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「カイロニア国使節団、出立!」
騎士の掛け声と共に使節団の馬車は軽やかに王都を出発した。私とローサは患者が乗っているひとつ後ろの馬車でのんびりと外を見ている。
私自身は前以て医務官から業務を引き継ぎ、患者の薬の処方や健康管理を任されているが、滞在中、症状はかなり落ち着いているらしく、過度な塩分を摂らなければ大丈夫だろうと医務官は言っていた。
後はこまめに身体を動かす事らしい。
私達は休憩毎に患者に身体を動かすように促した。ちゃんと話を聞いてくれて良かったわ。
問題が起こることなく時間は掛かったけれど、使節団の馬車は無事にカイロニア国の王都へ到着した。
馬車が通る道には沢山の人が溢れ、使節団は集まった人々にお帰りなさいと声援が送られている。人々の姿を見て安堵したのか使節団の人達はにこやかに手を振り、王宮へと入り到着式が行われた。人々は使節団の無事を喜んでいるようだ。
到着式後、私達は従者から呼ばれ、付いていく。
「トレニア嬢をお連れしました」
「はいれ」
従者に案内されたのは王宮の少人数用の会議室だったようだ。
そこには先程の到着式にいた国王陛下が座っていた。
「カイロニア国へようこそ。タイラー侯爵の為に礼を言う。一週間後にはサロニア国へ技術者交換が予定されている。その時に同乗し、帰国すると良いだろう。それまでは客人として王宮で過ごすと良い」
「カイロニアの太陽であらせられる国王陛下にお会いできたこと、恐悦至極に存じます。短期間の滞在を認めていただき感謝の念に堪えません。
タイラー侯爵の症状を医務官に伝え、引き継ぐことが私の職務です。帰国までの僅かな時間ではありますが、観光を目一杯楽しんで帰国させていただきたいと思っております」
私とローサはカイロニア国の陛下から有難い言葉を頂いた。
私の言葉を聞いた陛下はふむふむと頷き、『滞在中、困ったことがあれば宰相に言うように』と話された。
カイロニア国の王様から許可を貰ったわ。
一週間の間王都へ出て観光するのも楽しそう。私の頭の中は観光で夢中になってしまう。
私は笑顔で部屋を出た後、医務官にタイラー侯爵の治療記録を渡し、引き継ぎを行うために王宮の医務室へ従者に連れて行ってもらう。
ローサは一足先に部屋で休んでもらった。長旅の上、私のお世話で休む間もなかったからね。
「君がサロニアから来た薬師かい?」
「はい。私、サロニア国の薬師トレニアと申します。この度、ノーム医務官の指示でタイラー侯爵様のご帰国までの体調管理を仰せつかっていました。こちらがサロニアでのタイラー侯爵様の治療記録です」
私は医務室に入り、王宮医務官に患者の治療記録を渡して引き継ぎを行った。
王宮医務官の名前はマカラと言うらしい。マカラ医務官は私から引き継いだ資料を読んでいると、ガラリと扉が開く音が聞こえてきた。
「新しい医務官が来たのか?」
後ろから声を掛けられ、振り向くとそこにはスラリと背の高くとても美しい人が立っていた。いかにも上位貴族の装い。
私は礼を執り、挨拶をする。
「私、サロニア国薬師トレニアと申します。この度タイラー侯爵様の長旅の健康管理を行うため、カイロニア国に同行致しました」
「私の名前はカインだ。宜しく。トレニアは薬師なのか。何歳? 婚約者は居ないのか?」
矢継ぎ早に質問され、彼はにじり寄ってくる。
私は彼の勢いに押され、一歩ずつ後ろへと下がった。
見目麗しい顔が近くによってきたために起こった恐怖心や警戒心からくるものなのか、羞恥心からくるものなのかは分からないが心臓は小刻みに私の身体に訴えてくる。
「わ、私は平民ですので婚約者な、等は、いません。生涯、や、薬草に身を捧げる予定です」
気がつけば壁に追いやられ、壁に手を突かれている。
きょ、距離が近いわ。
助けてとばかりにマカラ医務官に視線を投げる。
「カイン様、彼女に興味をお示しになるのは良いですが、サロニア国マード公爵の有名な愛弟子です。気軽にお手付きに出来る娘では御座いませんよ」
な、何!?
女性を気軽にお手付きにするような人なの!?
私はマカラ医務官の方へ素早く移動し、壁際から離れた。
「そうか。君に興味が湧いた。私を見ても他の女達と違い、顔を赤らめたり、擦り寄って来ようとしたりしないのだからな」
なるほど、それが正解の行動だったのね。
嫌でもずっと美男美女に関わっていたせいか自然と避けてしまったわ。
「……そうでしたか。ご期待に沿えず申し訳ありません」
私は素直に謝るとカイン様は、声を上げて笑い始めた。これ以上関わるのは危険だと判断し、医務官に声を掛けた。
「では、マカラ医務官。引き継ぎも終わりましたので私はこれで失礼します。カイン様」
私は笑うカイン様を余所に用は終わった、と一礼をし、部屋を出ていこうとする。が、二の腕を掴まれた。力強く掴まれている訳ではないのに全く動けない。
……どうしよう。
「あの、カイン様。お手をお放し下さい」
「つれないな。トレニア、今から私と中庭でお茶をしようか」
マカラ医務官は呆れたように一つ息を吐きながらも私にカイン様とお茶を共にするようにお願いをされた。
拒否権は無さそう。




