60.ミュワーズ先生
俺達は北村達との話し合いを終えて、宿に帰ってきた。
「ゴウ。うちはツムギにミュワーズの話し方を叩き込むから」
「わかりました。食事とかってどうすれば…」
「時間になったら宿の従業員が運んでくれる。受け取るときに獣人の料理人が触れたかを確認してくれ。トシハルはミュワーズに言われて毎回聞いていたから」
「わ、わかりました」
「永田くん、ごめんね」
ドラレさんと岩佐先生はそう言って部屋に向かった。
入れ違いで【魔女の四重奏】の姿をした委員長と鈴原、それと霧崎がやってきた。
「霧崎、大丈夫なのか?」
「う、うん。永田くんなんだよね?」
「ん?そうだよ」
「最初2人の姿にも驚いたけど、藤井先生の姿で永田くんの声は違和感しかない」
霧崎は藤井先生の姿の俺に驚いていた。
「話は聞いてる?」
「一応…」
霧崎は不安そうにしている。
聞いた内容がややこしすぎて完全に理解は出来てないのだろう。
「今話してきた内容とかも共有する。俺も自分が理解しきれてない部分もあるから」
「うん。お願い」
「私も澪に伝えたけど、あんまり理解してなくて」
鈴原も途中まで気絶していたから理解しきれていないみたいだ。
「じゃあ広い部屋に行こうか」
「うん」
いつの間にか凪が隣にいた。
僕は4人と一緒に広めの部屋に移動した。
▽ ▽ ▽
4人に情報共有をしていると玄関の方から音が聞こえる。
「誰だろう?」
「扉が叩かれてる?」
「俺が見て来る」
俺は玄関に行き、扉を開けた。
そこには獣人の男性が立っていた。
「お、お客様。う、受付で手紙を預かりました」
獣人の男性は宿の従業員だろう、なぜかものすごく怯えていた。
「はい。受け取ります」
獣人の男性は震えた手で手紙を差し出した。
俺はそれを受け取る。
「で、では失礼いたします」
獣人の男性は震えながら消えていった。
その手紙を見るとゼネバース皇国のマークがついていた。
「接触してきたな」
俺は手紙をもって、ドラレさんの元へ向かった。
ドラレさんと岩佐先生が入った部屋にノックをする。
「誰?」
「永田です」
「ゴウか。入っていいよ」
部屋に入るとミュワーズの姿の岩佐先生が脚を机の上に乗っけていた。
「えっとこれは?」
「ミュワーズが時々やってた恰好かな」
「なるほど…」
ミュワーズの顔が赤くなっている。
岩佐先生には頑張ってもらいたい。
「それでどうしたの?」
「宿の受付から手紙を預かりました」
「ほー」
俺はドラレさんに手紙を渡す。
ドラレさんはすぐに封を開けて中身を確認した。
「チャルリからだ。今夜来るから宿にいるようにだってさ」
「接触してきましたね」
「予想通りだね…」
ドラレさんはそう言いながら何かを考えていた。
「どうしたんですか」
「ジルに来てもらうか考えてる。うーん。ナギのスキルがあるけど、下手にバレない方がいいだろうなー」
「ということは呼ばない」
「うん。魔獣騎士団が動く日付とどういう方法でこの街を破壊しようとしているかを聞き出すだけだから。ツムギが上手くやるよ」
「は、はい。頑張ります」
ミュワーズの顔は強張っていた。
▽ ▽ ▽
夜になった。
宿の扉が叩かれる。
「来たか」
ドラレさんが俺に目で合図を送る。
俺はすぐに玄関に向かった。
扉を開けると鎧を付けた男2人とガリガリの栗色ロングの女性がやってきた。
凄く幸の薄そうな顔をしている。
この女性がチャルリだろう。
「トシハルか…。ミュワーズはいる?」
「いらっしゃいますよ」
俺は出来るだけやらしい目線をチャルリに送るようにした。
するとついて来ている男性2人に睨まれた。
俺が案内した部屋にはミュワーズに変身中の岩佐先生とドラレさんがいる。
部屋にチャルリが入った瞬間、岩佐先生が口を開く。
「わざわざ手紙なんか寄越して、一体何の用なの?」
岩佐先生はイライラした素振りをしている。
これは練習通りだ。
「ミュワーズ。あなたがダンジョン攻略をするというからこちらは待っていたのよ?」
「はぁー。私のせいですか…。あなたじゃなくて兄様と直接話してもいいのよ?」
「……」
チャルリは表情を変えないようにしているが、口元が引き攣っていた。
「それはないじゃない。ミュワーズと私の中でしょ?それでダンジョンはどうするの?」
「もう飽きたわ。ダンジョンコアを破壊するよりあなたの作戦に乗った方が面白そう」
「あなたは作戦に関与しなくてもいいわ」
「私がペタロドに来た勇者を始末したのに作戦に関わるなですって?」
岩佐先生がそういうとチャルリは驚いていた。
「勇者を殺したの?」
「ええ。そうよね、ドラレ」
「そうだよ。勇者6人をダンジョン内で殺したし、見張りの兵士も殺しておいた」
「そ、そう」
チャルリは何かを考えているみたいだ。
「わかったわ。ミュワーズにも手伝ってもらうわ」
「そうよね?兄様のモンスターも無駄にしちゃったんでしょ?戦力は必要よね」
チャルリの口元が再び引き攣った。
チャルリはレムチャという街の襲撃を失敗している。
しかもミュワーズの兄からモンスターを借りていたらしいが、襲撃で失敗して失ったらしい。
ドラレさんが前の会話で覚えていた内容がこんなに聞くとは思っていなかった。
「それで作戦は?」
「予定通りよ。明々後日の昼に私のテイムモンスター達とうちの騎士達でこの街を襲撃する」
「テイムモンスターは大丈夫なの?かなり数が減ったんじゃない?」
「…あなた達が気にしなくていいわ。上位種はいないけど数はいるから」
チャルリは痛い所を疲れているみたいだ。
顔が引き攣るからわかりやすい。
「私達には何してほしい?暇だから何でもしてあげるわよ」
「…なら、街の中で暴獣と【天啓の導き】を押さえておいて」
聞きなれた2つの言葉に俺は表情が崩れそうになった。
暴獣はジルさんの二つ名。
【天啓の導き】は北村のパーティ名。
「暴獣はわかるけど、その【天啓の導き】っていうのは強いわけ?」
「わかんないのよ。聞いたことのない新人パーティのくせに、私達の計画を2つも潰したのよ」
「あなた達の計画が粗末だったんでしょ?今回は大丈夫よ。私達がそいつらを殺しておくわ」
「…よろしく頼むわ」
チャルリも岩佐先生の煽りに限界が来ているのか、目の横が何度もピクピク動いていた。
「用が済んだのなら帰ってくれる?この後トシハルと楽しまなきゃいけないの」
「…帰りますよ。楽しみすぎて、明々後日の件を忘れないように」
チャルリが仕返しのように言い返すが、岩佐先生は無言で目を合わせずにあっち行けと手を振って伝えていた。
それを見たチャルリの表情は鬼のようになっていた。
チャルリと連れの2人が宿から出て行った。
「ふー。だ、だ、大丈夫でしたか?」
「凄いよ。ミュワーズじゃないことを一瞬忘れるくらい完璧だったよ。ねえ?」
「そうですね。ミュワーズ先生があんな性格の悪い煽りをするなんて…」
「永田くん!やめてー!ミュワーズ先生って呼ばないで。なりきってただけだから」
岩佐先生はミュワーズの真似は完璧だった。
「明日の朝にでも作戦の内容を北村に伝えるように凪に頼みますか?」
「お願いできる?あーうちが会いに行きたいけど、さすがにダメだよなー」
「ダメですね。ジルさんと北村のパーティは目の敵にされてるみたいですし」
「うちが手紙を書くから、それをナギに運んでもらおうかな」
「わかりました」
とりあえず第1関門は突破出来た。




