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藤森家

父が帰宅すると、藤森家はピンと張り詰めたような空気に変わった。

蹴斗と愛蘭は顔を合わせたくないので、部屋へと戻っていた。

「お帰りなさい」

父の荷物を預かろうと母が手を出したが、断られた。

「まだ、これから集まりがあるから、夕食を食べたらすぐに出かける」

「そうなの、忙しいわね」

母は、出した手を寂しそうに引っ込めると、気持ちを切り替えて夕食の準備を始めた。

「そうだ、桂木さん所の…、何か頼まれていたんだろ。今日はわざわざ、蓬介くんがお礼にと、手土産を持って挨拶に来てくれた」

荷物の中から、高級そうな包紙の菓子折を取り出して、食卓テーブルの上に置いた。

「あら、お礼なんて良かったのにね」

「さすがは桂木家だな。裕福なトレジャーは羨ましい。うちも肖りたいものだ」

食卓に夕食が並べられ、父は食べ始めた。

「蹴斗も、いつかはそうなって欲しいんだが、その為には勝ち続けないとな」

「そうね…」

母は何か言いたかったが、言葉を飲み込んだ。

2階から愛蘭が降りてきて、菓子折を見つけた。

「あっ、お菓子?」

「蓬介くんからもらった。後で、蹴斗と食べなさい。蹴斗は今もちゃんと、勉強しているんだろ」

「あっ、うん。そうそう」


父さんと顔を合わせたくないから、部屋に籠もっているなんて言えないけど。


「愛蘭、トレジャーの訓練は順調か?」

「うん。まあまあ、良い具合にやってるよ」

「そうか。蹴斗も訓練にそのくらいやる気があるといいんだがな」

「父さん…、あのさ」

父は夕食を食べ終えた。

「済まんな、もう出かけないとな」

荷物を肩に掛けると、すぐに玄関へと向かった。

「愛蘭。今度、話を聞いてやるからな」

「うん、ありがとう」


嘘つけ。そうやって、後から話を聞いてきたことなんてないだろ。ましてや、蹴斗には一方的じゃないか。


「いってらっしゃい」

「ああ、いってきます」

愛蘭と母は、父を送り出した。

外の足音が遠退くと、2階から蹴斗が降りてきた。

「父さん、行ったね。やっと気が抜ける」

「蹴斗に、過剰に期待しすぎなんだよな」

蹴斗は苛立った顔をしている。

「いい加減にして欲しいけどね。子供に過剰な期待を押しつけるのは…」

「ごめんね、蹴斗。お母さんがお父さんに上手く伝えられないから」

母が申し訳なさげに、蹴斗に謝った。

「仕方ないよ。あの人、俺らの話を聞こうなんて、これっぽっちも思ってないからね。ましてや、蹴斗の扱いなんて最悪ー!」

愛蘭が呆れた顔で首を振る。

母が強く言えないことを知っているので、蹴斗も首を振った。

「母さんのせいじゃないから」


父さんにとって、俺はどういう存在なんだろうか。


物覚えがついたころから、ずっと、この有様で、藤森家では、ごく普通の出来事だ。

「嫌になるね」

愛蘭が隣で苦笑いしながら、頷いている。

「親は選べないしさ」

「でも、あれでも父親なんだ」

ふと、蹴斗はひなたの父を思い出した。

「選べない分、桂木のお父さんを見習って欲しい」

「うーん、あのお父さんは出来過ぎてるよな。ひなちゃんが羨ましいよ。試しにさ、今度、こっそり爪の垢でも煎じて、父さんに飲まそうか」

「桂木のお父さんが引くからやめろ」

蹴斗と愛蘭の隣で、母が笑っている。

「蹴斗」

「何?母さん」

「お母さんね、ひなちゃんに会ってみたくなっちゃった」

蹴斗が焦った様子になっている。

「今度のバスケの試合の帰りに、ひなちゃんと家に寄ってくれない?そして、蹴斗がドレスを持って、お家まで送り届けてあげてよ」

「うーん。桂木が良いって言ってくれるかな?」

「とにかく、聞いてみてよ」

母は期待している様子だ。

蹴斗は90%以上断られるだろうと思い、全く乗り気でなかったが、母の願いを無下に断ることもできないので、渋々、電話をかけた。

電話は2コール目で、すぐに繋がった。


緊張しながら用件を伝えると、なんと、ひなたから「いいよー」と軽い感じで返事が返ってきた。

「やった…っ!」

母と愛蘭がニヤニヤして、蹴斗を見てきた。

「良かったわね」

「うん、桂木が来てくれるってさ」

「あー、ひなちゃんに早く会いたいわ。楽しみよ」

「俺も!早くひなちゃんに会いたいなー」

「何で、うちの家族まで、桂木を好きすぎるんだよ」

蹴斗は苦笑いしている。

「いいじゃんよー、嫌いとかマイナス言葉じゃないんだぜ。試合は明後日だったよな」

「うん。今回は桂木が助っ人で入るから、うちの女子は強いぞ」

愛蘭が青ざめた顔をしている。

「やばい、ひなちゃんって、そんなに強いの?うちの学校の女子を応援しないとだよな。でも、ひなちゃんには勝って欲しいし、応援したいんだよ。あー、どっちを応援したらいいんだ!!」

頭を抱え込み、本気で迷っている。

「はぁ…勝手にしろよ」

呆れた顔で愛蘭を見ているが、心の中では


桂木とバスケなんて、楽しみ過ぎる!!


と思っていた。


こんばんは、小桜です。今夜も読んでくださりありがとうございます。

次回の更新は明日の夜の予定です。

どうぞ、よろしくお願いします。

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