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もしかして:誘ったことがない

 52話、美優視点です。

「クリスマス、かぁ…」


 放課後の教室に、呟いたあたしの声が響く。

 誰にも言葉が拾われなかったのは、年内最後の委員会があるからだろう。数刻前とは打って変わって、人の気配も消えた教室内。…だからこそ、わざわざ声に出したんだけどさ。


 クリスマスは誰と過ごすか、ね。西条さんが聞いた内容を頭の中で反芻して、改めて現状をまとめてみる。


 よくよく考えてみれば、去年まではこうして、誰と過ごすかーなんて考えたこともなかったのよね。なんだかんだ、毎年幼馴染3人、誰かの部屋に集まって、貰ったプレゼントで遊んだり、いつも通りに駄弁ったりしてただけだし。…そりゃ、優陽のことを意識しだしてからは、ちょっとテンション上がったりしてたけどさ。


 だからこそ、西条さんから誘いを受けて、ハッとしたんだと思う。あたしは、優陽を誘ったことがないんだって。よく考えてみればそもそも、今年は去年までと違って予定のすり合わせみたいなのはしてないし、あたし達の内輪でクリスマスの話題の一切を出してすらなかったという事実。…思い当たる原因があるとすれば、文化祭後のあの妙な距離感が影響してるような気もするけどさ。

 今までなら、ただ漠然と3人一緒、なんて思ってたけど…来年は受験生であるわけだし、確実に時間を取れる保証も無いのよね。そう考えが至ると、それこそ今年を逃してはいけない気がするし。


「──って、どう誘えばいいのよ」


 誘わなきゃいけないことまで結論が出て、また新しい問題が浮上する。未冬はともかく、優陽を誘う?それって、なんかやまし──じゃなくて、小学生の頃ならともかく、とんでもないハードルなのでは…?

 思い立ったら吉日、なんてスマホを立ち上げたはいいものの、動かそうとした指が止まってしまう。優陽にあたしが考えて言葉を送るとか、よくよく考えたらやったこともなかったのだ。今までもなんだかんだ、未冬にサポートしてもらっていたし。


 …大丈夫、落ち着けあたし。こういう時こそ、逆転の発想よ。未冬に頼らなくても、もうあたしは大丈夫だって、今から証明すればいいのよ。


 誰に対する宣言でもない、自分への免罪符じみた言葉。それから、2人にメッセージを送ることができたのは、すべての活動活動終わり、完全下校を知らせるチャイムがなる頃だった。



ーーー



『あー…なるほど、それであんなに堅苦しい文言だったんだ』


 お風呂上がりの自室内、スピーカーモードにしたスマホから、未冬の声が響いては消える。

 あの後、委員会後の優陽、未冬と合流して、いつものように帰宅したあたし達は、特にその話題に(クリスマスについて)触れることも無く、各々別れては時間が過ぎた。…そう、過ぎ去ってしまったわけで。

 思い立ったら吉日というか、家に帰ってから、しばらくの葛藤の末に送った、クリスマスを誘うメッセージ。優陽ではなく、未冬に送っていたことに気付いたのは、こうして彼女が電話をかけてきてからだった。


 未冬の言葉を聞き流して、全身が熱くなる錯覚を覚える。きっと、というか確実に、この火照りは、お風呂上がりだから、なんて理由ではないことはあたし自身わかっているのよね。…だからこそ、穴があったら入りたいというべきか。とにかく恥ずかしくて死にたい。


「はぁ…なんで、よりによって…」

『よりによってってなによー聞こえてるぞーミユちゃん?』


 スピーカー越しに聞こえる抗議の声を無視して、無造作に取った枕を、胸の中で抱き抱える。


 …落ち着けあたし。逆に考えるのよあたし。

 そもそも今回は、あたしが優陽に送るって前提で進んだからうまく行かなかったわけであって、今までそれでもうまくいってたじゃない。そして、その成功例を見れば、未冬がアドバイスやサポートをしてくれた恩威は確かにあったはず。…つまり、今こうして未冬と話せているなら、うまくいくのも必然のような気もする。うん、そんな気がしてきた。


「ねぇ未冬」

『なぁにー?』


 変に勘ぐられず、自然に誘うならどうしたらいいと思う?

 ときすでに遅し。思考が漏れ、ついて出てしまった言葉。完全に悪魔の誘惑だ。やったところであたしが何か踏み出した訳ではないじゃない、と。ハッと正気に戻って、あたしが訂正しようとした刹那。スピーカー越しでもわかる、確実にキラキラした笑顔を浮かべているだろう未冬の声が、再びスピーカーから部屋の空気を振動させる。


『こういうときこそグループ機能を使おうよミユちゃん!私もそれっぽく反応するし、そうしたら優陽にって緊張しなくて済むでしょ?』

「それは…たしかに」


 それに、日付と集合場所をすり合わせるだけで済む、と。彼女がそう付け加えて、しばしの沈黙。

 一利あるというか、最早感心せざるを得ない良案。結局頼ってしまっているけど、なんて自問を、でも協力者だから、と塗り消して。改めて、自分の送った堅苦しい文言を見返したあたしが、折れてメッセージを送ったのは、これから1時間ほど経ってからのことだった。






㍆㌋㌉㌏㌉㌸㌾㌋㌞㌹㌅















 あ、次回は優陽視点です。

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