2-4 世話係ですが、稽古をつけられています
2-4 世話係ですが、稽古をつけられています
「カイル、来い」
厨房から二人分の昼食をもらって、朝と同じく今まで食べたことのないような豪華な昼飯に喜んで、デザートまで残さず美味しくいただいたあとのことだ。
厨房に食器を片付けに行って、どこかにかわいい女の子は勤めてないかな~と無駄に城の中を散歩して(結局女の子はいなかった)、部屋に戻ったら、寝間着とも違うシンプルな布の服に身を包んだセシルが、俺を呼んだ。
許しをもらえていなくて、俺はまだ髪を上げているし、燕尾服のままだ。
「はーい」
とりあえず返事をして、セシルの後についていく。
セシルは後ろを振り向くこともせずにずんずんと歩いて、離れからそのまま、外に出た。
緑に囲まれたそこは、小さな庭になっている。
塀があるから城の外に抜け出すことは出来ないが、空気を吸うには十分だ。
季節の花々が色とりどりに咲き誇り、簡易的なベンチもある。
これは、良いサボりスポットになりそうな気がする。
「カイル」
「なんすか、わっ」
名前を呼ばれて顔を上げると、不意に何かを投げられて、咄嗟に受け取る。
両手に持ったそれは、模造刀だった。
「――ええっ!?」
士官学校時代、訓練を受けていたことを思い出す。
もちろん、成績は、下の中だ。
同期のクリスは楽々にこなしていて、世の中は不公平っていうのを身を持って知ったのはあのときだ。
「俺の相手をするのも、世話係の仕事だろ」
「め、メイドにもさせてたんすか」
「まさか」
あ、よかった。
女の子相手にも容赦なかったらどうしようかと思った。
セシルの、均等に筋肉がついた身体が頭をよぎる。
メイド相手にはしていなくとも、毎日一人で鍛錬はしているのかもしれない。
「一般兵とは言え、国の兵だろ。気を抜くなよ」
「ええー」
俺の成績は下の中ですうー。
「期待しないでくださいねー」
「人形相手よりはよっぽどいい」
緑と花に埋まるように、訓練用の人形が立てかけてあるのが見えた。
随分、ボロボロになっている。
よっぽど、ひとりで王子サマの相手をしてきたようだ。
俺は小さく息を吐いて、両手で模造刀の柄を握り直す。
「お手柔らかにおなしゃす」
俺の真剣な懇願に、セシルは口端を上げるだけで答えやしない。
同じく模造刀を手にした王子サマは、そのまま、両腕を持ち上げて剣を振り上げた。
そもそも、毎日鍛えている王子サマと、毎日街をふらふらしていた一般兵と、比べちゃいけないんだって。
俺、燕尾服だし。めちゃくちゃ動きにくいし。
セシルの剣を受けて躱すだけで、すっかりボロボロだ。
髪も乱れているし、息も荒い。
「もー無理、無理です、王子強すぎ」
「おまえが弱すぎる」
ベンチに腰掛けて両手を上げて降参のポーズをすると、息を吐いたセシルが俺を見下ろして言った。
セシルのほうは、息ひとつ乱れていないし、汗だってかいていない。
かっ、格差社会……。
「カイル」
「はい」
「おまえの肩書、わかってるか」
「えっ」
「護衛兼、世話係だ」
「えっっ」
「この腕じゃ俺がおまえを守ることになるんじゃねえか」
「えーー」
世話係だけでも無理難題ばっかりなのに、この超強い王子サマを俺が守んなきゃいけないの!?!
「無理無理絶対無理ィ」
あ、声に出ちゃった。
セシルは思い切り眉を寄せて、模造刀の先っちょで俺の鼻を突いてきた。
「これから毎日稽古するぞ」
「えっ」
「俺が信頼できるぐらいには強くなれ」
「えーーー」
「うるせえな」
「せめて普通の服着させて!?」
今日の敗因の二割ぐらいは、この、動きにくいピシッとした燕尾服のせいだと思うんですよね!!
俺が言うと、セシルは大きな目を更に丸くした。
あっ、気付いてなかったです?
「そうか。わかった、用意させる」
「おねがいしまーす」
「乱れているのは悪くねえがな」
「セクハラやめて!?」
上げていた前髪が所々落ちてきている。
その一房を摘んで、セシルが笑った。
――この王子、実はよくしゃべるし、よく笑う。
ツンと澄まして黙って座っているお姫様の姿とは、やっぱりどこか、噛み合わない。
まあ、俺は、きれーなお姫様のほうが百倍いいけどお。
意外に稽古にやる気満々の横顔を見て、改めて思った。




