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ベルッセンの鬼(仮)  作者: あかいひと
見習い騎士編
19/33

日々

 あれから3年たちました…なんてことはなく4か月程度しかたっていません。その間、午前は日の出とともにレミーガさんたちと聖術の訓練を行い。午後は食事を挟んで眠くなる聖典の講義を聞いていた。

 聖術は、いわゆる中国武術の気功というものをすごくしたイメージだった。体に充実した気功の力は、身体能力を跳ねあがらせ傷を癒した。こちらの世界に来て、魔法、固有異能と裏切られ続けてきた俺には涙が出るような素晴らしいものだったとここに言っておく。

 なぜなら、丹田といわれるへそよりやや下腹部のところで気を練り、気を体に循環させると日中でも固有異能を使えるようになったからだ。さすが、気功!中国三千年の歴史は伊達じゃないぜ!

 とりあえず、聖術が使えるようになったからあれをやってみた。男の子が必ずやる行事!波動○とかめ○め波だ!これをやったことないなんて言う奴はむっつりでしかない!

でもさ…出なかったさ…そんな気はしていたけどね…

 波○拳とか初期むじるしでは必殺技だったはず、必殺技を会得するには修行しかないと思った。それから1ヶ月くらいずっと練習していた。やり方は気を練って手に送る。手にたまったなあと思ったら○動拳といいながら前に手を突き出す。

 結局、練習しているところをレミーガさんに見つかって、仕方なくやっていることを説明したら、気は体内で扱うものであって体外に出せるものではないとお叱りをいただいた。

こうして男のロマンは1ヶ月で終了したのだった。それは、そろそろ今年も歳の終わりを迎えるころだった。

今年も終わり、年末年始は前後それぞれ2日ずつ休みがもらえた。俺はもちろんヘルマンもたった4日の休みでは実家に帰ることができない。かといって、騎士団の寮にいるもの切ないので、カティの実家にお世話になることになった。

年明けにはカティは件のレナ嬢とデートしており家を空けていたのだが、なぜか俺が代わりにクルール商会にあいさつに来た面々に紹介されていた。おっかしーなー、俺のここの家の子になった覚えはないのだけどなーと思いながら神妙に挨拶していた。



午後の講義も終わり、そんなことをうつらうつらと思いだしているところにいつものごとくカティたちがやってきた。

「ロアン、ロアン。知ってる?」

「いや、知らない」

 聖パルティア皇国は南にあるために雪は降らない。しかし、風が強く気温よりも体感温度が寒く感じる。年明けともなれば氷点下になることもしばしばあり、早朝には霜柱が運動場の隅で見られる。

 そんな寒い季節でも大活躍してくれるのがみんなの味方聖術くん!聖術により気を活性化させ全身に循環させれば体もぽっかぽか。役立たずの魔法とか固有異能とか滅んでしまえ。

「知らないじゃなくてさー。なんかさ、皇都で結構な数の行方不明者が出てるらしいんだよね」

「んー?新手の都市伝説じゃないの?行方不明っていったら、警備の人たちとか動くんじゃない?」

 冬の弱く優しい日差しを浴びてまどろんでいる俺に、真剣に反応する気はさらさらない。

「それが、ホントみたいなの。私も実家に帰った時に聞いたわ。もう何人も行方不明になっているみたい。自警団の人たちも必死で捜索しているけど一人も見つかってないらしいの。誘拐事件じゃないかって言われてるよ」

 ここでモカちゃんの登場である。あいかわらず、オルガとレイラの3人でいる。3人ともこの話題には興味津々らしい。

「わ…私も聞きました。も…もしかしたら神殿騎士団の調査隊が動くかもしれないからって…教官が午前の講義で言っていました」

 この中で唯一の文官であるレイラが、信憑性のある情報をくれた。

「それでは、この失踪事件は吸血鬼がらみなのか?俺たちは何も聞いてないが」

「あの…私も…そう聞いただけですから…。もしかしたらって…言っていましたし」

「まーヘルマンもそういきり立つなって、でもマフディ教の総本山のお膝元で吸血鬼とは馬鹿な奴だね」

「まだ、吸血鬼の仕業と決まったわけではないと思いますよ。実際に神殿騎士団が動き出したわけじゃないのですから」

 オルガがフォローに回ってくれていた。

(オルガちゃんもすごい、いい子なんだけど、相変わらずむっきむきだね…大腿四頭筋が服の上からでもわかるYO☆)

「でもさでもさ、神殿騎士団が動くならもう解決したも同然だよな。そんなことより、飯にしようぜー。俺腹減ったよ」

 カティの話のぶった切り方には大いに不満があったが、ちょうど夕飯の時間でもあるしみんな異存はなかった。俺も席を立って、みんなの後を追う。ただ、この件が妙に気になったので、あとでウルさんに連絡を取って調査してもらうように心の中で考えていた。



 それからも俺たち3人は1課入りが決まりレミーガさんたちに特訓を受けている日々であったが、他の騎士見習いはこの5か月ずっと基礎体力作りと体術の訓練をしていたらしい。

 このころ、俺たちの武器選択もおわっていた。俺は、使い慣れた短剣を選び、ヘルマンはツヴァイハンダーとばれる1.8mほどの無数の鉤のついた長剣を選んでいた。

剣をふるう才能が皆無だと烙印を押されたカティは最近開発されたといわれる6連式リボルバーという拳銃をチョイスしていた。少し触らしてもらったが、いわゆる西部劇に登場するようなSAAシングルアクションアーミーと同じようなものであった。カティが愛用の武器に名前を付けたいけどいいのないと聞いてきたので『ピースメーカー』という通称のことを教えてあげたらすごく気に入っていた。

その頃ほかの騎士見習いは、1課への選抜の時期を迎えていた。選抜といっても特にこれといって試験があるわけではなく、担当教官による日頃の評価で決まるらしい。選抜する方も気を使うが、選抜される当の本人にとっては替えのきかないエリートとなる1課か使い捨ての雑兵の2課に分かれるため人生を左右しかねない一大事だ。

聖術に至っても2課には特に伝授することはなく、1課のみということだった。別に全員に教えればとおもったが、技術の流出を恐れてのことといっていた。

「ねえねえ。なんかさ、最近空気重くない?」

「ほう、よくわかったな。重いぞ」

 最近ではヘルマンもカティの扱いがわかってきたらしく、軽くあしらうことが多くなってきた。

「そうじゃなくてさー。なんかこう、モカもオルガもあんまりしゃべんないし、レイラにいたっては完全に話しないし。どうなってるのさー」

「みんな大事な時だからそっとしておいてやれよ。俺たちが何言っても嫌味にしかならんよ。10日くらいたてば変わるさ」

「んー。わかったー」

 俺たちは、レミーガさんたちを待ちながらストレッチをしていた。

「でさーでさー。ヘルマン!耳寄りな情報を手に入れたんだけど!」

「どうした?」

「なんか、ヘルマンとオルガが付き合ってるらしいじゃん!どうなのよ!」

ピシリと空気が凍った音が聞こえた。それと同時に、ヘルマンがイラッットしたのもわかる。

(なんなんだろう。この中高生くらいのノリは…ヘルマンの雷が落ちるのはカティだけでいいからそっとしておこう…)

「貴族と平民の禁断の愛!これ実家が許してくれないだろー。んで本当のとこどうなのよ?」

 空気を読むなんてことはしないカティは絶好調だった。

(カティは全力で地雷踏み抜くタイプだからなあ…骨は拾ってやろう)

「それを知ってカティはどうしたいんだ?」

 穏やかな表情、穏やかなしゃべりで話しているにもかかわらず、ヘルマンの放つ威圧がすべてを裏切っていた。

 ゴリゴリゴリ。ヘルマンはカティの前屈ストレッチの補助をしているのだが、眼に見えてカティの体が折りたたまれていく。

「いっ痛い痛い痛い。やめてええええ」

(もう、やめたげて!普通の人間の関節の可動範囲超えているから!カティが折りたたまれちゃう)

 さすがにまずいと思ったのか、カティの体から手をパッと離す。

「いあ…ほらさ。おれのほうが付き合ってる期間長いから…アドバイスとか…できるかと…」

 息も絶え絶えになったカティは喘ぎながらもなんとかしゃべる。最近分かったことなのだが、カティは裏表がない。いつも本気でしゃべっているのだ。

「ふん、ならば期待させてもらおう」

 そういってヘルマンがストレッチに戻ったところで、レミーガさんたちが現れた。

(あーこの人たち、こっそりうかがっていたな…タイミング良すぎるよ…)

 アルフレッドとレミーガさんは、いつもと同じ厳しい表情を取り繕っているのにエドガーさんがいつもより3割増しでにやにやしているのですべてが台無しである。

 ちょうどこの日は、1課全体で訓練があるらしい。俺たちもそれに参加させてもらうことになった。レミーガさんたちの案内で1課の訓練場に向かう。

「なあ、ヘルマン。なんでそんなに嫌がるのだ?オルガのことは最初に会った時から気に入っていたのだろ?別にそこまで隠すことじゃないだろうに。俺たちは応援するぞ。いくら平民出身とはいえ、騎士団として1課にはいれば騎士叙勲もある。そうすれば、一応貴族ではあるだろう。オルガの実力なら1課入りもかなりの可能性があると思うぞ。それに騎士団に入った次男坊の嫁にそこまでこだわるとは思えないのだがな。」

「ありがとう、ロアン。別に隠していた問い訳ではなくてな。カティに言われるとちょっとイラッとしただけだ。しかし、オルガは1課入りできるのか…」

「心配なのはわからんでもないけど、十中八九大丈夫だと思うぞ。ロイター教官だってああ見えても実は、神殿騎士団で1位2位を競うほどのいい人らしいからなぁ」

実際のところ、オルガは俺たち3人を抜かせば今の騎士見習いの中でも上位に当たるほどの実力者だ。順当に評価されれば、1課入りは間違いないだろう。さすが筋肉。

一方、モカは強みが魔法であるために少し難しい。さすがに努力はしているために、中の上辺りには食い込んでいるのだが、1課入りができるかどうかとなると難しい。五分五分だろう。

1課と2課ではかなり溝があり、反発しているらしい。それが俺たちの中にまで入ってこないことを祈るしかない。

ロイター教官(あのひと)はいい人だからな。そこは信用している。話は変わるが、ロアンはどうなのだ?ロアンならかなりモテるだろ?」

「は?全然もてないぞ?モテるのは俺の親父だわ…ホント女っ気がなくて泣けてくるよ…」

「そ、そうなのか?ああ、親父がモテすぎることが嫌で国を飛び出てきたといっていたな。自分がモテるという自覚はないのか…」

 ヘルマンの小声で付け加えた一言は俺には聞こえなかった。

(ほんと、周りにいい()はいるんだけど、誰も俺の方を向いていないんだよな…婚約者設定とかでもあればよかったのに…)


フラグ回です。全部回収は…しない!かも

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