃ問題ない。ディアリス王国で身分もつくってきたしな!)
地理的な話をすると、ベルッセンは半島であった。
半島の北側には先の3国が互いに牽制し合っており、常に冷戦状態だった。
そして3国の下、ベルッセンから海を隔てた南側の広大な土地がすべて大国・聖パルティア皇国領となっていた。
鍋を火からおろした俺は、馬車のとどろきが聞こえた方に向かう。
もちろん森の中に身を隠しながらだ。
使えないと思っていた『隠匿』のスキルも自分にかければ、敵に見つかりにくくなるために隠密行動時には割と使えるスキルだった。
完全隠密というわけじゃないので見つかる時は見つかるが…
目的地に着くと森の中から様子をうかがう。そこは森に挟まれた道であった。
馬が殺され馬車は完全に止まっていた。
御者台には死体が一つ。
まだ馬車の中には人が残っているようだ。
その周りをいかにも『俺盗賊っす。悪者っす。金目のものと女はうばうっす』という感じの人間が囲んでいた。
(相手は5人か…懐は潤っているけど、あって困るようなものじゃないしいいか)
俺は相手の視界に入らないように気配を殺しながら忍び寄った。
もちろん『隠匿』のスキルを自分にかけている。
愛用のナイフを抜いて盗賊さんの後ろに立つ。
このナイフだってスプレクス公国であったナイスミドルのおっさんが鍛えてくれた業物だ。
刃渡り15cmほどの大型のナイフで俺の注文道理ハンティングナイフのような形をしている。
後ろから相手の体を支えてやる。
相手は驚いたように体を反応させるが、声を出す前に魔法で強化したナイフで喉ごと首を半分かき切った。
首から血を流しながらビクビク動いている盗賊さんの体を音が立たないように地面におろすとほかの4人はまだ気づいていないようだ。
盗賊のお頭らしき男が合図をし、二人が馬車の方に向かっていく。
残っている二人の後ろに立つと、ナイフを盗賊の片割れの頸椎に突き刺した。
突き刺された男は、体を2回ほど跳ねると糸の切れた操り人形のように崩れおちた。
「な…っ」
隣にいたお頭が声を上げようとした瞬間に手で口をふさぐと2本目のハンティングナイフを取り出し最初の盗賊と同じように首をかき切る。
ドサッドサッ
音を聞きつけたのか馬車に向かった二人のうち片方がこちらに戻ってくる。
俺は、戻ってきた盗賊に見つからないように迂回して、馬車近くで待機しているもう一人の盗賊のそばに立つと力任せにナイフをふるい、首をはねとばした。
盗賊にしてみれば何が起こっているのかわからないだろう。
鮮血が馬車を濡らすが、俺に血がかかるより早く移動し最後の一人に標的を合わす。
最後の一人に向かって歩いていく。
後ろに立った俺は、肩をたたいてやる。
驚いて振り向いた盗賊の額に力いっぱいナイフを突き立ててやると白目をむいて、リンボーダンスよろしく崩れ落ちていった。
「ふぅ」
緊張を解いた俺は、充満する血の匂いに顔をしかめながら後処理をする。
鬼族になっても、別に血を吸いたいとか、血に酔うなんてことはなく、あまり好きになれない匂いだった。
なめてみても、鉄の味がして全然おいしくない。
血なんておいしいのかと疑問に思って、リーディアさん―パパンの使徒に聞いてみたことがある。
そしたら、顔を赤らめながら『糖蜜のように甘くて癖になる』だそうだ。
盗賊に刺さったナイフを抜いて、血油を盗賊の服で拭く。
この3年間で、だいぶ殺人に対して慣れたものだ。
最初のころは、自分では気にしてないつもりだったがかなり精神的に来ていたらしく、次の日は気分が落ち込んで全く何もする気が起こらなかったくらいだ。
ナイフを回収し終わって、しばらく盗賊の懐をあさっていると、不審に思ったのか馬車の中から男の人が出てきた。
「おこんばんは」
俺は礼儀正しく挨拶をしたら、『ひぃ』とおびえられた。ちょいへこむ。
「あーえーっと、賊は全部倒しましたよ?」
「すっすいません。あなたは盗賊じゃないのですか?」
男の人は、びくびくしながら聞いてきた。
結局俺が盗賊でないことを納得してもらうのに言葉を重ね、荷物を持って俺の野営地に来てもらうことになった。
そのあと馬車からもう一人青年がでてきた。
(ねぇねぇ女の子どこー?ふっ現実はこんなものか…くそう)
「あの危ないところを助けに頂いて本当にありがとうございました。私は、皇都で商いをしておりますウルピルスと申します。ウルと呼んでください。こちらが息子のカファティムスといいます」
「カファティムです。カティでいいです」
「僕は、ロアンダール・ラドヴィラと申します。ロアンと呼んでください」
なんでも二人は、皇都に帰る途中に賊に襲われたらしい。
護衛もいたらしいが、数が多く。
護衛が時間を稼いでいる途中に逃げ出しずっと逃げてきたが日が暮れてもおってきてここでつかまってしまったらしい。
ウルは、40弱くらいで、中肉中背の割と引き締まった体をしている。
この世界の文化水準だと肥満なんてものは金持ちの貴族くらいしかなれないものだ。
「いや、それにしてもロアンさんはお強い。盗賊5人を瞬く間に倒してしまわれるとは」
「いやいや、注意が馬車にいっていて闇討ちができたからですよ。正面からやるとか考えたくもないですね」
夜であったため、多分正面からでも問題なかっただろうが、日中だったら結構厳しかっただろう。
「ほらカティも神殿騎士団に入るならこれくらい強くないとだめだぞ」
「わかっているよ、親父。でも武器も防具もない状況じゃ無理だよ」
「神殿騎士団ですか?」
俺は聞きなれない単語について聞いてみる。
「ええ、うちの息子は今年で16になりまして、神殿騎士団にはいりたいというのですよ。次男ですので好きなようにさせようとは思いますが…そういえばロアンさんはお若いようですがおいくつなのですか?」
「僕も今年で16になります」
さらっと嘘をつく。なんで嘘をついたかというと、ディアリス王国で発行してもらった身分証が16だったからだ。
仲良くなった友達の貴族に作ってもらったのだが、大人の事情というやつで年齢が16にしかならなかったのだ。
16でも通るからいいじゃないかと友達の言葉。
「ほう、その年で旅?ですか。そいえばロアンさんはどうしてここに?」
「ええ、父が領主なのですが、次男坊である私は領地を継げませんので、見聞を広めるために旅をしているのですよ」
用意してあった嘘をつく。
嘘をつくポイントは真実を織り交ぜることだって、エロい人が言ってた!
それに身分証もディアリス王国・ラドヴィラ家次男となっている。
実際にラドヴィラという家があるとディリアス王国にも紙の上では登録されている。
「僕は、ディアリス王国から来たのですが、神殿騎士団はなんなのですか?」
俺の知っている知識では、聖パルティア皇国は宗教国家だ。
皇帝が国教であるマフィディ教の教皇を兼任している。
このため、協会は聖パルティア皇国でかなり大きな権力を握っているのであった。
「あーディアリス王国の方でしたか。それでは、知らないかもしれませんね。神殿騎士団とは、聖パルティア皇国の誇る対吸血鬼の専門機関です」
ヘアッ☆ミ