作戦会議
「いよお。おめーら、ロアンの友達か?こんなとこでガキみたいにさわいでんなって、エロい枢機卿におこられちゃうぞ☆」
誰のことかといえば、あの娼婦を呼び込んだ枢機卿のことである。さすがに権力者だけあって厳重注意で終わったとかなんとか。周りから忍び笑いが聞こえる。
「あ、エンリコさん。帰っていたんですね。お仕事お疲れ様です」
冷たいレモネードを片手にドカッと俺の隣に腰を下ろした。そのあと、とりあえずお互いに自己紹介をした。
「いやー、オルガちゃんだっけ。かわいいね!そして!」
エンリコさんは二の腕に筋肉をつくってパンパンとたたく。そしてこれ以上ない笑顔で言った。
「イイ筋肉!すばらしい」
「あ、ありがとうございます」
オルガはうれしそうにお礼を言った。
(あー、それほめ言葉だったのか…わかんね…この人たちホント謎だよ…)
「それでだ。本題なんだが、文官どもがやらかしたらしいぞ」
声のトーンが一つ下がる。エンリコさんが真面目モードに入った時の合図だ。
「えっ?やらかしたって、今日大規模な作戦があるとしか聞いてないのですけど?」
「そう、それだ。なんでも、訓練生まで呼び出して大規模な作戦をやったっていうじゃないか。それが大失敗だったらしく、大混乱しているぞ」
「あれ?なんでエンリコさんはそんな他人事なのですか?諜報の人間だから一応文官じゃないですか」
「あーん?ったりめえだろ。3課は独立組織だぞ?小規模な合同作戦の依頼は受けてもそんな大規模な作戦には参加しねえよ。人手も足りないしな」
多分最後が本音なんだろう。レモネードを飲みながらぼやいている。
「すいません。話の腰を折りました。それで、何をやらかしたのですか?」
「おお、それそれ。今回の大規模作戦の目的って知っているか?」
もともと今朝いきなり聞いた話なので、その内容など俺たちは全く分からなかった。そろって首をふるう。
「そっから説明か。前々から皇都では失踪事件が立て続けに起きていたんだ。それが最近吸血鬼の仕業の可能性が高まってね。その結果が今回の大規模作戦さ。皇帝のおひざ元で、吸血鬼がキャッキャうふふやっているなんて知れたら、顔に泥を塗るどころの騒ぎじゃないからな」
「それで、何が問題だったのですか?」
「そうそう、問題はな。その吸血鬼が原種だったってことだ」
「原種…?」
ヘルマンがいぶかしげに聞く。あまり聞きなれない言葉だ。
「あーそうだな。使徒は、人間からつくられる。これはいいな?公にはなってないが、いわゆる使徒と呼ばれる吸血鬼には吸血鬼を増殖させる能力はない。生殖能力もだ。唯一、吸血鬼を作れる存在、生まれながらにして吸血鬼である原種と呼ばれるものが存在する」
(つまり、いわゆる鬼族=吸血鬼の原種ってことかな)
「つまり、その原種さえいなければ、確認された吸血鬼が増えることはないってことですか?」
「そうだ。原種は吸血鬼を増やすことのできる厄介な存在だ。見つけたら即、消滅させる必要がある。だがな、神殿騎士団の歴史の中でも原種相手に勝てたことは2回しかない。そのうち1回は1課が全滅にまで追いやられたらしい」
ごくりとつばを飲み込む音が聞こえる。
「それでもう一回は?」
「ああ、レミーガのおっさんが単独で撃破したらしい」
「えー…」
「そう、胡散臭そうな顔をするなよ。ほんとなんだって、その功績のおかげで1課の不動のエースを張っているんだよ」
「化け物じみて強いと思っていたら、ほんとに化け物なんですね…」
「そうなんだよな…あのおっさんは異常だわ」
「それで話の流れからしますと、もしかして作戦中に原種が現れたのですか?」
オルガが真っ青な顔で聞く。根が真面目なので、話を聞いておびえている。レミーガのおっさんが化け物ってはなしだし、あの人に任せれば万事解決なのに。
「そう!それなんだよ、オルガちゃん。っかー言い合いの手入れるねえ!さすがに昼間だったからな、原種の出現はなかった。だけど、予想を回る数使徒の出現によって、文官の捜索チームは壊滅、何人かさらわれたらしい」
「それは…シャレになってないんじゃ…?」
「あれ?でも変ですね。使徒とはいえ昼間の日光のもとではその能力を発揮できないのでは?」
「そうだ。今回は、ちょっときな臭い雰囲気が漂っている。それを受けて1課に下された命令は、原種・使徒及びとらわれた騎士団メンバーの速やかな排除だ」
「さらわれた騎士団メンバーも討伐対象ということですか?」
「そんな…ひどい」
「しかたないさ。使徒にされてしまえば、べらべらと内部情報が筒抜けになってしまう。それだけは避けたいってことだ」
(ん?ここに俺がいるからその命令って意味ないよね?えへへへへ)
「それで、原種の潜伏先とかわかっているのですか?」
「いんやー、さぱーりだわ。一応、つかまった人間の配置されていた場所から大まかな位置は割り出しているらしいけどねえ。そこでだ、マリア局長から伝言」
嫌な予感しかしない。あの人がお茶しようなんてのんきなこと言うはずがない。
「1課を出し抜いて、吸血鬼の殲滅及び騎士団メンバーを速やかに救出しろだってさー」
「いやです」
間髪入れず否定してみた。
「無理」
さらに短く返された。
「まあ、落ち着けって。この話を聞いたら、マリア局長に感謝することになるぞ」
嫌な予感が3割増しになった。それでも、聞かないという選択肢がないのは社畜になったからだろうか…
「つかまった人間の中に、ロアンの友達のレイラって子が入っているぞ」
「「「なっ」」」
(俺たち、息ぴったり)
頭のどこか冷静な部分が、変な事を考えている。
「エンリコさん、ありがとうございます」
「礼なら局長にいいな」
エンリコさんはそれだけ言って、席を立って食堂を出て行った。
「確かにそうですね。すべてを片付けてから、礼を言いに行きます」
出ていく、エンリコさんの背中にそれだけ投げかける。食堂に残された3人は、それぞれ苦い顔をしている。
「ロアン、どうする?」
「どうもこうもない。ヘルマンたちにも協力してもらうよ。俺一人でどうこうできる問題じゃない。30分後にヘルマンの部屋に集合しよう。ヘルマンたちにはみんなを集めてもらってもいいか?俺はちょっと行くところがある。ああついでに、モカとカティにも事情を説明しておいてくれ」
「いいだろう。ロアンが一人で片付けるなんて言い出したら殴っていたところだ」
「はっ。そんなに傲慢じゃないさ」
事実、また鬼族とやりあうことになると考えると、恐怖で体が震える。3年前に心に刻まれた鬼族に対する恐怖は、いまだにこの体に根付いている。あんな化け物に一人で立ち向かうなんて狂気沙汰だと思う。あのときだって、サラさんやパパンがいなければ俺はこの世にいなかっただろう。
きっかり30分後、ヘルマンとカティの部屋に5人は集まった。その間に俺がしていたことは、ウルさんに情報をもらいに行っていた。だから、俺の手には出所不明な情報までいろいろある。
(俺もう、ウルさんがいなかったら生きてけないわ…ウルさんは俺の嫁!)
「レイラが捕まったって、どうするだよー?」
カティは相変わらず何も考えていないようにすべてこちらに丸投げしてくる。というか4人とも期待のこもった目で見つめてくる。
(えええ?俺そういうポジション?リダーとかやったことないんですけど…)
気を取り直して、今後の予定を告げることにした。
「まず、吸血鬼の潜伏先を絞った。今日までに出ている行方不明者の人数は50人ほどに上る。これだけの人数が潜伏かつ食料が運び込まれているような建物は少ない。そして、今日行われた作戦における被害者の位置から計算して可能性が一番高い建物は、皇都東にある市民協会だ」
市民協会といっても、聖パルティア皇国の首都にある教会だけあって規模は大きい。優に100人ほどの人間が生活できるだけの広さはある。
「教会ですか…」
もともと敬虔なマフィディ教の信徒であるオルガにはあまり歓迎できる結果ではないのだろう。嫌な顔をされた。
「そうだ、市民が礼拝にいそしんでいる地面の下では吸血鬼がのうのうと惰眠をむさぼっていたというわけだ。なかなかのお洒落さんだな」
「俺たちは馬鹿にされているのだな」
「そして、1課の動きだが、同じようにこの教会を標的に決めているらしい。作戦開始時間は明日の正午だそうだ」
「ふーん。じゃあ今から殴り込みをかけに行くってわけね!」
(なんで、そんなにやる気満々なんですかね…)
「いや、今日はもう遅い。後何時間もせずに日は沈む。戦闘中に日が沈むなんてことがあれば俺たちに勝ち目はない。夜に吸血鬼とやりあうなんてただの自殺行為だ。明日の日の出とともに突入する」
「えっそれだと、ちょっとまごつくと1課の人たちとかち合うよ?」
「別にそれでも問題ない。今回の要請は吸血鬼の撃破と捕虜の奪取ということだ。吸血鬼をだれが撃破しようが関係ない。捕虜を―人間のレイラを奪還できれば俺たちの勝ちだ。理想は捕虜だけ先に救出して、吸血鬼は1課に任せることだな。吸血鬼との戦闘になれば、それだけ捕虜の生存確率は低下する」
その言葉に、全員がうなずく。みんな俺のことを信頼してくれているようだった。
(もし、レイラが使徒になっていたら…いいや、今考えることではないか…)
「それで、これが教会の内部図になる」
そういって一枚の紙を取り出して広げた。そこには市民協会の詳細な見取り図が書かれていた。玄関から大きく空間をとられた礼拝堂。そこから奥には修道女や神父の生活空間があり、建物は2階建てに地下が1層あった。礼拝堂は2階までの吹き抜けになっており巨大なパイプオルガンらしきものがかきこまれていた。
「んで、吸血鬼の原種野郎はどこにいるのさ!やっぱり地下か!?つかまってる人間と一緒に地下か!?」
「まあ、捕虜は多分地下だろうな。でも原種も一緒にいるとは限らないと思うけどな。でもなんで地下?」
「決まってんだろ!悪役は地下がお好き!これで!」
「なるほど、地下はないな」
「そうね…」「だな」「みたいですね」
カティのおかげで、地下には吸血鬼の原種はいないということになった。ほんとのところはわからないが…
「突入作戦は、側面に魔法で穴をあけて突入。まず地下へ向かう。そこに捕虜がいたらそのまま脱出。いなかったら、ヘルマンとモカ組、俺、オルガ、カティの3人組に分かれて捜索。そのあとは臨機応変に捕虜を見つけ次第脱出ということでいこう」
俺の考えに対して異論はなかった。
「それじゃ、解散して明日の朝に備えてゆっくり休むこと。後ぶきの手入れね」
「おっけー、俺のピースメーカーがうなるぜい!」
「カティ、そういう時は、俺の股間のマグナムがっていうんだぜ?」
「まじで!?まぐなむって何?なんかかっこいい響き!」
なぜかここまで持ってきた拳銃を取り出してポーズをとっている。つっこみ役がいないって深刻だね☆
「ちょっとロアン。カティはほっといて、私とオルガは武器とかまだ決まってないんだけど、どうしたらいいの?」
「ああ、二人ともまだちゃんとした武器を使う訓練はしていないはずだから、下手に武器は使わない方がいいと思うよ。素手で殴った方が聖術の効果を損なうことなく攻撃できると思う。モカは奥の手で魔法を使える準備は最低限しておいた方がいいかな?あと素手で殴るなら皮の手袋とかあった方がいいかもしれないね」
この時代だとナックルガードなんてないだろうしなあと思いながら、めいめいに準備に帰って行った。
1日200ユニークも見ていただいてありがたいことです。
こんな駄文ですが、もうちょっとだけおつきあいを…




