18話 青春ラブコメなんて存在しねぇ
「え〜今から! 〝生徒会女子メンバーによる被害者の会〟の第一回目の会議を行います!」
「「…お〜」」
プロジェクターの前で仁王立ちするのは、〝生徒会女子メンバーによる被害者の会〟会長の楓。ソファーに腰掛けているのが、会員の拓斗と黒江。
ここは楓の家。いつもやられっぱなしの残念男達が、馬鹿な事を会議する日である!
「ってことでね、拓斗が生徒会に入ってから一週間? 二週間? ぐらい経ちました!」
「マジか。そんなしか経ってないか。俺的には三ヶ月以上経ってる気がするんだけど…気の所為かな」
気の所為である。
「んで、黒江が莉音先輩の奴隷になってから、丁度今日で…三年? になると」
「そうだね。地獄の日々も今日で四年目だよ。案外早いものだね」
一人で勝手に感動している黒江は無視して、楓はプロジェクターの画面をリモコン操作で切替える。
画面に生徒会女子メンバーの顔写真が映し出された。
「盗撮だね」「盗撮だな。間違いなく日常風景っぽいもん」
「違ぇよ!」
映し出された写真は、日常を切り取った写真が多かった。笑っている澪や、黙々と仕事をする梓、先輩をたぶらかしている彩那、少し時代遅れ感のあるタピオカチャレンジをしている葵、校庭の日陰で寝ている穂乃果。
拓斗は携帯で電話番号を打ち込み、黒江は楓を確保しようと息巻いている。
「待て待て! マジで違うんだって!」
「情状酌量の余地無し!」
「俺が取ったんじゃない! 校長だよ! 山崎蒼一郎! アイツ!」
楓の言う校長…山崎蒼一郎とは、楓達が通う上大木高校の校長先生の事。普段から一眼レフカメラを持ち歩いて、「生徒達の写真を取るのが生き甲斐なんです」とかほざいてる校長のこと。
本心は「へっへっへっ、これで女の子達のあんな写真やこんな写真を…グヘッ」と思っている。蒼一郎は写真の売買も行っており、楓はそこから写真を仕入れたという訳だ。
「「流石に無理がある」」
「……ですよね」
……ですよね。
本当は生徒思いの優しい校長で、盗撮などしていない。はず。
「本当はウェブから引っ張ってきた。ってもTwitterとかインスタとかな。知り合いの人辿りまくって探し出した」
「おいおい、うちのお嬢様はこの国で一二を争う有名企業のご令嬢なんですけど? ガッツリ盗撮されてるやんけ」
その時、楓と拓斗は「本当に大丈夫なの?」と心の底から不安になった。知り合いが誘拐とかされたらたまったもんじゃないし。
「…ゴホン、それでだ。いい加減本題に入ろうぜ」
「お前が事の発端だがな」
「女子メンバーに待遇改善を求める為にどうすればいいかでしょ? そんなん真面目に働けばいいんだよ」
「……えっと、会議終了…かな」
黒江に正論ブッパされて、楓のメンタルはズタボロに。シンプルかつ的確な一言。莉音で鍛え上げられた論破力は凄まじい。
「…弱っ」
「だってしゃあないやろ! だって確かにそうだもん! 俺と拓斗は真面目に仕事すりゃあいいし、黒江は漫画書いとけばいい。論破されちゃったもん!」
「俺漫画家じゃねぇからな?」
あーだこーだ揉める事三分。くだらなくなってきたから、会議を早々に終わらせ、あるゲームをしながら話す事に。それは……
「王様ゲーム」
「男子だけでやっちゃいけないゲームランキング第一位のやつじゃねぇか!」
楓の言った〝王様ゲーム〟は、絶対に男子だけでやっちゃいけないゲーム。女子が居てこそ成立するゲームなのに、楓はやろうとしている。しかも男子三人だ。絶対つまらない。
「王様ゲームってのは男女比4:6でやるから楽しいんだよ。何が悲しくて10:0で王様ゲームやらなきゃいけねぇんだ」
「…俺的にはあつ森やりたい」
「積極性の欠片も無い奴らだなぁ! おい!」
なんだかんだでやることに。
「…あ、俺王様」
「…俺貧民。絶対危ないことしてくるやん」
一番初めの王様は黒江。言うことを聞くのは楓だ。数秒考えた後、楓に……
「そうだね。彩那に電話で凸ってよ」
「お前マジで言ってんのか?」
サーっと顔が青ざめていく楓。一気に病人みたいな顔色になる。ただ、その横で拓斗は腹を抱えてゲラゲラ笑っている。
「黒江ナイス!」
「だろ? 楓が一番嫌がる事を選んだ。俺天才かも?」
「…お前らは俺に死ねと言っているのか…」
二人はそれを聞いて更にニコニコが増した。言い出しっぺだから、「やっぱそういうのなし」とは言いずらい立場の楓。黒江もなかなかいい性格をしている。
楓は覚悟を決めて澪に電話をかける。己の命が危ぶまれる覚悟を決めて。
『……もしもし。どしたの楓』
「あぁ…いや、えっと…」
「やべぇ。特に話すこともねぇ」と困惑する楓の視界に、黒江と拓斗が書いたカンペボードが目に入る。「助かった!」と目を輝かせる楓だが、一瞬でその目の輝きは失われる。
二人の書いたカンペボードには『楓:実は…彩那の声が聞きたくて!』と書いてあった。ついでに『彩那:……ぶち殺すぞ?』とも書いてあった。
その彩那のセリフのカンペを見て震え上がる。全身鳥肌が立ち、クラクラと死にそうになる。
流石に罪悪感を感じた二人が、楓から携帯を取り上げ、代わりに話し始める。
「もしもし彩那?」「もしも〜し」
『?! 拓斗と…黒江くん?! 何してんの?』
「いや…実はある罰ゲームでな。本当に申し訳ないと思ってま〜す」
『……なんだ。用がないのに電話かけんなって。……因みにどんなゲームの罰ゲーム?』
「「王様ゲーム」」
『……は? そこは地獄か?』
彩那に死ぬほど謝罪して、電話を切った。顔面蒼白の楓に「もう大丈夫だから」と言ってやる。プルプルと震えた楓は、死にそうな声で……
「この前の同人漫画の出来事から彩那がなんか優しいんだよ…怖ぇ…」
「「……え?」」
「だってさ! いつもの彩那なら電話に出ないor怒るだろ? でも、この前殴られた時もあんま痛くなかったんだよ! これっておかしいだろ?! もしかして彩那病気なのかなぁ?!」
「…お前はMなのか? Mなんだな?」
相当気持ちの悪いことを言っているが、自覚していない楓。「楓も彩那もとんでもないな」と二人は思う。
その後、雑談しながら王様ゲームを続ける。命令で、拓斗が澪に電話したり、楓がゲームデータ削除させられたり、黒江が莉音の書いてる漫画のことをネタバレしたり。なんだかんだで盛り上がった。
「そういえばさ、研修旅行ってどこ行くの?」
「唐突だな。俺ら生徒会が全部知ってると思ったら大間違いだからな。俺と拓斗は何も知らない。情報漏洩の可能性があるからって」
「(コイツらの信用皆無かよ…)」
黒江が、今週末に迫った一年の研修旅行…遠足的な行事の事を聞いた。なんでも、行く場所とやる事は毎年違うらしく、知っているのは生徒会長の澪と、その相棒の彩那、校長のみらしい。
「ってことで、俺らも知らんのだよ。場所決めるのも三人で話し合うって言ってたからな」
「ふ〜ん…先生の存在価値皆無だな」
「でもしょうがないだろ。全国模試一位、百五十年続くこの学校でたった五人しかいない一年生徒会長、人望もあるし、金持ちでもある。そんな完璧超人のアイツと比べたら先生なんてモブ同然だろ」
「(…んじゃあ、そんな完璧超人と一緒に生徒会やってるお前らも、随分凄いってことになるよな)」
黒江の尊敬の念がこもった眼差しを受けた二人は、どこか照れながらも、気を紛らわす為に話のタネを探る。そして、「そういえば…」と楓が話始める。
「そういや、黒江と拓斗って仲良かったっけ? 面識あったのか?」
「いや? 黒江とはこの前初めて会ったよ。んで、あの時に――」
「拓斗ォ! それは言っちゃいけない。マジで!」
必死になる黒江。拓斗はどこか楽しそうな表情をして、「どうしようかな〜」と言いまくっている。
自分が質問したはずなのに、一人蚊帳の外な楓は……
「あつ森やろ。データ消されたし」
一人、無人島を開拓し始めた。
「はぁ……なんで高校生なのに男子だけで遊ばなきゃいけねぇんだ。ラブコメプリーズ〜」
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楓が無人島で一生懸命木を伐採してる頃、学校では……
「いや〜悪いね。休日なのに呼び出して」
「大丈夫です。さ、早速始めましょう」
校長室に、澪と彩那、校長の蒼一郎が話し合いを始めていた。
「今回の研修旅行の行先は……」




