9話 キャラエピ 柏木莉音の生徒会相談②
突如掛かってきた電話の相手は、生徒会副会長『星野梓』。現時点で不登校の副会長である。
「もしもし? どしたの?」
拓斗に梓について話をしていたら、タイミング良く梓から電話が掛かってきた。そして、梓の第一声は―――
「もしもし莉音? あのさ、金貸してくんね?」
だった。
その言葉を聞いた瞬間、莉音は通話終了ボタンをタップした。
「…間違い電話だったっ!」
「んなわけないでしょ! さっき堂々と「あ〜副会長さんですかぁ」って言ってましたよ?!」
バレバレの否定をし、拓斗からの反論が来ても、動じることなく「ちゃう。新手の詐欺だった」と意地を張る莉音。
彼女の心情は、変わってしまった副会長を思い、悲しみの渦に囚われていた。
「梓も変わっちゃったな…時代の流れは恐ろしいもんだよ…」
「なに急に悲観に浸ってるんですか。アホなんですか?」
拓斗の容赦ない罵倒に心がえぐられながらも、再び梓にかけ直す莉音。
今度は拓斗からの要望でスピーカーで通話をする。
「……莉音! なんで切るんだよ!」
「なんでって。あんたが変わっちゃったからだよ…おねーさん悲しいよぉ…」
「いつからアンタは私の姉になったんだよ!」
「すげぇ…先輩のボケに対して完璧にツッコミ入れてる」とよく分からないところで関心する拓斗。
後日これを参考にして澪にツッコミを入れたら、ぶっ飛ばされたのだが、それはまた別の話。
ひとまず拓斗は、莉音に小声で指示を出す。
「(先輩。とりあえずなんでお金が欲しいのか聞いてみてください)」
「(わ、わかった!)」
「梓〜? なんでお金が欲しいの?」
「は? 金がないからじゃん。富豪なのに金借りるかよ」
「「(ド正論…)」」
「や、ヤベぇこの人『正論ぶちかますマン』だ…口調は悪いのに正論言ってくるとか…怖っわ」と拓斗は少し震えている。なんともアホな感想だが、その辺は愛嬌だ。
「そ、そりゃあそうなんだけど…じゃあお金貸したとしたら何するの?」
「え? まあ…パチンコ? かな?」
「「犯罪だァ!」」
「?! うるせぇ! ってお前男と一緒にいるのかよ!」
『家賃の返納』とか『家族の病院代』とか、お涙頂戴系の返事を期待していた拓斗は、思わず声を上げてしまった。
莉音も同じで、さすがに『パチンコ』が出てくるのは想像出来ず、拓斗と同じように声を上げてしまった。
梓の言葉など関係なしに、話を進める二人。
「うっせぇ! 関係ないわ! 犯罪者予備軍に言われたくねぇよ!」
「先輩! 予備軍じゃなくて本軍です!」
「そっか! 逮捕だ逮捕!」
「そっちで盛り上がんな! しかもなんだ予備軍って! お前ら誤解してるだろ!」
「「…は?」」
「誤解も何も、ガッツリ犯罪ですよね?」「はい。逮捕…指導だった気がします」と梓の反論も聞かずに、盛り上がる拓斗と莉音。流石に梓が声を上げ、反論する。
「はぁ…そもそも私が無断で学校サボってるって思ってるだろ? 違うからな。てゆうかその男誰だし」
梓が不登校な理由は、家族の用事で海外に居たから。金が欲しかった理由は、梓の十歳下の妹の誕生日プレゼントに『ア○パンマン』のおもちゃのパチンコが欲しいとせがまれたから。決して本当のパチンコをやろうとしていたわけでない。ただの妹思いなだけだった。
「なぁ〜んだ。つまんないの」
「別に面白くするつもりで言ったわけじゃねぇよ…」
「まあいいや。アンタはいつ学校来るの?」
「あ〜予定がまだあって明後日だな。澪は元気か?」
「元気も何も覚醒してるよ。ね?」
「やめてください。俺に聞かないで…」
莉音からのフリに反応したくない拓斗。梓には既に拓斗と澪の関係を伝えてある。
伝えた時に音割れするぐらい笑われたのだが、そこは置いておく。
「ま、頑張れよ後輩。明後日会えるはずだからな。妄想しながら待っとけ」
「いや、俺は萌葉以外で妄想しないんで」
「そ、そうか。じ、じゃあな」
結局、明後日に莉音が少し寄付をすることで合意し、梓の微妙な反応を残し通話は終了した。
「…梓先輩ってどんな人なんですか?」
「う〜ん…『田舎ヤンキー』?」
「なるほど。超わかりやすいですね」
とてもわかりやすい例を出され、拓斗と莉音はゆっくりお茶を飲む。そして一息つくと、拓斗は莉音にまたも質問する。
「他の先輩はどうなんですか?」
「あ〜…『会計』清水 葵は『変態』。『風紀』神谷穂乃果は『女の敵』って感じ」
「なるほど。俺、生徒会辞めたいです」
言葉だけでわかるカオスなメンバー。『絶対王政』に『サンドバック』『女王』『お姫様』『ヤンキー(田舎)』『変態』『女性の敵』。これをカオスと言わずしてなんという。
「まあまあ、みんないい人だから」
「どこが! 生徒会長がいちばんやべぇっすよ!」
「…それに関しては激しく同意」
拓斗はつくづく思っていた。「なんで俺こんな人達と一緒にいるんだろう」と。
「あ…忘れてた」
莉音が思い出したのか、ボソッと呟きながらスマホを取りだし、メッセージを打つ。
莉音の超早い文字入力を見て、拓斗は―――
「…メールですか?」
「そんな感じ。今日の中止のメールね」
「……ほえ?」
莉音の言葉が斜め上から拓斗に突き刺さる。
「今日の中止のメール」その言葉の意味が理解できなかった。
「中止って…相談のことですか?! ダメですよ! 校長にバレたらどうするんです!」
「大丈夫大丈夫。中止にするんじゃないよ。必然的にやらせないから」
「……え?」
「だから、人が来なかったらいいんだよ」
莉音が言ったのは、それは実現出来たらいいけど、ほぼ実現不可能なこと。いくら金持ちといえど生徒全員を掌握するのは無理だろう。
と思っているのは拓斗だけで、実際は―――
「私を誰だと思ってるの? 全校生徒の3分の2.9が参加しているグループの創設者だよ? この学校は私の思う通りなのだ〜」
「……は?」
笑顔でとんでもないことを言い出す莉音。『3分の2.9』なんて聞いたことないワードすぎる。ならもう全員でいい。
澪にも負けず劣らずの権力を見せつけられる拓斗。帰りたい気持ちはピークを迎えていた。
「そんな私が『今日は来ないでね♡』ってメッセ打ったらどうなると思う?」
「……みんな死にます」
「ぶー! 不正解! どんな考えしとるんだ君は」
現実逃避を超えた現実逃避をし、考えがバグってしまった。頭のおかしいことが何連続で起きている。理解など到底不可能だ。
ツイツイとメッセージを打つ莉音。そして、スマホの電源を切ると―――
「よし! 帰ろっか!」
「はい。俺もう来たくないです」
その日から拓斗は莉音に反抗的な態度をとるのは辞めたという。
あれ………相談ってなんだっけ……