14話 モテたいと願い続けた女の話
急にラブコメの『ラブ』が覚醒しだします。
「…! 彩那!」
「…やほ。どしたの急に。買い物なんて…」
「あ〜…。いや、ちょっとプレゼントを買わなきゃなんだけど…俺センス無いじゃん? 何買っていいのか…。そこで…お願いしたくて…」
「楓らしからぬ英断だね。誰にあげんの?」
「あ、クラスの男子と女子に。クラスの仲良いヤツらで罰ゲーム付きでゲームやった結果、俺が負けた。で、罰ゲームが『センス溢れて、かつ実用的なプレゼント』って事」
「なかなか鬼畜な罰ゲームだね…。まあ…行くか」
「おう」
今日は日曜日。場所は大型ショッピングモール。そして男女が二人。しかもその二人は楓と彩那。そうつまり!―――
「(何となく誘っちゃったけど…!)」
「(何となくOKしちゃったけど…!)」
「「(これデートじゃね?!)」」
サンドバッグとお姫様のデート(ショッピング)が始まる!
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時間は少し戻り、澪宅。パジャマパーティーのその後だ。
「あ、なんかメッセージ来てるよ彩那」
「え、マジ? まあ多分お母さんか圭(同級生)辺りっしょ」
澪の家で散々暴れた後、帰る準備をしていた彩那に澪がメッセージが来ていることを伝える。ちゃんと「勝手にスマホ覗くな」と突っ込んでおいで。
「えっと……え、嘘でしょ?」
「ん? どした?」
「いや……楓から「明日暇?」と…」
「「なんだとぉぉ?!」」
澪だけでなく、葵、莉音、そして梓も驚く。「タイミング良さすぎでは?」と。
「ねぇ! 勿論「空いてるよ」だよね?!」
「ちょっと待て葵! 先ずは「何するの」でしょ!」
「あず! そんな事言ってる余裕ないよ! 乙女には素早い決断力と判断力が必要なの! 故に返事は「OK」そしてそれは今!」
「先輩方落ち着いて! 梓先輩は『田舎ヤンキー』キャラ守ってください!」
「……彩那? 今なんて――」
「皆静かにっ!」
「「?!」」
夜の時とさほど変わらないテンションで暴れまくる二年メンバー。その姿からは先輩としての威厳は微塵も感じられなかった。三人にあるのは純粋な乙女心だけ。まあそれも純粋かどうかは分からないが。
「ここは「なんで?」が正解だと思う。彩那のキャラ上、楓の誘いに易々と乗ってしまうと「あれ? 彩那が優しい…。もしかして! 彩那は俺の事が好きなのか?!」みたいな事が、馬鹿な楓に起きかねないから!」
「え、私ってそんな安っぽいキャラなの?」
「……ま、まあ、とりあえず返信したら? 明日は暇なんでしょ?」
「まあ…はい。じゃ、「なんで?」と……」
五分に及ぶ世界一バカな会議は「なんで?」と返信することで終わりを迎えた。誰かが特した訳でも損した訳でもない。ただ無意味に時間が過ぎていっただけ。それ以上でも以下でもない。
彩那が返信してから数分後。楓から返信が来た。
「…?!」
「ん! 返ってきたか! なんだって?!」
場所は変わり、澪の家からの帰り道。家の方向が一緒の葵と梓の三人の時に楓から返信が来た。因みに莉音はご自慢のリムジンで帰っていきました。
彩那は口を大きく開けたまま、スマホの画面を葵達に見せる。そこには―――
「……買い物?!」
楓からは「明日暇なら速見市に新しく出来たショッピングモール行かね?」と返信があった。
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そして今。彩那と楓ではショピングデートを楽しんでいた。いや、本当に楽しんでいた。
「ねえ、男の子のプレゼントってホントにぬいぐるみでいいの? しかもカワイイ系の」
「あぁ。渡す奴は普段クールぶってんだけど、実はラブコメとか恋愛小説好きな恋愛脳男子なんだよ。このぬいぐるみもそのアニメのキャラ。まあ、喜ぶんじゃね? 安かったのはラッキー」
モールに入ってから二十分。男子への買い物はあっさり終了した。モフモフの体にウサミミ。マルっとしたちっちゃいしっぽに、クリクリとした目。いかにも二次元に出てきそうなキャラのぬいぐるみだった。
「さて。次は女子のなんだが……彩那。頼んます」
「ハイハイ…。じゃあその女の子の特徴教えて?」
「え、あぁ…えっと……」
サクサク買いに行くと思っていたので、彩那からの質問に驚く楓。少し考えると、少しだけ頬を赤らめながら話し始める。
「えっと、そいつはいつも真面目で、皆の前では優等生なんだよ。話も面白いし、何より明るい。結構誰とでも話せて……少し暴力的かも」
「…ほう。他は? もっと具体的な」
「具体的? あ〜…。俺にも優しくて、でも時に厳しい。結構理不尽な時あるけど、俺の思ってる以上にそいつは頑張ってると思うんだよね。勉強とか趣味とかだけじゃなくて、色んなこと全部を」
「……なんで私の目をそんな真剣に見つめながら言うの…。私のこと話してないっしょ?」
「?! いや、だって彩那が聞いたから!」
自然と彩那の目を見て話していた楓。本人に自覚がなかったようだが、彩那としては結構恥ずかった。わざわざ目を離す訳にもいかず、周りのおばさん達からは「青春ねぇ」とか「アオハルよ!」とか好き勝手言われている。
まあ彩那はハッキリ否定できないのだが。
そして、楓の言葉を聞いて、彩那の胸がズキっと傷んだ。その理由はこの時の彩那にはハッキリとは分からなかった。只今は楓との買い物を楽しもう。その一心でいっぱいだった。いや、無理やりそう考えた。
「まあいいや。とりま行くよ。女子には適当な日用雑貨送っとけば間違いないから」
「そんなもんかよ……」
そう言って二人は日用雑貨店に向かう。そして、二人が居なくなった場所の後方には―――
「……こちら澪。二人は日用雑貨店に移動すると思われます。どうぞ」
制服に黒いサングラス姿の怪しい女子が一人ベンチに座っていた。
そして、日用雑貨店がある一階南入口付近には―――
「……こちら葵。了解です」
「なあお前ら。恥ずくねぇのか? 高校生になってまでこんなことして。しかもゴリゴリに電話じゃねぇか。無線でもなんでもねぇだろ」
「あ〜。あずにはまだわかんないか〜」
「なんかウザっ。ドヤ顔やめろ。私は付き合ってあげてんの。アンタ達がやらかさない様に監視役」
またも制服にサングラス姿の女子と、制服だけの女子二人がいた。さりげなくベンチに座っているが…不審者感が否めない。
「あの〜すいません」
「! はい?」
二人の女――葵と梓の前に―――
「君達何歳?」
「……あ……えっとぉ……」
本職の警察官が現れた。
その後、合流した澪と警察に「悪ふざけなんですっ!」と謝罪し、「この子達は高校生になってまで小学生みたいな事を…。今どき小学生でもやらんぞ?」と言われたのは三人の中に深く刻まれている。結構恥ずかしい黒歴史として。
そしてその間に楓と彩那が店舗に入って行ったのは言うまでもない。
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「へぇ…。こんなに物あるんだな」
「今どきのお店なめないの。安価で性能のいいのいっぱいあるんだから」
「いやっ、俺入ったことねぇし」
「え?! じゃあノートとか文房具どこで買ってんの?!」
「百均」
「嘘……百均にそんなもの売ってるはずが……!」
「お前は百均をなんだと思ってんだ!」
なんて会話しながらもどんどん物色していく二人。二人の姿は、遠くから見たら完全にカップルだった。
「楓こっち。こうゆうのは――?!」
いい感じの商品を見つけ、楓を呼ぶ彩那。けれど、段差に気が付かず、足を踏み外してしまう。しかも彩那はヒール。バランスを崩して転びそうになるが―――
「ッ! 大丈夫か彩那」
「…う、うん…」
咄嗟に楓が駆けつけ、彩那を支えた。結果的に転ばなかったが―――
「……!」
「うおっ?!」
彩那は楓を突き飛ばし、頬を赤らめながら少し距離をとる。楓が触っていたのは彩那の腕と手。彩那は全身のスタイルが良いのだが…二の腕とか、そういう問題ではない。普通に乙女として。いきなりガッツかれたら困る。だって彩那は乙女だから。
予期せぬ出来事に慌てて、楓に対して少し強く当たってしまう。直ぐに我に返り、慌てた顔で謝る。
「ご、ごめん楓! 助けて貰ったのに……」
「やらかしてしまった。いくら楓でも怒るな」と彩那は流石に思う。けれど楓は―――
「いや、気にすんなって。でもアレだな。お前が謝るところ…小学生ぶりだな」
「……は? ボコされたいの楓?」
「んな訳あるか。葵先輩じゃあるまいし」
本来は楓が怒るべきなのに、ニヤニヤと笑っている。何一つ変わらない、いつも通りの楓だった。
恐らく、自分が本来怒るべきポイントなのを理解していない可能性の方が大きい。
「…ほら、行くぞ」
そう言って彩那に向けて手を伸ばす楓。彩那はそれを見て―――
「…私は子供か何かですかぁ?」
超険悪ムードを出すが、楓は―――
「…ヒール。慣れてないんだろ? いいから。気づかなかった俺が悪い。ほら」
「…!」
彩那がよろけた原因を一瞬で察し、しかも彩那がよろけた原因は自分のせいだと言う。
「(やっぱこういうとこなんだよな……。楓らしいって言うか…)」
伸ばされた手を掴み、歩き出す。ベンチがあるスペースまでの間も、ずっと気を使い、何より話題を途切れさせないように話し続けた。
そしてその後ろでお節介なバカ女達は―――
「うわぁ…いいな彩那。私もあんな風に手を引かれてデートしてぇな……」
「ちょ、あず。欲望さらけ出さないで。私達の使命は彩那の恋愛を遠くから見守り、ココぞと言う時にプッシュしてあげる係! その使命を忘れないで!」
「そんなんどうでもいいから彼氏欲しぃ…」
「あず〜!」
「先輩達ぃ…二人とも行っちゃったよぉ…」
由緒ある生徒会メンバーの重鎮は、大きなモールで警察に呼び止められ、ど真ん中で泣き出す。もう生徒会の威厳なんて言葉は存在しない。
「……私ちょっとお手洗い行っていい?」
「! あぁ悪ぃ。じゃあ…あの辺で待ってるから」
二人が目指しているのはフードコート。その途中で……まあ、デリカシーゼロ男にしては結構気を配った方だ。
日々、余計な一言を言ってる楓だが、黙ってたり余計な一言が無かったら、結構いい男なのだ。それも拓斗に負けないぐらいに。
「……はァ…はァ……どうしたのかなぁ……」
通路を曲がった先で、彩那は壁に手を着いて呼吸が荒くなっている。幸いなのか不幸なのか、中には誰もいなかった。
「……どうしよ……」
ハッキリとは言っていないが、楓とのデートの途中。原因不明の体調不良に襲われたぐらいで諦めるわけにも行かない。なにより、彩那のプライドが許さない。
「……薬…どーやって買いに行こ……」
彩那が相当苦しんでいる中、楓は―――
「…明日は彩那の誕生日ッ! やるしかないよなっ!」
と息巻いていた。実は今回の買い物。さり気なく彩那への誕生日プレゼントを買うつもりだった。楓の思いと彩那の思い。二人の思いが交わる中―――
「ん〜! 美味すぎ!」
「……やべぇ。これ美味すぎなっ!」
「…後三十個はいけるっ」
澪達は、フードコートで満面の笑みでアイスクリームを頬張っていた。
「…彩那達…大丈夫かなぁ」
ピンチの少女と、息巻く少年、おバカな主人公&先輩達。様々な思いと飲食店を見ながら、つかの間の平和を楽しむ。この後あんなことが起きるとは―――
「って、そんな事起きるわけないじゃん。これは『ラブ』コメだからにゃー。アイスうまっ!」
………続く。




