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 私は部屋に戻ることを諦めてカイン様の後を従者と共に歩く形で王宮の中庭へ入っていった。


 王宮の中庭の一角にはお茶が飲めるようなスペースがあり、私はカイン様に促されるように席に着く。


「あの、カイン様。つかぬことをお伺いしますが、カイン様はもしかして第三王子殿下なのでしょうか?」


 私は学院を卒業してからずっと薬師として働いてきたせいか国外の知識は投げ捨ててしまったので薬草以外薄らぼんやりしかない。


「ははっ。やはり知らなかったようだな。改めて自己紹介しよう。私はカイロニア国第三王子のカイン・カシューゲル。現在二十四歳。第二騎士団団長を務めている。これでも婚約者はいないがこの見た目、王族、騎士団団長だからご令嬢達からは大人気なんだ」


 私は殿下の説明を聞きながら従者が淹れてくれたお茶に口をつける。


 流石王宮で使われているお茶だわ。口に広がる芳醇な香りのお茶なのでしょう。そして従者のお茶を淹れるレベルも高いわ。


 私、従者さんとお知り合いになりたいわ。


 お茶に目を輝かせていると息を吐く音が聞こえてくる。


「私に本当に興味がないのだな。そんなに茶が美味しかったのか」

「私としたことが、申し訳ありません。これはカイロニア北部の寒い地域で採れる茶葉ですよね。とてもお茶の香りが素晴らしくてうっとりしてしまいました。それに従者さんのお茶を淹れるレベルが高くて驚いてしまいました」


「あははっ。合っている。君は本当に面白いな。私にこれっぽっちも興味を示さない。それにしても、君の所作は平民ではないな。何故かな?」


 ばれてしまった。まぁ、気にすることでもないわ。


「カイン殿下はサロニア国の第二王子であるディラン殿下をご存じですか?」

「あぁ、彼ならよく知っている」

「ディラン殿下の元婚約者、グリシーヌ侯爵令嬢は私の姉でした」


「君はあの傾国の美女と評判だったグリシーヌ嬢の妹か? こいつは面白い。それでどうして君が平民に?」


「まぁ、簡単に言えば、姉は婚約破棄され、私の婚約者と姉が婚約し、侯爵家の跡継ぎに変更されました。


 その後、新たに婚約者となった方は私の妹に惚れて婚約を交代することになり、私は修道院行きか後妻に嫁ぐしかなくなりましたので平民となることを選び、今は薬師として働いているのです」


「なるほど。普段から美男美女に囲まれた生活をしていたのか。納得した。で、トレニアは今いくつだ?」

「私ですか?二十歳です」


「二十歳で二度の婚約者交代とはな。男にも結婚にも興味がなくなる訳だ。そんなトレニアに私は興味が湧きっぱなしだが?」


 私はお茶を全て美味しく飲み干した。


 お代わりをしたいほど美味しいお茶だけれど、この場に長居はしない方が良さそう。


「残念ながら私は婚約者に二度も裏切られてこれっぽっちも婚約や結婚に、ひいては男性に興味がないのです。ですから、私はこれにて失礼しますね。カイン殿下、美味しいお茶やお声を掛けていただき、ありがとうございました」


 先ほど医務室でカイン殿下の見目麗しい顔が近づいた時に一瞬心臓が跳ねたような気もしたけれど、それは内緒にしておくわ。


 私はお礼を言ってそっと席を立とうとすると、カイン殿下は私の手を取り部屋まで送ってくれるという。


 他国の軍服に白衣を着た普通顔の平民の手を取りエスコートする王子。


 違和感がありすぎて怖い。


 部屋に着くまでの間、すれ違う人々の好奇の目に晒されて居た堪れなかったわ!


「殿下、エスコートありがとうございました」


 私はしっかりとお礼を言うと、彼は笑顔で聞いてきた。


「トレニア、帰国までの間、何か予定があるのか?」

「いえ、特にはありませんが王都観光や王宮薬草園を見学しようとは思っております」

「そうか! では王都観光は僕に任せて欲しい。一緒に過ごしたい。楽しみにしてくれ」


 カイン殿下は笑顔でそう告げると去って行ってしまった。


 部屋に入ってからローサにさっきまでの出来事を話して聞かせた。


「お嬢様は本当に罪作りな方ですね」


 ローサはニヤニヤしながらベッドに腰掛けている。


 そう、私達は客人という立場であるけれど、平民なので平民にしてはかなり良い宿屋くらいの部屋が用意されたの。ベッドもふたつ。


 私達にはそれでも充分なお部屋よ。ベッドでゴロゴロするとローサにすぐばれてしまうのが難点だけどね。


「そうだ。お嬢様にタイラー侯爵様からお礼のお手紙と髪飾りを頂きました。あと、王宮薬師の方がサロニア国の薬草の話を聞きたいと面会申請がありましたよ」


「ローサありがとう。せっかくカイロニアに来たのに予定が埋まり始めていてのんびり二人で観光は出来るのかしら」

「まぁ、国外の情報は入ってくるのに時間が掛かりますからね。情報交換も兼ねていると思えば仕方がありません」


「そうだ。先程、カイン殿下とお茶をした時に従者が淹れてくれたお茶はとても美味しかったの。彼の淹れるお茶をまた飲みたいわ。難しいかしら」

「私はお嬢様ほど予定はありませんし、私が教えて貰うというのはどうでしょうか? 従者の方に申請を出しておきますね。私が教えてもらえば良いかと思います」


「ローサありがとう! 申請が通ると良いわね。楽しみだわ」


 私達は部屋に運ばれてくる食事に舌鼓を打ちこの日は早めの就寝をする。

 私もローサも流石に長旅で疲れていたせいかベッドに入ってすぐに寝てしまったわ。



 翌日は朝食後に私は王宮薬師の仕事を見学しに行き、ローサは申請を出した後は自由時間となった。


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